第24話

ユリナはまだ生きているのではないか。もしかすれば死んでいるのかもしれないが最後まで精一杯頑張った果てに死んだのではないか。この世界の時間間隔と現実の世界の時間間隔にどれほどの差異があるのかはわからないがもしも僕が落ち込んでいる間にもユリナが戦っているのだとすれば、僕はきっともう二度と自分を許せなくなるのではないだろうか。自分を好きになることもできなくて、何かを好きになったりすることもできないのではないだろうか。そう言う風に思った。ふと思った。

「いつ向こうの世界に戻れるの」と僕は父さんに訊いた。この質問は一度はぐらかされていた。

 父さんは眉に皺を寄せた。そのまま数秒の間押し黙った。

「生きるための力を得た時だ」と父さんは言った。「絶望して再起不能になった人間が再び自信を得た時、この世界から脱することができる」

 その言葉が最後の一押しとなり僕は学校に行くようになった。ネオンやツユハには自己満足のために謝罪をした。結局どうして学校を休んでいたんだとネオンとツユハは疑問に思っているようだった。その疑念を解消することはもう不可能だがそれでいいやと思った。お礼もした。一緒に修練に励んでくれてありがとうと言葉にした。ユリナと一緒に剣を振った思い出が二人の記憶に残ってることはないが、僕の頭の中には残っていて、ダイヤモンドのように輝いていたからそう残した。

 先生にも謝罪をした。心配をしてくれたのにその行為を無下にして悪かったと謝罪した。そして魔法を扱う際にアドバイスをしてくれたことのお礼を言った。先生の存在はユリナの支えにもなっていたはずなので言葉を残した。

 クラスメイト達はやたらと僕に絡んでくるようになっていた。ユリナの存在が一切なくなり、僕への認識が大きく変わったようだった。

 一日の学校での生活を終えると本当にユリナはいなくなっているのだなと実感できた。それが嫌で今まで家に籠っていたはずだったが、いざ体感してみると割とすっきりしていた。涙は零れるが、いなくなったのは本当にそれだけのことで、僕はその、それだけのことで涙を流しているのだなと思った。

 それからも学校に通い続けた。二週間くらいの間真面目に学校に行った。休日はネオンやツユハと色んな所に出かけた。ネオンがいなくなったときに、ツユハがキスをしてきたこともあった。ツユハの告白を断った身としては複雑だったが正直嬉しかった。ツユハの告白を断るときに僕は他に好きな人がいると言った。そしてここにはいないと言った。できるだけ詳細に説明をするとツユハ泣き出した。意味不明な断りかったからないたのだろうと思うが当然だった。だが本当に嬉しかった。愛想をつかされていないことが嬉しかった。

 そうしているうちに世界が滅びる一か月前になった。ネオンがいきなり僕と勝負をしたいと行ってきた。学校の庭で勝負は行われたが僕の完敗だった。やっぱり僕にはツユハがいないとダメなようだった。修行で培った力は発揮できたが、問題は精神面にあったのだろう。ネオンは喜びを嚙み締めていたのがなんだか悔しかった。だから次で勝った方が最強だと言うと、戦いに乗って来てくれたがやっぱり僕が負けた。僕が悔しそうにしているのを見るネオンはにやにやと嬉しそうにしていた。


 夜眠るときにそれは起こった。僕の体を光のベールが包んでいた。僕が驚いていると、父さんが慌てた様子で部屋に来た。

「やっとか」と父さんは言った。「お前は生きるための力を再び手に入れた。お前は強くなったんだ。だからもうこの世界にいることはできない」

「本当にごめんなさい父さん」と僕は謝罪した。「正直に答えてよ。この日のための振る舞いだったんだよね、今までのは全部」

「そうだな。その通りだ」

「今までありがとう父さん」と言い終えると目頭が熱くなった。「最後やつあたりして……ごめんなさいっ。……父さんのアドバイスは、ためになったよ……僕の気持を楽にしてくれたし……理想の父親だったよ……っ。父さんはさあ、この世界から出られないの……っ」

「俺はもう終わってるんだ。何も感じない。俺が感じるのはお前やユリナみたいな家族にたいしての感情だけだ。だから俺からすれば世界が滅びることは救いだ」

「そっか」

「そうだ」と言い、父さんは静かに笑った。

「父さん、ごめんね」

「なにが?」

「掌の正の字が一つ増えちゃう。痛いよね」

「気にするな」

「最後に一つだけ聞いてもいいかな」

「なんだ」

「世界が滅びるってう——」

 瞬間、僕の魂は時空を飛び越えた。

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