第6話 水面

武闘派のプレイヤー「ハンツ」は、京狐と優馬を追跡し、2人の会合に乱入した。

しかし、逆にハンツを追跡し、その正体を暴こうとしていた人物がいた。

その人物もプレイヤーであり、固有能力である「感知(サーチベント)」を使った。ユニティの「電撃(スタンベント)」もこの固有能力にあたる。

能力は、他のプレイヤーのいる方角を感知、さらに半径50メートル内ならば盗聴など詳しい情報も得ることが出来るゴーグルを、カード使用者に付与するというものだ。


この能力を使い、エンブレムたちを見ていた人物は、、、。

物語は、京狐がプレイヤーとなる1週間前に遡る。


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私立羽巣(わそう)女学園。都心から少し離れた場所に位置する、高所得者向けのいわゆるお嬢様学園である。

昼前最後の4限の終了のチャイムがなり、生徒たちは一斉に肩の力を抜き、仲間のもとへ向かう者や学食を食べに向かう者、弁当を広げる者と別れ始めた。


そんな中、立ち入り禁止の屋上で1人黄昏れる生徒がいた。

彼女は、破られた安全用フェンスの外側に立って、青い空を見ていた。


学校に隣接する森から、1羽の鳥が飛びったったのが見えた、と同時に、屋上へ出るドアが勢いよく開いた。


「はぁはぁ、あっ!いた!!」

フェンスの外側にいた生徒がそれに気付き振り返る。

「なにしてんの、ル、鯆流(いるかる)さん!」

「サラ。」

屋上へ上がってきた生徒、桜塚 梟(おうつか さら)は、今にも身を投げ出しそうな生徒、鯆流 ルカ(いるかる るか)のもとへ歩み寄った。


「そっちこそ、何しに来たの、委員長さん。」

「危ないよ。そんなとこいたら。」

その時、大きく風が吹き、ルカとサラを仰いだ。

サラは駆け寄ろうとした。

「来ないで!!ほっておいてよ。って言っても、あんたには無理か。」

「ねぇ、何かあったなら私話聞くからさ。力になるからさぁ。こっち、来てよ。」

ルカは、少し笑い言った。

「変わんないね。あんた。知ってたけどさ。」

サラは心配の目と、手をルカへ差し伸べる。


カランッカチャカチャ。どこからか、何かが音を立て2人を隔てるフェンスのそばに降り落ちてきた。

落ちてきた物を見るため、2人は近づいた。一瞬目を合わせ、ルカは気まずそうに目を逸らした。

落ちてきたのは、2枚のカードデッキだった。まずルカが青いデッキを手に取り、サラは白いデッキを拾った。

「なんだろう、これ。降って、来たよね?」

サラがそうつぶやくが、ルカは反応しなかった。


「おめでとうございますぅ!あなた方は選ばれました!!」

突然、そう言う声がした。声は、ルカの後ろ、昨晩降った雨の水溜まりからした。

2人は驚きその方向を見ると、水溜まりの中から、高級そうなスーツを身にまとい、金色のステッキを持った男が現れた。

「私、本ゲームのオーガナイザーを務めさせていただきます、アンダーターと申します。」

2人は目の前で起こる現実離れした状況の処理に手一杯だった。

「オーガナイザー?」

「主催者とか幹事とかって意味。」

ルカのつぶやきにサラがこそっと耳元で囁いた。

ルカは、は?知ってるし、という目線をサラへ送る。


「あなた方はゲームへの招待状を獲得しました。」

「何かのイベントですか?これ。」

ルカが先陣して質問する。

「はい!!あなた方は、鏡の世界、ミラーワールドにて、その世界に生息する魔物、ミラーモンスターと契約を交わし、最強の戦士を目指す。」

アンダーターと名乗る男は、先程までいた水溜まりの中に潜ると、ルカとサラの周りの水溜まりを点々として現れた。

ルカは、どんな技術だと、サラは大道芸を見るかのように、男を目で追った。

「へぇ、面白そうじゃん。ねぇ?委員長。」

ルカが笑顔を見せ、珍しくはしゃいでいる様子を見せた。

「え?う、うん、そうだね。」


「見事、最強の戦士になられた暁には、、、どんな願いも、1つ叶えて差し上げます。」

アンダーターはサラの真隣に立ち言った。

「どんな願いも?」


「ええ、どんな、願いも。」


ルカが安全用フェンスの穴から、内側に入ってきた。

「私やるよ。でも、絶対叶えて貰うよ、私の願い。」

ルカが飛び降りることを考え直してくれた安心よりも、こんな突拍子の無い話について行く心配の方がサラは強かった。

「素晴らしい!!決断がお早いですねぇ。それで、桜塚様はどうなさいますか?」

「えっ!?どうして、名前。」

「お二人の参加を選考したのは我々ですので。」

今日よりも前から、目をつけられてたってこと?いつから?やっぱり怪しい。

ルカはなぜ、こんな見るからに怪しい男の言うことに賛同できるのか。怪しさに気づいていないのか。

アンダーターの勧誘に悩み込むサラへ、ルカは割って入った。

「この子はいいよ。私一人でいい。」

サラはルカに庇われた。


ルカはわかっているのだ、アンダーターが言っていることの奇怪さを、そんなこと。

彼が主催するゲームに参加することで、こちらが一体何を得られ、何を失うのか。金か、名誉か、命か。

だが、そんなことが頭にあるのにも関わらず、ゲームへの参加を表明したルカ。

もう失って困るものは何もない。どうせ死ぬんだから。

サラは、自分を庇うルカからその様な気概が感じられた。


昼休みが終わり、5限開始5分前の予鈴が響き渡る。

「ほら、委員長。あんたは帰んな。授業遅れるよ。」

 

