第45話 そして少年たちは歩き出す

 あれから数か月がたった。


「久しぶりだな。この世界も」


 僕は、ブレイヴロワイヤルの世界に降り立っていた。

 と言っても、前のように”ユウヒ”でではない。

 アバターの名前は”トモカ”。

 自分用の『ドリームウォーカー』を購入し、ブレイヴロワイヤルにログインしている。


 そして僕と一緒にログインしたユウヒも、懐かしそうな顔をしている。

 もちろん中身は本物の方だ。


「久しぶりの剣だ」


 ユウヒは以前のビルドに戻してある。

 装備もステータスも、勇陽が使っていた時のものだ。


「お二人がこんな風に並んでるのを見るのは、なんだか不思議な感じです」


 やってきたのは委員長……いや、カナホだ。

 その姿を見るのも、なんだか懐かしい。

 ユウヒとカナホが並んでいるのを眺める、というのも不思議な感覚だ。


「ん? どうした?」


 まじまじと見つめていたのがばれた。

 この前まで自分のものだった顔が目の前にいたのが妙に面白かっただけなのだが。


「いや、なんでそんなイケメン顔にしたのかなって」


 そう尋ねると、勇陽はきょとんとした顔で、


「え、友夏に似てるだろ? この顔」


 とこともな気に言ってきたので、思わずカナホの方を見る。

 彼女も困った顔をしていた。


「勇陽の中で僕はどんだけ美化されてんだよ。それに、理由になってないぞ」


「いやー離れていても、この顔見たら友夏と一緒みたいっていうか……って何恥ずかしいこと言わせてんだこのヤロー!!」


 1人で暴露して、1人で恥ずかしがっている。忙しいヤツだ。

 もはやツッコミどころしかない。


 さて、もちろん懐かしむためにこのゲームにログインしたわけではない。

 以前約束した、勇陽との決闘。

 フリーバトルモードで、1対1で戦うためだ。

 観戦者として、カナホが側で僕らを見守っている。


「これで、私の役目も終わりですね」


「え? 役目?」


「お2人が離れ離れになってから、もう1度会えるまで、私が2人を繋いでいよう。2人のためにサポートしよう。ずっとそう思っていたんです。もう、私が一緒にいる理由はないかもしれません」


「何言ってるんだよ。委員長にはこれからも一緒にいてくれないと困る」


「え?」


「ただでさえ厄介な勇陽が、体がまだ十分に動かないせいでそのエネルギーを持て余してるんだ。僕1人じゃ抑えきれない。……それに、あいつに勝つんでしょ?」


 そう囁くと、彼女は満開の花のような笑顔を見せた。


「……ええ! 絶対に、勇陽さんより先に心野君を落としてみせますから!!」


「……お手柔らかに頼むよ」


 本気を出されたら正直負ける可能性が高い。

 勇陽というよりは、僕が。


「おーい2人で何やってんだよ!! 待ちくたびれちまったぜ!!」


 ユウヒが我慢しきれずにぴょんぴょん跳ねている。


「今行くって!」


「カナホ! どっちが勝つか、きっちり見届けてくれよ! 終わったら、なんか3人でやれるゲーム探そうぜ!」


「え、3人?」


「おう。探せば3人チームのゲームぐらいいっぱいあるだろ? 次はこの3人で頂点てっぺん目指すぞ!」


 勇陽は、当たり前のようにそんなことを言った。

まったく。人の気も知らないで。

 委員長は、ちょっと泣いているような、笑っているような、そんな表情をしていた。


「それはいいけど勇陽。一応言っとくけど、僕たちも大学受験に向けて準備しないといけないんだぞ」


 大学受験、という単語を聞いてうんざりしたような顔になった。


「嫌なこと言うなよ〜〜〜せっかくまたドリームウォーカーで遊べるぐらいになったんだから、思いっきり体動かしてる気分を味わいたいんだよ〜〜〜」


 やれやれ。

 フリーバトル用の試合場に立ち、剣を構えて勇陽と向かい合う。


「なぁ友夏」


「ん?」


「ありがとな」


 それが何に対する感謝なのか、深くは聞かない。

 ただ、僕も一言で返す。


「気にするな」


 そのまま、地面を蹴り剣と剣をぶつけ合う。

 僕たちはまだ、自分の足で、自分たちの道を歩き始めたばかりだ。

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真っ赤な夕陽を追いかけて ~ブレイブロワイヤル~ ゼニ平 @zenihei5

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