~大乱世~ 不眠症がVRゲームに没入する話

直木新

第1話 導入、睡眠への

 帰宅前の飲み会で、不眠症で困ってることを開発部の小坂さんに打ち明けた。そして手渡された、ひとつの四角いデバイスと三角のナイトキャップ。


 小坂さんは、このナイトキャップを頭につけて寝ると決まった時間に眠れて、決まった時間に起きられる、と言う。これはライバル会社の製品で、使用感をレポートして欲しい、とのこと。


 うちは健康器具を開発する会社であり、このデバイスとナイトキャップの開発元、アンダルシアグローバル社はIT機器のメーカーだ。いぶかし気に思ったが、業種が違えど製品が競合することはある。


 人体への影響は大丈夫なんですか?と不安に思い訊ねた。


 すると、これはすでに市場に流通してる商品であり、安全保障のSGマークもついている製品ので問題なし、と説明された。それなら、ここはひとつ試してみるか、と合点した。


 そして今に至る。


 夜の10時30分。


 ルータに直接ケーブルで接続された四角いデバイスの液晶にそう、表示されている。タッチパネル液晶を触り、入眠時間を23時、起床を6時とセットする。


 そしてベッドの中へ。さあ、どうなるか。



 30分後。


 どうやら俺は、無事に眠りに付けた、らしい。

 何故ならそれは、今、夢を見ているから。


 明晰夢か、珍しいな。


 夢の内容。

 見渡すとそこには砂浜と水平線。


「おお……」


 思わず感嘆してしまう。

 そして、誰かの声が耳に届いた。


「ようこそ、VRゲーム、大乱世へ!これからあらゆる群雄を退け、天下の覇者を目指しましょう!」


 女性の声だ。


「は?なんだそれ」


 思わず言う。目の前にも、後ろにも声の主はいない。


「新規ユーザー様であることを確認しました。利用規約を表示いたしますので、お読みになって同意するかお決めください」


「ちょっとまった! 何が起こっているのか理解できてないので、まずは状況の説明を求む」


「かしこまりました」


 ワンテンポ置いて説明が始まる。


「このゲームはユーザー様の夢をネットワークで繋いだ、体感型オンラインゲームです。各勢力の中で力を尽くし、天下統一を目指しましょう!ユーザー様は君主、または将軍となって軍を率いることができます。技術の研究、開発を行い勢力を発展させる役割もございますし、商人として経済面から支えることも出来ます」


 これは・・・ゲームの夢か? 夢のネットワーク、というのは……あのルータに繋いだデバイスが?


「ご了承の上にご購入されたかと思われますので、ゲーム内容の詳しい説明については当社HPを確認してください」


「質問。これは俺が見てる変な夢ですか?」


「これは夢である、ということは間違っておりません。ただ、ユーザ様各人の夢が、当社、アンダルシアグローバル社のネットワークにより繋がれております。夢の中に一つの大きな世界があり、その中に多数のユーザ様が一人ひとりとして存在しています。そして当製品は、その環境を利用した仮想体感ゲームとなっております」


 いや……、小坂さん。最初に説明してくれよぉ……。


「ユーザー様の安全のため、ただちに起床することが出来ます。起床されますか?」


「あ、そうなの?」


「はい、意にそぐわない入眠に対応するため、今すぐ安全に起床出来ます」


「……よし、起こしてくれ」


「かしこまりました。ユーザ様は5秒後に起床されます」


 そして目が覚める。確かに、夢の中の声が言った通りに起床することが出来た。


 ふむ。

 少し考え、もう一度デバイスの入眠時間を、今から10分後に設定し、目を閉じる。


 目の前には、砂浜と水平線。


「ようこそ、VRゲーム、大乱世へ!これからあらゆる群雄を退け、天下の覇者を目指しましょう!」


 ああ、これは夢ではない。

 いや、夢ではあるのだろう。これはあのデバイスとナイトキャップが見せている、ネットワークを介した人為的な夢。


 小坂さん、謀ったな。

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