 気づいてるくせに。自分が抜け出せない依存率100%の違法薬物に手を出そうとしていることに。人を捨てる、選択をしようとしていることに。

 

 ルカは、昔っから私を守ってくれた。いつも、私の味方でいてくれた。

 私も、ルカみたいに誰かを守れるくらい強くなりたくて、誰彼かまわず人を助けた。そのうち人が集まってきた、助けを求めて。

 あなたが見えなくなっていった。

 

 「私も!やります!!」

 今まで、ほっといてごめん。今度は、私が、あなたを守る。


 「はぁあ!?」

 「おぉお!!さようでございますか。」

 ルカとアンダーターが目をまるくする。

 「ちょ、ちょっと待ってよ委員長!あんたは帰んなっつってんだろ!こんな怪しいの、あんたには似合わない。そもそもあんたにもう望むもんはねぇだろ。」

 「あらやだ、私にだって望み事くらいあります。それに、怪しいとわかってるのに。あなたもまだ危なっかしい。委員長として、ほっとけないわ。」

はぁ??って言う顔をしたルカ。誇らしげな顔をするサラ。


5限開始のチャイムが鳴った。

アンダーターが2人の持つカードデッキを示し言った。

「それでは、そちらのカードデッキを、鏡や窓ガラス、水面、何か物を映す所にかざしてみてください。」

サラとルカはデッキを手に持ち、辺りの1番大きい水溜まりの元に立った。

水面は2人の姿と青空をくっきりと映していた。

2人は互いを見合わせ、アンダーターに言われるがまま、デッキを水面にかざした。


すると、どこからともなく、謎の形状をした金属製のベルトが水面に映る2人の腰にそれぞれ巻かれた、と思ったら実際に2人の腰にベルトが転送されていた。

「ちょ、なにこれ。」


当然の疑問にアンダーターが答える。

「それは、『Vバックル』。映す物にデッキをかざすと、自動的に腰に巻かれる、変身・戦闘補助装置です。」

「へん、しん?」

アンダーターはベルト正面の何か物をさせそうなスロット部分を指さし答える。

「そのVバックルに、今お持ちのカードデッキを差し込んでみてください。」


何が起こるのか若干ためらうサラだったが、ルカはすんなりデッキをバックルに差し込んだ。

すると、ベルト上部に取り付けられた赤いランプが眩しい光を放ち、その光にルカが包まれる。

光に目が慣れた時には、既にルカは薄青色のアンダースーツに鈍い紺色のアーマーと異質な仮面を被った戦士の姿へと変身していた。

「ええぇ!!?」

サラが腰を抜かす。

「なるほど、これが変身か。」

ルカは状況をすんなり受け入れている。どうしてそんな冷静でいられるんだ、とサラは思った。

ルカが異質な仮面でサラを見た。ビクッとなるサラに、やるなら早くしろ、という視線を送った。

今度は自分の番かと顔を歪ますサラ。未知の体験に緊張しつつも、恐る恐るルカがやったようにデッキをバックルに差し込んだ。

同様にベルトのランプが光る、同時に自分の身が優しく何かに包まれる感覚を覚えた。

恐怖でつぶった目を開けると、確かに自分もスーツを着ていた。しかし、痛みも蒸れてゴワゴワすることもなく、完璧に自分に繕われたようなスーツだった。

水面に映る自分を見た。アンダースーツはルカと同じ薄青色、ルカとは形状の違う白を基調としたアーマーと仮面を身につけていた。

仮面は、被ってるとは思えないほど視界は良好だった。


「おふたりとも、体験者スーツへの変身を完了させたようですね。」

「体験者?」

「おふたりは現在ブランクプレイヤー、体験者として、このゲームに仮エントリーなさいました。」

「仮って?」


アンダーターが2人の間に割って入り、水面を指さした。

「正式にプレイヤーとなるにはまず、この中に入って、ミラーモンスター一体と契約を結ぶ必要があります。」

アンダーターは、そんな水深がある訳ないただの雨水溜まりの中に飛び込み、潜り込んだ。

さっきも見た大道芸だが、間近で見るとそれがトリックとは思えなかった。


水溜まりの中から、アンダーターは言った。

「さぁ、行きましょう。鏡の世界。ミラーワールドへ。」


2人は少しお互いを見て、心を決めて、水溜まりに飛び込んだ。




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エンブレム -A peace of mirror- @yurakun

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