戦うために立ち上がる

「アリスお姉ちゃん……大丈夫?」

「……ん? あぁ大丈夫だよ。 心配かけてごめんね」


 集落に戻り、ひとりで考え事をしていた私のところに心配そうな顔をしたレイラちゃんがやって来た。


「……ロザリーお姉ちゃんと何かあったの?」

「あーいや、違う違う。 ロザリーは関係ないよ」


 そう言って私はレイラちゃんに優しく笑いかける。

 そんな私の様子に安心したのか、レイラちゃんはホッとしたような表情を見せた。


「ならよかった! じゃあどうしてアリスお姉ちゃんはそんなに悲しそうな顔をしてるの?」

「……」


 そんな顔をしていたのか……と私は思わず自分の顔を触る。

 そんな私の様子を見ていたレイラちゃんはゆっくりと近づいてきて、そのまま抱きついてきた。


「レ……レイラちゃん?」

「……つらかった時にママがよくこうやってくれたから……私もこうしてあげる」

「うん……ありがとう」


 そうして私はしばらくの間、レイラちゃんに抱きしめられるのだった。


 ★


「『辻斬り』……か」


 ポツリと呟いた言葉と共に私は窓の外を眺める。

 今日はロザリーからも「ゆっくりしておけ」と言われたので、部屋に籠もっているところだ。

 そんな時、ふとゴブリン達の集落でのことを思い出したのだ。


「『人族と魔族の争いは停戦協定が結ばれ、全ての魔族は平和を享受していた』 ……なんて思っていたけど、どうやらそうでもないみたいだね」


 そもそもの問題として、何故ゴブリンが襲われたのか? そしてその人間は今どこにいて何をしているのか? そんな疑問ばかりが浮かぶ。

 だけど実際問題として私一人でどうにか出来る話でもないだろうし……。


「どうしたものかな……」


 そんなことを考えていると部屋にノックの音が響く。


「ん? あぁ、ロザリー。 どうしたの?」

「お主の様子を見に来ただけじゃ。 少しよいか?」


 私が頷くとロザリーは扉を開けて、部屋の中に入ってくる。

 そして、そのまま私の元に近づいてきた。


「アリス……大丈夫か?」

「うん? 別に大丈夫だよ? なんで?」

「……いやなに、あの集落から戻った後からどこか上の空じゃったのでな」


 そんなロザリーの言葉を聞いて私は思わず苦笑する。

 どうやら周りに気を使わせてしまっていたらしい。


「うん。 色々と迷惑かけてごめんね。 ちょっと考えちゃった」

「そうか。 まぁ、いつまでもいじけているわけにはおるまいて。 それこそお主の力の使い時じゃの」

「……私の力」


 確かにロザリーの言う通りだ。

 いつまでもいじけているわけにはいかないし、ここは少し気分を変えるためにも自分なりに何か行動を起こしたほうがいいのかもしれない。


「我らも今日しかっりと話し合った結果、件の辻斬りを討伐することにした。 こんままでは我らの集落が襲われる可能性もあるからの」

「そうなんだね……私もできる限りのことをするよ」


 私の言葉にロザリーは満足そうに微笑んだ。


「とはいえ安心せい。 我らオークは戦闘種族。 多少腕が立つ人間ごときに遅れは取らぬじゃろうて」

「ならいいんだけど……そういえば、辻斬りの正体に心当たりはあるの?」


 私の問いにロザリーは少し思案するような素振りを見せる。

 そして少しして口を開いた。


「正直全く無い。 ただ、考えられるとすれば……人族の中には魔族と人族との間に不和をもたらす為に事を仕向けるものもおるらしいからの」

「……うーん。 まぁ確かに」


 確かにそうだ。

 人類の中には「魔族なんかと手を取り合って生活できない」という過激な考え方の人が少なからずいる。

 人類と魔族が手を取り合ってからまだ五年も経過していないため、

 それは当然なのかもしれない。

 それに……私自身、魔族と人類が不和をもたらすために誰かが人為的に行った可能性もあると考えている。


「じゃあ、とりあえず今日のところはここで失礼させてもらうよ」

「うむ。 なにかあればまた伝えよう」

「うん。 ありがとうねロザリー」


 そんなロザリーに感謝の言葉を告げ、私は立ち上がるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アリスは異種族通訳者! ~転移してしまった落ちこぼれ魔術師、異種族通訳者として覚醒す~ わさびもち @kurara18

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