第7話 不思議なこともあるものだ

 ゴールデンウィークという、ウハウハ休み期間が開けた火曜日。

 ダルそうに登校をしている生徒達と、友達に会える(または会った)喜びのある元気な生徒達が歩いていた。

 私はというと、とても充実に満ちた満足気な顔で、元気良く登校している。

 何故かというと、ウハウハ休みが私を満たしたからだ。

 宿題は渡されたその日に全て片付けて、しっかり寝て、しっかり早起きして、出掛けて、観光客や帰省して来ている人達などが集まる所に行って、いろいろ見て回っていたからだ。

 両親の実家に連れて行かれそうになったが、適当に「勉強するから2人でいってらっしゃい」と送り出したのが大正解だったと思う。


 パラダイスだった、天国だった。


 最終日は死んでいた。

 終わると思うと魂がひゅ~っと抜ける感覚になっていたからだ。

 だが、今日の朝、寝ている間に切り替えていたから、なんだかお肌はキラキラしていて調子良さげで、ウキウキしていたから、私は笑顔いっぱいで家を出られたのだ。

 きっと学校という日常で、新たな発見を目撃出来るかもしれないという期待で胸がいっぱいなのだろう。

 我ながら出来た奴だ。

 教室に入るとみんなに挨拶をして席に着くと「よう!」と、いつもの彼が挨拶してきた。


「わたっち、おはー」

「元気そうで」

「ふふん、まあね」


 あまり語らずとも分ってくれる友達は有り難い存在だ。

 しみじみ思いながら荷物を整理するのだった。



「では、どの種目に出たいか決めていきます」


 学級委員の指示のもと、体育祭に向けての種目決めに入っていた。

 私は体を動かすことは好きだが、無駄な運動は嫌いだ。

 たくさんの種目に出てしまうと、それこそ無駄な行動に繋がりかねない。

 観察命の私だからここは1つに絞る。

 無難で手っ取り早く終わらせることが出来る種目。

 走るだけなら障がい物はいいが、リレーだからパス。

 ゴールを見届ける、またはアンカーになった場合に待つのが嫌だ。

 徒競走と玉入れと綱引きは全員参加だから仕方がない。

 残りは騎馬戦と借り物と玉転がしと代表リレー。

 騎馬戦は乗る側と支える側どちらになっても疲れるからパス。

 玉入れはダンスするらしいから恥ずかしいのでパス。

 2択になった…借り物か代表リレーか…。

 借り物はどんな課題に当たるかで時間配分は変わるから運次第。

 だったらたっぷり時間が確保出来る最終種目の代表リレーは魅力的に見える。

 果さてどうしようかな…。

 うんうん悩んでいると「生見ぬくみさん」と学級委員が私を呼んだ。


「はい?」


 さぞ間抜け顔だろうと思った。

 声がそうだったから恥ずかしい。


「代表リレー、出てくれない?」


 予想外の展開。

 ちょっと戸惑いそうになるが、直ぐに深呼吸して落ち着かせる。


「今、代表リレーから決める感じ?」

「そうだよ、だから声をかけたの」


 なるほど。

 面倒くさくて出たがらない種目である代表から決めてしまう作戦ですね。

 この種目は足の速い人と目立ちたがりが集結する、個人的な印象でいうと“ヤバい”となる。

 だけど、時間を確保出来るし、直々に声をかけられたからなぁ…。


「生見さん、速いんだし良いと思うけど」


 自分で言うのもなんだけど速い方ではある、これも観察の為に鍛えた速さなので。

 いついかなる時も素早く行動、観察の鉄則みたいなもの。

 よし、そうしようかな。


「分かった、代表出るよ」

「じゃあ俺も出る」

「はぁ?」


 間髪入れずに挙手したのは渉君。

 どういう風の吹き回しか。

 変な声が出てしまった。

 そんなことを気にする様子はなく、渉君はニコニコしている。


「えっと、では2人で決めて良いですか?」

「「「はい」」」


 異論は出なかったので正式決定となった。


「ありがとう2人とも」

「いえいえ」

「どういたしまして」


 感謝されることはない。

 不思議だ、渉君と同じ種目に出ることになるとは。

 学級委員は次の種目決めにうつり、そこからは超特急でスピーディーに決まったのだった。


「わたっち、頑張ろうね」

「おう!」


 私は彼にバトンを渡すことになるだろう。

 迷惑かけないようにしないとと思ったのだった。

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人間模様は十人十色〜私の観察物語〜 奏流こころ @anmitu725

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