第6話 目の前の彼より他所の人

 近くのファミレスに来た。

 私の目の前には山盛りのフライドポテト、大盛り炒飯。

 わたる君の前にはハンバーグ定食(ご飯大盛り)。

 食後に食べるデザートはパフェにしている。

 私はチョコバナナ、渉君は苺。

 逆なイメージだが、渉君の方がちょっぴり乙女な部分があるようだ。

 見た目はボサッとしているのにね。

 ちゃんと決めれば、それなりになるのにと思うことはあるが、あえて言わない。

 そういうことは好きな子から言った方が効果抜群なのだから。

 私はただの友達、言っても無駄だから言わない。


「食べなよ」

「わたっちもね」

「だな」


「「いただきます」」


 いざ、食べよう。



 フライドポテトをシェアしつつ、パフェを堪能する私と渉君。

 渉君と話しながらも、私は気を抜いてはいなかった。

 山盛りのデカいパフェを1つを、カップルや女子3人組がシェアしていた。

 カップルなんかは、“あーん”を他の人に見せつけるかのようにしていた。

 私はあの“あーん”に関して、何故やるのか考えている。

 恥ずかしくはないのか。

 付き合いたてが出来ることなのか。

 デートが楽しいからなのか。

 はたまた、シェアしているからこそなのか。

 難しい話題である。

 そしてもう1つは、スプーンで掬いそれを他者の口へやるのが間接キスだということを、自覚しているのか。

 無自覚でついとか言って、別れた後の帰りに叫んでいるのかな。

 そうだとしたら、それは面白いと思う。

 おおいに叫べ、そして悶えて。

 うん、そっちを見る方が面白そうだな。


「あのさ、聞いてる?」

「え?」


 不思議そうな顔で私を見る渉君。

 おお、そうだった。


「何の話だっけ?」

「また観察かい」

「ごめんごめん」


 他所を見るとついつい夢中になってしまう。

 困ったものだ。


「もうちょい見ろっての…」


 ボソリと渉君は何か言った。

 聞き取れなかった。


「何か言った?」


 聞いてみると、彼は頬を少し赤くして「なんでもないよ」とふてくされた。

 よく分からない。何故だ、何故ふてくされたんだ。

 でも気にしない。放っておこう。触れない触れない。



「お腹いっぱいだー!」

「ほんとそれな!」


 美味しいお昼で大満足。

 伸びをしながら歩くと「あのさ」と渉君は声をかけた。


「なに?」


 1つ間をおいて。

 渉君が言うまでに、なんだか何十秒も何分もかかった気がした。


「いや…何でもない」


 気を落とした元気のない声だった。

 変だな、具合悪いのかな。

 だったらこれしかない。


「早く帰ろう?私、用事もうないし」


 帰って寝るのが元気になる近道。

 そう思って提案すると彼は「俺も特にないから帰るか」と、またいつもの調子に戻った。

 同じ電車たが途中まで一緒だから、電車で帰ることとなった。

 登下校は一緒に乗らないから初めてかもしれない。

 たくさん話して元気づけようと心に決めた。

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