第3話 明治10年戦艦大和
ときに西暦1877年、佐世保艦隊が「世界征服」を叫んで反乱を起こした。
「日本は未来海軍の力により世界最強である。海外に進出し、世界を征服すべきである」と主張した。
佐世保艦隊司令官は西郷隆盛。参謀長は桐野利秋。
江戸幕府にとって折悪しく、中国情勢の緊迫化と清・英・露の抗争を睨んで、佐世保に戦力が集中していた。佐世保艦隊司令部はその機会をとらえて、反政府行動を起こしたとも言える。
徳川幕府はヨーロッパの先進性を取り入れて、廃刀令、廃藩置県などを含む大改革を断行中であった。四民平等政策によって武士は士族となり、不満をつのらせていた。
士族の不平不満が佐世保で爆発し、「世界征服」発言につながったのである。
この反乱の主導者は桐野で、西郷は消極的賛同だったとも言われている。
旗艦は戦艦武蔵。西郷と桐野が乗っている。
従うは戦艦長門・陸奥・伊勢・日向・金剛・比叡・榛名・霧島。
重巡洋艦高雄・愛宕・摩耶・鳥海・利根・筑摩。
軽巡洋艦川内・神通・那珂・夕張・阿賀野・能代・矢矧。
駆逐艦島風他多数。
潜水艦伊19・58。
幕府海軍の主力艦艇が佐世保に集結していた。
開明的な政治の一環として、権力を分散し、佐世保艦隊の運営を九州出身の有力者にゆだねていたことが、幕府にとって思わぬ事態を招くこととなった。
西南海戦と呼ばれる内戦が始まる。
幕府海軍支配下の横須賀艦隊は戦艦を大和・扶桑・山城しか持っていない。
征夷大将軍徳川慶喜は頭を抱えた。
軍艦奉行勝海舟は「五十六に託しましょう」と言った。将軍はうなずき、連合艦隊司令長官山本五十六に佐世保艦隊との決戦を命じた。
山本は横須賀基地停泊中の戦艦大和内で作戦を練った。
大和は出撃させず、空母を主戦力とした機動艦隊を編成して、南雲忠一に指揮させることにした。
旗艦は空母赤城。
従うは空母加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴と数隻の駆逐艦。
山本は佐世保艦隊が空母を保有していないことに着眼し、空母機動艦隊によって撃滅する作戦を立てたのである。彼は大鑑巨砲主義をかなぐり捨て、航空主兵主義を採用した。これは戦艦数に劣るがゆえの苦肉の策であったが、短期間でその作戦を策定したのは、天才的と言える。
佐世保艦隊は出航し、江戸湾に向かっていた。
空母機動艦隊も横須賀から出撃していた。南雲は西進しながら戦機をはかった。偵察機により佐世保艦隊が土佐沖にいることを知り、紀伊半島沖から、爆撃機・攻撃機・戦闘機の大軍を発進させた。
土佐沖で戦闘が勃発した。
航空機軍が艦船軍に襲いかかった。
爆撃機が爆弾を投下し、攻撃機が魚雷を発射。
主砲、高角砲で応戦させながら、桐野は困惑していた。
「航空機だと? 大和は来ないのか?」
艦砲数において圧倒的に有利なはずが、戦闘思想の差異により、逆に圧倒的な不利に追いやられている。
爆撃機による急降下爆撃、攻撃機による魚雷攻撃、戦闘機による機銃掃射にさらされ、佐世保艦隊は大混乱に陥った。
桐野には打つ手がなかった。
対抗しようにも、空母がない。
西郷は静かに戦況を見ていた。
長門・陸奥・伊勢・日向・金剛・比叡・榛名・霧島が相次いで沈没した。
不沈戦艦として設計された武蔵はかろうじて浮かんでいたが、「もうよか。自沈すっど」と西郷は言った。
桐野は沈痛な表情で、「総員退避。キングストン弁を開けよ」と未来人の艦長に命じた。
乗組員は可能な限り艦から逃れ出たが、西郷は武蔵とともに海中に没した。
南雲機動艦隊司令部は戦士としてのやさしさを持っていた。
主力の戦艦だけを攻撃し、その他は脅威ではないと見なして、攻撃しなかった。
佐世保艦隊の巡洋艦、駆逐艦は戦艦乗組員の救助に当たった。
第1次攻撃のみを行い、南雲は機動艦隊の横須賀への帰還を命令した。
飛龍に座乗していた第2航空戦隊司令山口多門は第2次攻撃を敢行し、重巡洋艦・軽巡洋艦も撃沈すべしと主張したが、南雲は無視した。同じ日本人をこれ以上殺せるか、と彼は思っていた。山口は、南雲は甘い、と考えて歯噛みしていた。
桐野は無傷の重巡洋艦高雄に乗り移り、巡洋艦隊を急遽編成して、横須賀を目指した。往生際が悪いとも、不屈の闘志とも、どちらとも取れる。
南雲艦隊は桐野の動きを察知できず、相模湾で追いつかれて、佐世保残存艦隊の猛攻を受けた。
砲戦となると、空母は脆い。
赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴は沈没または大破した。皮肉にもこの戦闘で、南雲は駆逐艦に避難し、山口は飛龍と運命をともにした。
戦艦大和が動いた。
大和・扶桑・山城を主力とする横須賀艦隊が、三浦半島沖で桐野艦隊を迎撃した。
両軍血みどろになりながらも、戦艦の強力な主砲攻撃が上回り、佐世保から来訪した巡洋艦は次々と沈没していった。
ついに桐野も戦死した。
佐世保艦隊は降伏した。
江戸徳川幕府はかろうじて勝利したが、その海軍はこの内戦でほぼ力を失った。
このとき世界の列強は、日本を植民地にする好機だと考え、欧米連合艦隊を組織して、江戸湾に派遣した。
しかしそこで待っていたのは、21世紀の日本からやってきた護衛艦たかなみを旗艦とする海上自衛艦隊であった。
日本未来軍は欧米連合艦隊を撃滅した。もちろんこれは、自衛権の発動としての武力の行使である。
列強は日本から手を引いた。
江戸幕府は戦況を分析して、薄氷の勝利であったと判定し、海軍以外の進歩政策をいっそう推し進めた。経済を重視し、税制を公平にして、士族の不満を徐々に鎮めた。
戦艦大和は幕府海軍連合艦隊の旗艦をたかなみに譲り、退役した。
幕府海軍戦艦大和 みらいつりびと @miraituribito
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