第25話

エピローグ

 


 僕は自分が見た夢をおぼろげながらにこう記憶している。

 僕には二人の友達がいて、僕はその二人が敷いた希望のカーペットの上をこの半年間歩き続けるのだ。希望のカーペットは美しいけれど、希望は闇から生まれ、その闇はずっと僕の友達の心にあった。その闇は、最初からあったものではなくて、僕が生み出したものだった。僕は友達の心を黒く塗りつぶしながら、カーペットの上を進んだ。とても長いカーペットの上を。

 僕はカーペットを歩くとき、自分の殻に籠って色んなことに苦悩した。そんなときいつも二人の大人に助言を受けていたような気がする。そのうちの一人は父親だった気がする。その人は迷いそうな僕にいつも助言をくれていた気がする。もう一人は誰だっただろう。母親だったのだろうか。なんとなくだが、母親だったような気がする。とても綺麗な女性だったのを憶えている。

 僕は、あるときは笑い、あるときは悲しみながら、あらゆる感情の軌跡を残しながら歩き続けた。

 詳細な内容は憶えていないが、夢の中での物語の輪郭は頭に残っている。人物の輪郭も残っている。けれど輪郭にどんな心を当てはめれば、僕の夢に出てきたその人たちになるのかはわからない。

 けれど一つだけ言えることがある。

 彼らの輪郭の中身を生み出すことも、思い出すことも僕にはできない。

 けれど、その輪郭の中身を色鉛筆で塗るのなら僕は優しい色を、先に輪郭の淵をなぞりはみ出ないようにした後、丁寧に中身を塗っていくだろう。

 彼らが僕にそうしてくれたように、次は僕が彼らのような人にそうできるように。

 僕がカーペットを降りて、光が向こう側に待つその扉まで導いてくれた人たちのように、そうしたいと心の底から思う。

 僕が記憶しているのはそこまでだ。

 だが何かを忘れているようなが気がする。僕がカーペットを降りる直前まで、僕の隣を、他の誰かが歩いていたような気がするのだ。そしてその少女は僕にとって大切な人だったような気がするのだ。

 しかし思い出せないことを思い出そうとしても仕方がない。思い出すための巡りあわせを神様が用意してくれるかもしれない。

郷愁に浸っていると教室まで僕を案内してくれた教師が中に入っていった。緊張をしてしまい僕は胸に手を当てた。その状態で待った。入っていいよと教師の声が聞こえた。僕は深呼吸をして教室に入った。そして前に立ち、ぐるりと室内を見回した。たくさんの生徒が席について僕を注目していた。だが僕の意識の中に彼ら彼女らの存在は介在しなかった。たった一人の少女を除いて。

紅一点と言わんばかりに僕の眼球は一人の少女を認め固定されていた。目の前にいる少女に似た誰かを僕は見たことが有るような気がした。

 涙で視界がぐちゃぐちゃになった。

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僕が転移したこの世界はとても居心地が良くて、そして異質だった ぶどうとー @dddjnoore1

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