魚フライとコロッケ
「今日、ご飯何にする?」
「何でもいいよ、洋食でも」
私はポチポチとボタンを押しながら洋食を提案した。
「焼肉でもいいしね」
「焼肉もいいけど、それがあれやったら洋食でもいいし」
「あ! ラーメンとかどう?」
「いいね、ラーメン、イタリアンでもいい! あと洋食!」
「洋食しか興味ないじゃん」
一緒にストリートファイターをしながら彼と晩御飯の相談をしていた。
「全然? 何でもいいから決めてええで」
「それギャルゲーで洋食選ばんと攻略進まへんやつやん!」
スピーカーからK.O! と流れてきた。無論私の勝利だ。あっはっはと私は高笑いをする。
「洋食に気を取られたな!」
「仕方ないやんか、ギャルゲーみたいに選択肢ミスって喧嘩とかしたくないし」
「なに、私のことギャルゲー内の女だと思ってたの」
「ちゃうてぇ……」
彼は私の膝に頭を乗せて不貞腐れた。
私はごめんごめんと撫でた。彼はボソボソとじゃあ晩御飯決めて、と呟いた。
「じゃあ、洋食にしよっ!」
電車の中でぶつくさと不貞腐れる彼に、私は洋食嫌やった? と尋ねる。
「ちゃうしぃ……」
「もー、そんな拗ねんといてや、な? 美味しいご飯が待ってるから」
「でも、俺、ご飯だけじゃ元気出ないもん」
「ごめんて……」
彼の頭をよしよしと撫でて、窓から見える景色を眺める。
今日は小雨が降っていて、窓に水滴の線ができている。まるで世界がちょっと泣いてるみたい。
隣の彼氏も泣きそうなくらいしょげている。
(ご飯の時には元気になってくれてたらいいんやけど)
私はクソゲーをダウンロードして、一緒に遊ぼうと彼氏に声をかけた。
「いいよぅ」
彼氏は携帯をいじって同じものをダウンロードしてくれる。
「クソゲーらしいよ。見るからにクソゲーだけど」
そのゲームを開いたらするクソゲー臭。
とりあえず真ん中を押してみると、ゲームが始まった。
ワンステージ終わって彼を見ると、驚くほどクソゲーに熱中していた。
「どう、楽しい?」
「うん。神ゲーとクソゲーは紙一重やな」
私はクスッと笑って楽しそうな彼を眺めていた。
方向音痴な私は、機嫌が直った彼に腕を引かれ、大阪駅の駅地下を進む。
「端っこやから迷子になりそう」
「どこにあるか全然わからんけど、あそこは最高」
「わかるう、レトロな雰囲気も最高なのよね」
階段を降りて、駅近の端辺りにある洋食店。いつもは外に行列ができているのだが、今回は並んでいなかった。
彼はニコニコしながら私を見た。
「ラッキーや、並んでないなあ」
「嬉しいなあ」
メニューを見て、私たちはすぐに何を食べるかを決めた。
「私Cセット」
「じゃあ俺はBセット!」
「お待たせしましたー、BセットとCセットです」
置かれたお盆の上には、エビフライとカニクリームコロッケ、ハンバーグが乗っていた。
子供が大喜びするトリオ。無論私も大喜びだ。
どれにしようかなと湯気が躍る彼らを見つめる。
いただきますをして、真ん中を選んで損はないと、まずはカニクリームコロッケを一口齧った。
サクッとした衣の後、溢れ出す熱々のクリーム。はふはふしながらコロッケの味を堪能する。カニ風味が口の中で広がる。
「んまいっ」
これは、熱いからこそうまい。
「このタルタルもたまらん!」
魚フライを選んだ彼は、タルタルソースを沢山乗せたフライをもぐもぐと幸せそうに頬張っている。
私はクリームコロッケの半分を彼のお皿に乗っけた。さあ、君も悪魔的なおいしさに平伏しな。
彼は私のお皿に魚のフライを置いてくれた。
彼は食べてみ、と手を動かす。言われるがまま、魚のフライを口に運んだ。
これもまたサクサクの衣。その後に柔らかい白身の甘さ、旨味が広がった。これは癖になる、危ないやつだ。
「んまいぃ……」
感動している私に、彼はニコニコしてコロッケを口に入れた。
「あっづ!」
彼はふーふーと必死そうに息を吐いて熱を逃している。申し訳ないが私は笑ってしまった。
「ひどいよ、でも冷めたら美味しいってわかるやつ」
「いやこれは熱いから美味いんや!」
「なんでや! 戦争や!」
私たちはくすくす笑いながらハンバーグを口に入れた。
咀嚼した途端、口の中に広がる肉汁。ソースと絡み合って王道かつ最高のハーモニーが包み込む。
私は幸せを堪能しながら小さくつぶやいた。
「あかん、おいしすぎる……」
「これは罪の味や……」
「こんなん、負けるはずがないんよ……」
「わかる……」
熱冷戦争はすぐ終息を迎えて、私たちは新しく君臨した王、ハンバーグの家来になった。
ハンバーグを半分くらい食べた時、エビフライに箸を伸ばす。
私はわかっている、このサクサクのフライはまた私を喜ばせることを。
さくっと一口齧った刹那、ぷりっとした食感も私を虜にする。
「はぁぁ……これは、最高すぎる……」
止まらない一口。これはかっぱえびせんもびっくりだ。
感動しながら皿に乗ってある全てを食べきった後、味噌汁の蓋をパカッと開けた。
温かい味噌汁を最後に流し込んだ。
「ほぁ……」
深呼吸をした後に満腹と幸福感に襲われる。
「なんか、ふぅ、って息が出ちゃうね」
「わかる! 美味しかったなぁ」
私たちは手を合わせてご馳走様をした。
大満足のわたしたちは手を繋いでお店を出る。
「来週の晩御飯、どこ行こっか?」
「そうだなぁ〜……。次はお肉にしよ!」
ごはんのはなしたち キノ猫 @kinoneko
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