寄生品

星雷はやと

寄生品



「ふわぁ……眠っ……」


 俺は欠伸をしながら、布団から起き上がる。見慣れない内装に、昨晩は大学の友達の家に泊まったことを思い出す。


「おはよう、青木。朝はパンで良いか? 酷い寝ぐせだな。顔を洗ってこい」

「おう……はよぅ……」


 キッチンから顔を出した友達に促され、洗面所へと向かう。友達の日向は良い奴だ。サークルの飲み会で終電を逃した俺を家に泊めてくれ、朝食まで用意してくれている。お礼は何が良いだろうかと、寝起きの鈍い頭で考える。


「歯磨き粉……」


  新品の歯ブラシを手に取る。これは常備品だと日向が出してくれたものだ。至れり尽くせりだ。もう代金を支払った方が早いのかもしれない。そう思いながら、歯磨き粉を手にして黒いチューブを押した。


「……は……」


 俺はチューブを押し、歯磨き粉を出した筈である。だが歯ブラシの毛の上には、紫色の触手のような物体が乗っていた。それは鈍く動き、ぬるぬると光沢を持ち吸盤のようなものが存在している。何故こんなものが、歯磨き粉から出てくるのだろう。非現実的である。


「……あ……」


 呆然と紫の物体を観察していると、触手に線が入った。そこから金色の眼球が現れ、俺を映した。何故か謎の物体から目を逸らすことが出来ない。


「…………」


 嗚呼、この物体を無性に口に入れたい。いや、入れないといけない。これは義務であり救済だ。湧き上がる衝動と本能に従い、歯ブラシを口に入れる。


 金色の瞳が愉快そうに細められた。



「青木、歯磨き粉無かっただろう?」

「……え……? あ、日向?」

 

  友達の声に、はっと我に返った。日向から話しかけられるまでの記憶が曖昧だ。確か身支度を整える為に、洗面所を訪れたまでは覚えている。しかし歯ブラシを咥えているが、何も味がしない。歯磨き粉無しで、歯磨きはできないだろう。今日の俺は寝ぼけ過ぎているようだ。


「まだ寝ぼけているのか? ほら、歯磨き粉。新しいやつ出しておくのを忘れていたから、悪いな」

「いや……ありがとう」


  呆れたような顔をする日向から、白いチューブの歯磨き粉を受け取る。泊まらせてもらっているのに、気遣ってくれる良い奴だ。


「寝ぐせも直せよ? もう朝食出来るからな」

「嗚呼、直ぐに行く」


  洗面所を去る日向に返事をする。


「……え……」


  正面に向き直ると、鏡に映った俺の瞳が金色に変わっていた。

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寄生品 星雷はやと @hosirai-hayato

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