10 sweet wedding

国樹田 樹

あの日の約束

『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』



そんな、どこかのドラマで見た様な台詞と同じ約束を、私も交わした事があった。


けれどそれには甘いものなど含んでおらず、文字通り『お互い相手が見つからずに結婚できていなかったら』という至極さっぱりとした話だった。


そして―――――




「あーーーっ! 疲れたっ!!」


お色直しで着た赤と黒のドレスを脱ぎ捨て、私は愛用している部屋着姿でベッドへとダイブした。


ぼす、と音を立てて倒れこんだふかふかのベッドは、さすが高級ホテルのスイートだけあって弾力も手触りも申し分ない。


今夜泊まる私達に当てたであろう、ベッドに蒔かれていた薔薇の花びらも、私がダイブしたせいで床に舞い落ちはしたが良い香りで体の疲れを和らげてくれる。(蒔いてくれたスタッフさんには悪いが、綺麗に避けられるほどの体力は残っていなかったので許して欲しい)


落ち着いた赤を基調とした室内には、所々高級さを漂わせる装飾が施されていて、曲線のラインが美しいテーブルの上には、『My heartest congratulations to you both(お2人に心からお祝いを申し上げます。) 』と英文で書かれた祝いのメッセージがワインと共に添えられていた。

ホテル側からのサプライズプレゼントだろう。


行儀悪くもベッド上でばたばたと手足を動かしながら、疲れた疲れたと連呼する私のすぐ傍で、先ほどのドレスと対になった色のタキシードを着た男がくすくすと笑い声を漏らす。


「お前って昔から、パーティとかそういうの苦手だったもんな」


からかう様なその声に、私はふかふかのピローから顔をあげ、軽口を叩いた張本人を睨んで見せた。


「だから式なんてしたくないって言ったでしょ。しかもそのまま式場にしたホテルのスイートで一泊って。なんだか晒し者状態で恥ずかしいったらありゃしないわよ」


文句を言う私に、彼―――塚本 浩之(つかもと ひろゆき)はニヤリと笑ってベッドへと腰掛けた。


「新婚夫婦らしいだろ?歳は食っても初夜は初夜だからな」


「初夜って……」


生々しい響きに、つい頬が熱くなる。

言葉は恥ずかしいけれど、私も浩之も互いに32歳という立派なアラサーだ。


今更初夜だのなんだの気にする必要もないし、柄でもない。だというのに、こう面と向かって言われてしまうとなんだかむず痒いものがある。


「式終えてすぐになんだけど……十年経ってもお互い独身だったら結婚しようなんていうの、まさか浩之が本気にしてるとは思わなかったわ」


今更ながら、今日に至る原因となった言葉を投げかける。


そんな私を見て、浩之がふっと瞳を細めて見せた。




私と浩之は大学時代、よくある友人の紹介で知り合った仲、というヤツだった。

と言っても、互いに彼氏彼女が欲しくて紹介されたわけではなく、友人の彼氏がたまたま連れていたのが浩之だったという至極ありがちな出会いである。


その頃大学で活字愛好サークルなるものに所属していた私は(暗いと言うなかれ)サークルにこそ入っていないものの、同じく小説好きの浩之とは初対面から話が合った。


いつしか頻繁に二人で会うようになり、周囲からはデキているんだろうなんて噂されるほど二人でよく過ごしていた。実際は、私と浩之の間にそんな甘い空気が流れた事は一度も無かったのだけれど。


けれど、大学を卒業する間際、ふとした事からなぜお互い相手を作らないのかという話になった。


私は単に、自分が三人兄妹の末っ子で、女好きの上の兄二人を見ていた為男性に夢を持てないのと、元々人に束縛されたり都合を合わせたりするのが嫌いな性質である事を浩之に告げた。


聞けば、彼も同じ様なものらしかった。


誰かに邪魔されること無く、休みはゆっくり小説を読んで、自分の時間を過ごしたい。


そんな枯れた私の思考に、浩之は共感の言葉をくれた。


だから私は彼に言ったのだ。


「じゃあさ、もしかしたら私達、ずっと相手ができないかもしんないね。だって作ろうとしないんだし。もし、十年後もお互いに独身だったら結婚しちゃわない?恋愛とかそういうんじゃなくてさ。友達婚みたいな感じで。それなら周りにも言い訳つくでしょ?」


いくら独身貴族が増加していると言っても、いつの時代も責め立てられる言葉は同じ。

時期がくれば、結婚しろ結婚しろと、せっつかれるのが関の山だろう。


ならば友達婚だろうが何だろうが気の合う人間と籍を入れてしまえばいい。


若い年齢独特の極端な思考をしていた私は、ふざけ合いの延長みたいな気分で馬鹿な提案を浩之に聞かせてみせた。いつか忘れてしまうだろう軽い約束。何年か後、笑い話にでも出来るだろうくらいの気持ちだった。


けれど。


ほぼ冗談で言った言葉に、浩之は一瞬だけ目を見開いて、「そうするか」と短く呟いた。


それに私は何も考えずに「ありがと。」と軽すぎるほどの礼の言葉を述べたのだった。


―――十年前の私は夢にも思っていなかっただろう。その言葉が、まさか本当になるなんて。




「……十年経とうが二十年経とうが、俺は忘れなかったと思うけどね」


昔の事を思い出していると、先ほどの言葉に対してだろう返事が浩之から返ってきていた。


半分聞き逃してしまったので、とりあえず「ふーん」とだけ答えておく。


ぼやけた返事が気になったのか、浩之からの視線を感じて目を合わせた。


ジャケットと同じ濃い赤のベストを着込んだ彼は、普段は目に掛かる長めの黒髪をオールバックに整えていて、別人みたいに凛々しく見える。その下に並ぶ程よい大きさの瞳に高過ぎない鼻梁が、これ以上ないほど格好良く見えてしまうのはどうしてだろう。


出会って十年、見慣れた筈の顔がこんなにも違って見えるのは、俗に言うウエディングマジックというやつのせいだろうか。


浩之と私は、一度も「そういう」関係になった事がない。


大学を卒業してからも、付き合いはあったけれどそれは友人としてだけで、恋だの愛だの色めいた事など、一度も起こらなかった。


なのに私の32歳の誕生日、いつもと同じく馴染みのバーで待ち合わせていた浩之に、開口一番聞かされたのは「十年経ったから結婚しよう」という一言だった。



「でも本当、浩之が結婚してくれて助かったわ。これで毎年、お母さんに結婚はまだかーまだかーって言われる心配なくなったもの」


「でも、次は違う事でせっつかれるかもしれないけどな」


そう言いながら、浩之はタキシードのタイを解き、首元を緩めた。そこから見えた首筋に、なぜか視線が惹かれて慌てて逸らす。

今迄無かったベッドの上という状況と、打算と半ば冗談の様な結婚とは言え、一応は夫婦になったのだという事実が、どうにも妙な気分にさせてくる。


「違う事って何よ。というか浩之はさ、本当に良かったの?いくら相手がいないからって、私と結婚なんかして。それに、今日会社の人から聞いたけど、浩之ってば人気あったみたいじゃない。私聞いてないわよそんな事。」


式に参加してくれた浩之の同僚から、「塚本は無愛想だけど面倒見がいい奴だから、結構人気あるんですよ」と聞かされた。その人の知るところによると、浩之に告白して玉砕した女子社員だって何人かいたらしい。


