【推理ショートストーリー】反転された秘密

T.T.

【推理ショートストーリー】反転された秘密

 探偵ジャンヌはある日、富豪のジャックから盗まれた貴重な鏡「ザ・ミラー」の捜査依頼を受ける。「ザ・ミラー」はその類いのない美しさにおいて、鏡としてではなく芸術品としての価値で広く知られていた。

 ジャンヌとアシスタントのアン博士は丹念な捜査を行うが、手がかりは見つからなかった。だが、ある夜、彼らは驚愕の事態に遭遇する。何者かが「ザ・ミラー」を富豪の邸宅に戻していたのだ。忽然と消えた「ザ・ミラー」はまた忽然と姿を現わしたのだ。目撃者は一人もおらず、これはまったく不可解な出来事であった。

 しかし鏡にはたった一つ違いがあった。それは鏡の表面に無数の傷が刻まれていたことであった。かつての美しい鏡は完全にその価値を失ってしまっていた。ジャンヌはこの新たな展開に非常に興味をそそられたが、ジャックは自身の財産が著しく傷つけられたことにひどく落胆していた。

 彼女は傷つけられた「ザ・ミラー」を丁寧に分析し、それが何者かのメッセージであることに気がついた。実は、表面に刻まれている傷は、鏡に光をあてる角度によって特定の言葉を映し出すように仕組まれていたのだった。

 ガス灯の明りを「ザ・ミラー」にあてると、はたして文字が現れた。


「財産が全てではない」


 ジャンヌはこの一節から、犯人が富豪のジャック自身である可能性があるのではないかと推理した。それは富豪がその貴重な品物を自ら傷つけ、その上で彼が新たな見方をし、その価値が自分にとってどれほどのものかを再評価するように……というメッセージではないか、と。

 ジャンヌはこの理論を元に捜査を進め、最終的にやはり犯人は富豪自身であることを突き止めた。驚いたのはアン博士だけではなく、ジャック自身もまたあ然とするばかりだった。

 そう、ジャックは二重人格者だったのだ。富を追い求め、周囲を顧みず、ワンマンに突き進む彼の表層意識への反抗勢力として、ふたつめの人格がそれを警告していたのだった。

 このままではお前は破滅するぞ、と。

 ジャンヌの大胆な推理により、富豪は自分自身の行いに対する意識が変わり、自身が所有する大量の財産を適切に活用し、それを人々を助けるために使うことにした。

 結果として、「ザ・ミラー」の事件は、物事の本当の価値を見るための鏡となった。物質的な価値よりも、その影響力と使い方を問うたことで、世界に良い影響を及ぼしたのである。

 常に真実を映し出す「ザ・ミラー」のように、ジャンヌの解明した真実は、富豪だけでなく、我々自身にも自己反省と変化をもたらす機会を与えるのであった。


(了)

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【推理ショートストーリー】反転された秘密 T.T. @shirosagi_kurousagi

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