第5話 休日も気を抜かない

 本屋にいて本を探しながらも、他のことも探す。


 


 語弊があるな、変わった人はいないかな、だといいのかも。

 人間観察は休日にも意識していれば見えてくる。

 ここの本屋はさすがに皆落ち着いて静かであるが、他の場所ではたくさんの人間模様がある。

 すれ違ったラブラブなカップル、付き合いたてだと真っ赤になる。

 または大人のカップルは雰囲気が美しく見える時がある。

 熟年のあったかさとは違う。

 なんというか…そう、妖艶のような。

 私にはまだまだ早い世界だな。

 経験はしないであろう世界。

 ファストフードに友達数人のグループを見かけたが、たいしたことではないのに、つまんない話でも、何故かゲラゲラ笑って楽しそうなグループは、エネルギッシュで素敵だなと思ってしまう。

 スーパーでは、家族連れであれば、子供がダダをこねていて親がなだめ説得していたり、または怒って言い聞かせていたり。

 ゲームセンターに行ってみると、勝ち負けのあるゲームで喜んでいる人、怒っている人、泣いている子供などがいた。

 クレーンゲームはやはり楽しんでいる人の方が大半で、絶対取るという必死さが伝わってくる人もいた。

 この世の中はいろんな人がいる。

 十人十色、百人いれば百通り。

 面白すぎる。

 だから人間観察はやめられない。


「あったあった」


 欲しかった本が見つかった。

 早速手を伸ばすと、私よりも先にスッと取った人がいた。

 誰だ貴様と思い振り向くと、私は驚いた。


「わたっち」

「よっ!」


 爽やかな顔で彼は言った。


「何でここに?」

「雑誌買いにさ」


 サラッと言いながら、欲しかった本を私に差し出した。


「取れなそうと思って取ったけど、ダメだったか?」


 なるほど、そういうことか。

 確かに背伸びをすれば届くかと思って手を伸ばしてはいたが、大半は届かないパターンは目に見えるわけで。


「ありがとう、助かったよ」

「それは良かった」


 好きな人にこういうことをされると、ドキッとするんだろうな。

 想像してみただけで頭から湯気が出そうになる。


「顔赤いけど?」

「えっ」


 しまった、想像というか妄想が顔に出て赤くなってしまった。

 ふーふー、なんてしながらクールダウンしろと念じる。


「あのさ、今暇?」


 わたっち、暇ではないのだが。


「暇じゃないけど、何かあるの?」


 彼はニコッと笑って「昼だし飯食いに行こう」と言った。

 ご飯の誘いか。


「良いよ、付き合うよ」


 すると「よっしゃ」とガッツポーズをした渉君。

 私は不思議そうに見ていると、彼は慌てだした。


「あっ、何でもない、行くぞ」


 わたっちは早歩きで先に本屋を出た。

 ほんのり頬が赤く見えたのは気のせいか。

 首を傾げて「ん?」と私は呟いた。

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