ダンジョンの主

 さすがにそろそろ中を確認したい。

 そう思い、イルマに爆発の手を控えるように伝えた次の日、手に爆発薬をもって意気揚々とダンジョンへ向かったイルマが慌てた様子でやってくる。

  

  

「クルト、大変だ!」

「別に錬金術に失敗したことなら大変でもなく日常だぞ?」

「そんなことあるはずないだろ!? ボクが失敗したのはたまたまだ! って違う。そういうことを言いたいんじゃない」

  

  

 どうやらいつもとは違うことが起きたようだった。

  

  

「それならなにが起きたんだ? ユナの料理が成功したのか?」

「……クルトはボクたちを一体何だと思ってるの!? とにかく早く来て!」

  

  

 イルマに引っ張られてクルトがやってきたのは例のダンジョンだった。

 ただ前とは違い、その傍で赤く巨大なトカゲが倒れていた。

  

  

「なるほど、確かにこれは食いきれないな。腐らせるのももったいないし大変だ」

「だよね? どうやって処理したらいいかな?」

  

  

 当たり前のように食うことを前提で話が進む。

  

  

「ユナ……に任せるのはもったいないな。俺の屋敷から料理人を連れてくるか」

「ただ少しだけでもユナに任せてあげてほしいかな。ここを発見したきっかけにユナも影響するでしょ?」

「確かにな。それに食えないだけで使えないわけじゃないもんな」

  

  

 今回こうして大物が捕れたのもユナのおかげでもある。

 できることは少ないが精いっぱい彼女をねぎらうのも自分の役目だろう。

  

 クルトは納得したようでうなづいていた。

  

  

「おい、お主が我の住処に奇妙な煙を撒いたのか?」

  

  

 ――それにしてもまるで龍のような巨大なトカゲだな。見た目からして普通の龍にしか見えないぞ。

  

  

 ただ、空を飛ぶはずの龍が階段から降りる地下にいるはずがない。

 だからきっとただのトカゲなのだろう、と無理に納得していた。

  

  

「聞いておるのか? わざと無視していないか?」

  

  

 何やら隣でイルマが話しかけてくる。

  

  

「どうかしたか?」

「ボクのほうが聞きたいけど?」

  

  

 どうやら話していた相手はイルマではなかったようだった。

 そうなると話しそうな相手は……。

  

  

 クルト達の視線がトカゲのほうへと向く。

 先ほどまで気を失っていたはずの大トカゲはすっかり目が覚めており、クルト達をにらんでいた。

  

  

「イルマ?」

「うん、ちょっとピンチかもね」

  

  

 さすがのイルマでも完全に気絶していたトカゲがこんなに早く目覚めるとは思わなかったようだ。

 慌てた様子を見せるがまともな道具は持ち合わせていない。

  

 そもそも魔力を増幅させる聖女用の杖すらも研究所に置いてくるのはどうかしている。

  

 ただクルトのほうも急に呼び出されたこともあり、普段持ち歩いているはずの護衛用の剣を今日に限って持っていない。

  

 まともな対抗手段を持たずに目の前のトカゲを倒すのは困難であろう。

  

 すると――。

  

  

「あっ……」

  

  

 イルマが必死に使える道具がないかと探しているとそのとき放り投げてしまった爆発薬がそのまま吸い込まれるように大トカゲの鼻へと飛んでいく。

 そして――。

  

  

 ドゴォォォン!!

  

  

 まるでお約束とでも言わんばかりに爆発薬はトカゲの鼻にすっぽりと入った瞬間に爆発を引き起こしていた。

  

  

「ぐはっ。と、突然攻撃してくるなんてやはり主たちは敵のようじゃな」

  

  

 トカゲは口から咆哮を上げてくる。

 そのあまりの威圧にクルト達は思わず後ずさりをする。

  

  

「くっ、万事休すか……」

  

  

 そして、トカゲが全力でこちらに向かってこようと浮かび上がり、そのまま滑空し始めた瞬間に泡を吹いてそのまま地面に激突して意識を失っていた。

  

  

 命の聞きすら感じていたクルト達はさすがに何が起こったのかわからずに呆けていた。

  

  

「えっと、死んだのか?」

「違うかな? さっきと同じで気を失ってるだけみたい」

「今の間にとどめを刺すか」

  

  

 さっきの調子で襲われたらさすがにたまったものではない。

 幸いなことに今なら反撃されることなく倒せるのだからやる以外の選択肢がなかった。

 ただ問題があり……。

  

  

「それでどうやってとどめを刺すの?」

「へっ?」

  

  

 言われてはじめて気づく。

 先ほどまでまともな武器がなくて慌てていたところだった。

  

 それは今も変わらない。

 いくら抵抗しないトカゲがいたとしてもそれを倒せるだけの力はクルト達にはなかった。

  

  

「それならどうする?」

「……もう一回地下へと帰ってもらう?」

「それしかなさそうだな」

  

  

 クルト達は頷きあうと巨大なトカゲをなんとか階段へと押し込み、ついでに爆発薬でさらに奥へと押し込んだ上で入り口の蓋を閉じるのだった。




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