生徒会とフェアリーテイル〜たとえ君がいなくなっても〜
@rinka-rinka
Episode
北海道札幌市にある「丘珠空港」
実はこの空港ができる前は、ちょっとした森があったんだ。
これはある学校の高校生たちと、森の妖精と、空港建設に関する話だ。
――――――――――――――――――――――
私は森下李萌。読みづらいかもしれないけど、りもえって読むんだ。
舞姫高等学校っていうところに通ってて、生徒会副会長をしてる。
バドミントン部に所属してて、結構強いんだよ?
まあ、勉強の方は歴史科目以外ダメダメだけどね。
まあいいや。今日は生徒会メンバーと近くの森にフィールドワークに来てるんだ。
「今回はあまり深くには入りませんので、知っておいてくださいね。」
生徒会長の如月結月(きさらぎゆづき)先輩がみんなに言う。
「では、行きましょう。なにか気づいたことがあれば遠慮なく言ってくださいね。」
しばらく私達は急ではないが楽でもない森の中を通っていく。
森に入って20分くらい経った頃、私は違和感を覚えた。
「こ、声…?」
「どうしましたか、李萌さん?」
「如月先輩。さっきなにか声が聞こえた気がしまして…。」
「声、ですか。みなさん静かに!少し耳を澄ましてみましょうか。」
「…ぁれ? き…ち、だ…れ?君た…だぁれ?」
「本当ですね。なにか聞こえます。…君たち、だあれ?と言っているように聞こえますね」
「ねえねえ、君たちだぁれ?」
「うわっ!!」
急に目の前に現れたのは…
「よ、妖精?」
「そうだよ〜。私はこの森の妖精でフェアリーパールって言うんだ!君たちは?」
「ええっと、私たちはこの森の近くの学校の生徒です。この森には簡単に言うと探索に来ました。」
如月先輩の言葉にフェアリーパールは、嬉しそうに笑った。
「にしし!いやあ人に会うなんていつぶりだろう?あ、私のことは気軽にパールって呼んでいいよ!そっちの君もよく私の声に気づいたね?名前教えて?」
「あ、えっと、森下李萌と言います!パールって妖精さんなんですね。白色の羽がとっても綺麗です!」
「えへへ、ありがと!君のこと気に入ったよ!それじゃ、また会えるといいね!バイバイ!」
パールは風のように去っていった。
「不思議な体験でしたね。特に、李萌さんは気に入られてましたね。」
「ははは、そうですね。なんだか嬉しいです。」
それ以来私達生徒会メンバーは定期的にパールに会いに行った。
毎回パールに会えるのを楽しみにしていたし、パールも嬉しそうに笑ってくれるから、森へ行くのが好きになった。
ある日、生徒会室で私は書類作業をしていた。
「ねえ、李萌さん。これを見てもらえますか?」
そう如月先輩は言って、自分のスマホの画面を見せてくれた。
「丘谷空港建設へ
現在辺り一帯が森になっている、この地域に新しく空港を建設することが決定しました。つきましては、来月から森が切り拓かれ、空港建設に向けた作業が行われる予定です。」
「こ、これって…。もちろんパールは知らないよね?」
「ええ、そうだと思います。そして森がなくなるとパールの居場所はなくなってしまうでしょう。」
「そんな!それってパールがかわいそうだよ!」
私は思わず叫んだ。
「李萌さんの気持ちはわかりますが、私達以外にはパールの存在を知っている人はいませんし、なにより建設が決定した今、森が消失するのは避けられないでしょうね。」
「だ、だったら!とりあえず、パールに伝えなきゃ!!」
「ええ、李萌さん。私もそのことを考えていました。みなさん、今日の作業は中止、森へ行きますよ!」
急いで準備を整え、私達は森に入る。
「やあ、また来てくれたんだね!嬉しいなぁ!」
「ねえ、パール。この森が近いうちになくなって空港が建設されることに決まったらしいんだ。だから、パールの居場所はなくなっちゃうと思う。」
「え、そうなの?それを伝えに来てくれたんだ。ありがとう!でもいいんだよ。実はね、こう見えて私の命はもう短いから。意外でしょ?見た目は若いのにさ」
「え、嘘でしょ…?パール…?」
「本当だよ。でもさ、そんなに落ち込まないでほしい。生涯の終わりに君たちとの時間ができて本当に嬉しかったんだよ。だから、そんな顔しないでくれ。」
「うん…。じゃあね、パール…。」
私達は森を出た。
みんな無言。結局ろくな会話もなく、それぞれが家路についた。
私は家に帰ってからもパールのことが頭から離れなかった。
このままじゃパールがかわいそう。
でも私に何ができるんだ?
