後編 その笑顔を守る為なら
僕の脅しにようやく屈したか。
男は性懲りもなく喚きはじめる。
「ぼ、ボクは当然の常識を書き込んだだけだ!
相互で評価つけあってポイント稼いだところで、クソゴミジャンルのクソゴミランキングにしか載れない底辺書き手どもに、当たり前の批判をして何が悪い!
そのくせ悪役令嬢ざまぁwでちょっとポイント取れたら調子こきまくる脳みそお花畑どもがよぉ!
あんなもん、ちょっとテンプレ通りに書けば誰だって軽く総合ランキングに載れるってのww」
「そう言いながら、貴方は一度も作品を掲載していませんよね。
貴方の言うゴミジャンルは勿論、テンプレに挑戦したことさえない」
「ぐ……!!」
図星をつかれて一気に目を白黒させる男。
しかしそれでもなお、この豚はへらへら嗤って抵抗を続ける。
「は、ハハ。ボクは無料のweb小説サイトなんてクソくっだらないモノには興味ねぇしw 漱石も鴎外も読んだことねぇような奴らの文章なんか、何の価値も」
「興味ないモノに対してわざわざ悪意の書き込みをすることこそ、地獄のようにくだらないと思わないんですか」
「な……ぐっ!
で、でも、タダで読めるあんなトコに小説とも言えないゴミ載せるなんて、頭足りないニートか専業主婦BBAのすることだろ。
まともに小説書きたいなら、web小説じゃなく公募にエントリーすべきだろうよw」
「貴方は公募したことありませんよね」
「ぐへ……っ」
「というか、ニートって貴方のことですよねぇ!?」
「ぐぼはぁあっ!!?」
あぁ、いかん。つい手に力が入ってしまった。
せいさんは毎日一生懸命仕事しながら、そのかたわらで必死に書いているのに……と思ったら、指に感情が乗ってしまった。
男は鼻血鼻水よだれ涙、あらゆる体液を顔面から噴きだしながら、それでも抗う。
「な、なにを……
総合ランキングにも載れない、いつまでたっても評価は〇ケタのまま、相互に頼らなきゃPVも真っ白、コンテストじゃ一次落ち当たり前ってw
さっさと筆折るべきだろうよ、そんな底辺書き手w むしろボクはそいつらの為にわざわざ……」
「一応聞きましょうか。
貴方はその書き手たちの作品を、一度でも読んだことがありますか」
「ケ、馬鹿にすんじゃねぇw 読むわけねぇだろゴミどもの書いたクズの塊なんてww」
その瞬間。
男を掴んでいた僕の手首から、電撃が発生した。
当然それはバチバチと唸りを上げ、男の全身をほとばしる。
「ぎ、ぎやあぁああぁあぁぁあぁあ!!!?」
「作品を一文字も読まない貴様に、書き手の何が分かる!
書き手や作品への評価は、せめて最初の1ページを読んで初めて出来ることだ。
それすらせず、数字とジャンルとランキングしか見ない輩に、書き手をゴミだの底辺だのと断じる資格は一切ない!!」
「そ、そんな……時間のムダ……っ!!」
「貴様の書き込みこそ、時間のムダの極致だろうが!!」
強烈なまでに男の体内を駆け巡る電撃。
最早下半身からも臭い体液が溢れ出し、床を汚していく。
それでも僕は魂の底から、絶叫していた。
「殆どの書き手たちはその命と魂を燃やし、日夜戦場に立ち続けている!
それを罵り嘲り嗤うというなら、この僕がいつでも、その首を引きちぎる!!」
「ひ、ひぐぁあああぁあぁあぁぁぁああぁ!!」
そんな絶叫と共に、男の頭は豪快にぱぁんと音をたてて弾け飛んだ。
部屋中にまき散らされる、血液と脳漿。
だけどせいさんには一切、それらの汚い液体はかかっていない。大丈夫だ。
僕は男を掴み上げた体勢のまま、スマホの画面をちょいとタップして確認してみた。
あの匿名SNSからはもう既に、綺麗に消失していた。あの悪意ある書き込みのほぼ全てが。
同時に音もなく、スマホへと吸い込まれていく男の身体。
大丈夫――本当に殺したわけじゃない。
死と同様の幻覚を味わわせただけだ。実際に奴が死んだわけではないし、さすがの僕でもそんなことは出来ない。
恐らく奴は、酷い悪夢を見たと思うだけだろう。
ただ、奴の脳を僕がぶっ潰したことで、あの不埒な書き込みも、それに関する奴の記憶も全て抹消された。
奴が同じことをする心配は当分、ない。
もし奴が同じことを繰り返しても。
また、似たような真似をしてせいさんを傷つける輩が出たとしても、僕は同じことをするだけだ。
せいさんが平穏な作家生活を送る為なら、僕は――!
「う、う~ん……
はっ! も、もうこんな時間!?」
次の朝、ようやく起きてくるせいさん。
僕は得意のベーコンエッグを用意しながら、彼女を振り返る。
「大丈夫ですよ、せいさん。
今日はお休みですから、ゆっくり執筆活動に励んでくださいね」
「あ! そうだった~
早速通知チェックしなきゃ!!」
起き出すや否や、彼女はすぐにPCで自分のマイページと作品のチェックを始める。
通知にあんまり囚われるのも良くないんだけどなぁ……
「せめて着替えて、顔を洗った方がいいですよ。
それから、ちゃんと朝食食べてくださいね。栄養とって、いいもの書きましょう」
「うん! いつもありがと、トワくん!!」
すっかり元気を取り戻し、僕の用意したベーコンエッグにぱくつくせいさん。
こういう切り替えの早さも、彼女の良さのひとつだ。
彼女は食べながら、PCをチェックすると――
ふと、ぱあっと笑顔になる。
「トワくん、見て見て!
あたしの新作長編、20日ぶりに評価ポイントついたよぉ~!!」
とても晴れやかな、せいさんの笑顔。
昨日あれだけギャン泣きしていた面影は、もはやどこにもない。
「それは良かった!
今回の戦闘シーン、滅茶苦茶頭悩ませながら書きましたもんね~!」
「うんうん。ゲロ吐きながら頑張ったよ!
コンテストには箸にも棒にも引っかからなくても、こうして一人でも評価くれる人がいると、やっぱり嬉しいよね!!」
僕がいれたコーヒーをがぶ飲みしながら、せいさんは元気よくガッツポーズする。
「よーし、今日も頑張って書くよ~!
何百回底辺って言われたって、絶対見返してやるんだから!!」
顔を洗ってないままでも、頭がボサボサでも、世界一可憐なその笑顔を見るたび、僕は思う――
この瞬間の為に、この笑顔を見る為に、僕は生まれてきたのだろうと。
――なら、その笑顔を穢すような輩は、いくらでもぶっ潰す。それが僕の役目だ。
僕はせいさんの飲み干したペットボトルを一本、グシャッと豪快に片手で潰しながら、そう心に誓っていた。
Fin
人気Vtuberそっくりに造られた僕は、愛しの造物主を底辺呼ばわりする奴らを許さない kayako @kayako001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます