星が墜ちていく
歩くたび、一歩ずつ身体が沈んでいくようだった、足元は雲、少なくともそのようにしか見えず、黒く湿ってやわらかだった。吐く息は蒼白い。ここは寒くもなければ暑くもない。漂う息の色やかたちも、冬のそれとは違っている。透きとおっていて、そして静かに光を持っている。あたりはやけに暗くて、だけど息をするたび、顔のまわりだけ明るみを帯びる。一瞬で点いては消えていく蝋燭のよう。呼吸のたびに、世界はそこでほんのかすかに浮かび上がった。
それがどういうことかはわからなかった。ここがどこかも知らなかった。自分が誰なのかも思い出せない。
星が墜ちていく。ひとつではなく、いくつも、幾筋も。藍色の、深緑色の、菫色の、名付けようもない夜の空の深みから、大粒の金貨がこぼれ落ちてくる。燃える炎の尾を引いて、虹に閃く火花を散らして、世界を斜めに横切って墜ちていく。地面にぶつかると星は金色に熔け、そのたびごとに甘く蜜の池が拡がった。
まるで聞き覚えのない声が、墜落する星々を指さして気をつけなさいとほほ笑んだ。そうして私は、この夜の何もかもが夢とふいに気づいた。
水没都市 十戸 @dixporte
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