第2話 とてもリアルなチュートリアル

 これが巷に聞くVRゲームというやつか。学生時代にFPSやMMO、スマホゲームに嵌ったこともあったが、社会人になってからは全くやらなくなった。


「それでは、利用規約を表示いたします。文章をよくお読みになって、同意されるかご判断ください」


 そして目の前に現れるスクリーンに、ずらずらと文字が表示される。


「……レポートを書くと約束した手前、プレイしないわけにもいかないか。睡眠が出来ることに関しては保証されてるようだし」


 利用規約は飛ばさずに精査して読み、しっかりとこちら側に不利な事項がないか、確認をする。

 とくに安全性に関しては。


 規約を読み、特に問題ないことを確認したのち、


「同意する」


 と声に出して言った。


「ありがとうございます。それではプレイヤーキャラクターの名前を決めてください」


 オンラインゲームをやるときは、本名の本間一也をもじって、KAZYと名乗ることが多かったが、少し考え


「HK(エイチケー)で登録」


 とこたえる。


「かしこまりました。HKさん、次にアバターの作成に移ります」


 との声とともに、目の前に一人の人物が現れた。


「ゲーム上でのあなたの姿です。この素体をカスタマイズして、自分の好みのアバターを作ってみましょう」


「どうやっていじるの?」


「この素体は粘土のようになっていますので、直接触って姿形を調整することができます」


 ふむ、粘土か。


 試しに腕を引っ張ってみる。

 おお、伸びる伸びる。

 ある程度引っ張ったらそれ以上は伸びなくなった。人の形としての限界か。


 そして、しばらくの間、その素体をいじくりまわした。

 小学校の図工の時間を思い出す。


 190センチくらいの長身で、細身に設定する。寸胴型のスタイルで、足は多少短め。手は長く膝までつくくらいにしよう。

 そして完成。なかなかミュータントっぽい仕上がりになった。


「体系が決まりましたら、次に顔の形を作ってください」


 顔も自由にいじれるようだ。

 素体の顔の頬を引っ張ったり、唇をつまんで整えてみたが、これをいじるのがなかなか難しい。


 そして

「プリセットはある?」

 と早々に降参。


「はい、顔モデルは1000種類の中から選べます」


 あらかじめ用意してある顔モデルを表示してもらう。

 しかし多いな。参加人数は知らないけれど、被る確率を考えたらそれくらいは必要か。


 適当に、体に合いそうな面長の顔を選んでみた。


「ゲーム上でのあなたの姿はこのようになります。よろしいですか」


「オーケー」


「それではあなたの体を目の前のアバターに変更します」


 次の瞬間、体系が変化していく違和感を感じた。


「なんだ、動きにくいなこれ」


 手を振ってみたり、ジャンプしてみたいして状態を確かめる。本来の自分の体形とは全く違うため違和感が凄い。

 面白半分で作ったアバターにちょっと後悔した。


「おつかれさまでした。それではチュートリアルを始めます」


「了解」


「チュートリアルその1、火をおこしましょう」


 目の前のスクリーンに枯れ草×10 枯れ木の枝×10を集めようという文字が表示された。


 そして、透き通った大きい矢印が目の前に表示される。その指し示す方向は、海とは反対側の林に通じている。

 そういうところは、従来のモニターでプレイするMMOみたいな感じだな。


「OK、やってやるよ」


 俺は林の中に入っていった。


 木々が生い茂ている。


 とてもリアルだ。現実と変わりがない。草木の独特の匂いもする。

 目の前の世界はポリゴンとか、そういったモノではないのだろう。

 これがどういう技術であるのか、とても想像できない。


 矢印に従うことしばらく、枯れ草はすぐにみつかる。慣れない体を動かし、これを10本拾い集めた。

 その近くには枯れ木の枝もある。楽勝。


 集めるものが揃うと、矢印は来た方向を指す。

 従って歩くと元の砂浜にたどり着いた。


「それでは、まず集めて物を砂浜の上に全部置いてください」


 指示に従い、枯れ草と木の枝を置く。


「リュックサックの中から火起こし棒を取り出しましょう」


 背負っているリュックサックをおろし、中を調べる。

 火起こし棒は、と考えて探すと一本の木の棒がみつかる。

 直観でこれが火起こし棒だとわかった。


 ああ、動画とかでよく見るあれをやるんだな。


「これ?」


「はい、ではそれを使って火をおこしましょう。木の枝の上に枯草をすべて置いてください。そして、火起こし棒を手のひらで回転させて、火をつけてください」


「ああ、原始的に摩擦熱で火を起こすんだな」


 言われたとおりにやると、ものの10秒程度で煙が上がり、枯草が燃える。

 それが枯れ枝に燃え移り、焚き木の完成。


「おめでとうございます、キャンプが設置されました! ここを拠点に各地を探索してみましょう!」


 これってサバイバル体験ゲーム?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る