第3話 チューとリアルに初戦闘

 このゲームのタイトルは、確か、大乱世だったはず。


 内容は国取りものだろうか?

 戦国時代とか三国志とか、そういったゲーム内容を想像していた。

 だけど、今の状況にはそのゲームタイトルは全く似つかわしくない。

 そうだな。判断するのは、まず町を見つけてからにしよう。


「それではチュートリアルその2、戦闘をしてみよう、を始めます」


 女性の声が耳に届く。

 目の前に人はいない。この声はシステム音声という認識でいる。


「まずは武器を装備してください」


 ふむ、武器とな。


 どこにあるのかと探してみると、右腰に下げられたナイフが目についた。

 これか。ナイフを鞘から抜く。


「これよりモンスターが現れます。さあ、戦ってみましょう」


 視線が焚き木の材料を探しに行った林に向かう。すると、一匹の動物があらわれる。

 猫!?いや、あれはネズミだ!

 一般には見ない巨大なサイズのネズミが一目散にこちらに向かってくる。


 マジかよ、いきなりだな。

 このチュートリアルは、心の準備をする時間など許してはくれないようだ。

 やるしかない。


 ナイフを右手に持ち、待ち構える。こちらから向かっていく必要はない。

 飛びかかってくる巨大なネズミに対して、軽くナイフを突き出す。

 振りかぶる必要はない、向かってくる大ネズミの突進力で十分ダメージは与えられる。

 よし、うまくできた。


 飛びかかってきた大ネズミに、ナイフが突き刺さる。

 血が飛び散るというようなエフェクトはない。

 ダメージを受けた大ネズミは、弾かれたように距離を取った。


 それでも大ネズミの戦意は落ちておらず、憎々しげにこちらを見つめている。


 動物と命を取り合うような恐怖心や抵抗感はない。

 なんらかの補正があることを感じた。現実だったらこうはいかないだろう。


「さあ、続けようか」


 俺もやる気になっていた。口の端が吊り上がる。


 距離を取った大ネズミは、先ほどと同じようにこちらに向かって突進してくる。


「同じやり方かよ、愚直だな」


 そちらが同じやり方をするというのなら、俺も同じやり方をする。


 飛びかかってくる大ネズミに対してナイフを前を突き出す。

 そして同じように成功。


 距離を取る大ネズミ。


「パターン入った」


 これまでのゲーム経験から、俺はそう呟いた。


 向かってくる大ネズミにナイフを合わせる。

 みたびナイフに貫かれた大ネズミは、そのまま動かなくなった。


「よし」


 小さく呟く。


「初戦闘の勝利、おめでとうございます!」


 そして、俺の勝利を知らせる声が耳に届いた。 


「それではチュートリアルその3、料理をしてみよう、を始めます」


「え、もしかしてこれ食べるの?ネズミだぞ?」


「まずはナイフを使ってネズミを解体してください。解体したら、お肉を木の串にさして、焚火で炙りましょう!」


 俺の問いかけには答えず、嬉しそうな声で先を促すシステム音声。

 いや、ネズミだぞ。そりゃまあ、夢の中で食べるなら食中毒になる危険性もないだろうけどさ。


 納得いかない顔でネズミの亡骸を見つめる。解体ってどうやればいいんだ。

 まずは皮を剥いでみるかとネズミに戦闘で使ったナイフを刺してみると、ネズミの亡骸は毛皮と肉の塊に変化する。

 そこまでリアルに準拠するわけじゃないのだね。


 リュックサックから木の串を取り出し、肉の塊に刺して焚火で炙る。

 しばらく待つと表面の色が変わり、いい匂いがただよってくる。


 ネズミ肉だぞ。まあいいか。


 焼き上がりを確認するため、肉をナイフで半分に切ってみる。しっかり中まで火が通っている。


「さあ、焼きあがったお肉を食べてみましょう!」


 ええい、やってやるよ。俺は豪快に噛り付いた。


 うーん、肉々しい。

 牛肉とも、豚肉とも違う、今まで感じたことのない味を堪能する。


 砂浜にあぐらをかき、肉を焼いて食べている。

 これまで経験したことのないサバイバルをしている。

 それも新体験として、面白くはある。


 一体これから何をさせられるのか、と考えながら、海の向こうをみながらネズミ肉を食べていた。


 すると、ガサリ、と音がした。


 音のした方向に視線を向けると、林の中から人影があらわれた。


 それは、人とは言えなかった。

 昔、歴史の教科書で見たような類人猿のような存在が、視線の先にはいた。

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~大乱世~ 不眠症がVRゲームに没入する話 直木新 @skanda_j

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