たかが高校生の私に。
それでも私は諦めない。
一晩中考えた結果、私はある案を思いついた。
明日は全校集会がある。
そこが勝負だ。
―――――――――――――――――
体育館には全校生徒が勢揃いしている。
ここで失敗は許されない。
私は如月先輩と壇上に上がる。
「皆さん。聞いてください。この前我が高校の近くの森を開拓し丘谷空港が建設されることが決まりました。私たちにとってあの森は思い入れがある場所だと思います。そしてあの森にはある妖精が住んでいます。ここからは森下さんに託します。」
ここでバトンタッチだ。
「ただいま紹介に預かりました森下です。先程も述べた通り森がなくなろうとしています。そして私たち生徒会メンバーはあの森に住む妖精パールと出会いました。白い羽が美しくて優しくて面白いんですよ。そんなパールの居場所である森。皆さんからしたらどうでも良いことかもしれません。ですが、どうかパールのために力を貸してくれないでしょうか。具体的には空港の名称にパールを意味する珠という字を入れて名称を丘珠空港にしたいと考えています。パールがいたという証が残り続けるように。この学校の全校生徒約900人の力を合わせて、署名を作りたいと思います。皆さん、どうか協力してください。心からのお願いです。ご清聴ありがとうございました。」
言いたいことは言えた。
拍手が鳴り響く。
やるべきことはやれた。
あとは署名を募る。
あの演説のおかげか、みんなが署名に積極的だった。
3日ほどで集め終わった。
意外だったのは先生も協力してくれたことだ。
とにかくこれで1000近い署名が集まった。
あとは私たちの努力次第だ。
その日のうちに署名一覧を持って役所に向かった。
責任者には会えないかと思ったけど、ラッキーなことにすぐに面会が許可された。
私たちは全校集会の時の演説のようにパールのことと私たちの思いの全てをぶつけた。
黙って聞いていた、ダンディなおじさん。このプロジェクトの最高責任者らしい。
「ふむ。君たちの話はわかった。パールという妖精の話を完全に信じることは難しい。しかし、あの森も長い歴史を持つ。妖精が住んでいるというのもあながち嘘ではないのかもしれんな。とにかく、君たちの要望である空港の名称を丘珠空港に変更すること。これをこの私、矢部孝の名において認めよう。」
「ありがとう、ございます!」
肩の荷が降りた気がした。
私たちはそのまま森へ向かった。
「パール?いるんなら返事して!」
程なくしてパールが姿を見せた。
「パール…え?どうしたの!?体調悪いの??」
パールは苦しそうな顔をしていた。
「前に言ったでしょ、私の命はもう短いって。もうダメだ。でもね、最期に君、名前は李萌だったかな、に会えて幸せだよ。勿論そのほかのみんなもね。」
哀しそうにパールは言葉を紡ぐ。
「あのね、パール。伝えたいことがあるの。この森はなくなっちゃう。でもね、このあとできる空港の名称を丘珠空港にしたんだ。珠っていうのはパールの意味。パールの生きた証が残るようにしたんだ。だからさ、パール、君がいなくなっても、私たちはずっと覚えてるよ。いつか私たちが死んでもその次の代がまたその次の代へと継承していってくれるはず。だから、君と最期に出会えて私たちも嬉しい!パール、お疲れ様。ゆっくり眠ってね。あとは私たちに託して、ね?」
黙って聞いていたパール。
やがて満足そうな笑みを浮かべて…。
身体が半透明になりそして、消えた。
「逝っちゃったね。じゃあね、パール、楽しいひと時をありがとう…。」
私の日常は変わらない。
バドミントン部で活躍し、生徒会の業務をこなし、テストで苦労する日々。
でも丘珠空港という文字を見るたびに思い出すんだ。
パールがいた森を。
パールとの会話。
パールの笑い声。
パールの満足そうな表情。
パールとの約束。
ねえ、パール。
どこかで見てるのかな?
私たちも頑張ってるよ。
だから、どこかで見守ってくれると嬉しいな。
生徒会とフェアリーテイル〜たとえ君がいなくなっても〜 @rinka-rinka
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