そんな事は初耳だったので、つい口を尖らせて言うと、ふんと鼻を鳴らした浩之がつまらなさそうなそぶりを見せた。


「さあな。俺は職場は職場としてしか見ないしな」


式用に整えていた前髪が、一房彼の額に掛かる。それを軽く払いのけ、浩之が私の方へと身体を向けた。


「自分はどうなんだよ?親から急かされてたとはいえ、俺で良かったと思ってるか?」


同じ問いを返されて、思わず返事に詰まってしまった。


俺でよかったか、なんて。

そんなの答えは一つしかなかったからだ。


いくら相手が居ないからって、親に急かされてるからって、相手が誰でも良いわけではない。


束縛されるのは今でも嫌いだ。男に夢が持てないのも変わっていない。


けれど、この年齢に至るまで、誰に好意を寄せられても、どんな異性を目にしても、「浩之」ほど私の心にすんなりと入り込み落ち着かせてくれる人は居なかった。


流れた時間と同じくらいゆっくりと――――私は彼に、恋していた。


友人としての関係を壊す事が恐くなるほど、好きになってしまったから。ずっと誰とも寄り添わない彼との時間を、無くしたくないと強く願い続けた結果が、十年という長い月日を作ってしまった。


浩之には好感を持たれているとは思う。こうやって結婚までしたのだ。

だけど、彼に恋や愛で好かれているかと言えばそうではない気がしていた。


結婚しておいて、と言われるかもしれないけれど、結ばれるかどうかまでは約束に含んでいない。


それがどうなるのか―――式の間中ずっと、そんな事を考えていたなんてこと、口が裂けても言えるわけがない。


俺でよかったかという問いに答える言葉を探していると、突然、ギシリとベッドが軋む音がした。


私の隣に腰掛けていた浩之が、タキシードの首元を緩めたまま、ベッドの上へと上がってきたからだった。


「ちょ、浩之?」


突然の彼の行動に、首を傾げながら問い掛ける。

すると、私よりもずっと大きな身体がゆっくりと、私の上に影を作った。


「お前さ、鈍感過ぎ」


「……へ?」


私の上に覆い被さるようにして迫ってきた浩之の顔に、視線が逸らせなかった。

ベッドの上、あからさまな体勢に、年甲斐もなくパニックを起こしてしまう。


「本気で、この結婚が友情婚だと思ってる?」


「え―――」


振ってくる声に、私が返したのは驚きの声。

仕方ないなとでも言いたげに、微笑む浩之の顔は、今迄見たことも無いほど幸せそうで。


「一目惚れだったんだよ。綾乃」


「―――っ!?」


式で交わした誓いのキスより、深く熱さを含んだそれは、私に彼の想いを伝えるには十分だった。





『男嫌いの文学少女』


綾乃がそう呼ばれてるのを知ったのは、大学に入ってすぐの頃だった。


その頃、活字中毒に近い形で小説を読み漁っていた俺は、サークルにこそ入らないものの、本の貸し借りなどで部屋にはよく顔を出していた。


大学一年という花の時期に、綾乃はサークル部屋の端っこで、一人黙々と文庫本を呼んでいるようなそんな少女だった。小柄で、細い眼鏡をかけた彼女は、まだ高校一年生だと言われても納得してしまうほどの幼さを残していた。


俯いた顔の肌は白く、字をなぞる瞳は大きく黒かった。長い睫を伏せた姿が、とても綺麗だと思ったのを覚えている。綾乃は、俺が目にする度いつも、その頃お気に入りの文庫本を指定の場所で読んでいた。


話しかけたいと思いながらも、物語に夢中になっているのを邪魔するのも気が引けて、ついには彼女の友人と付き合っているという男に紹介を頼み込んだ。


(ちなみに、ソイツも活字中毒者だったので紹介の礼に某有名作家の初版本をプレゼントした。学生の時分には手痛い出費だったが、それでも心底感謝した。)


綾乃自身は、友人の交際相手が偶然連れていたのが俺だという事になっているが、真実は俺の一目惚れだった。


俺達二人は元々活字好きという事もあり話題は尽きなかった。二人で過ごす時間を、綾乃も楽しんでくれていると、俺も確信していた。


けれど、彼女に『告白』することは憚られた。


自分でも卑怯だとは思ったが、彼女になぜ相手を作らないのかと探りを入れた事があった。


綾乃には上に二人の兄がいた。

綾乃の整った容姿から想像するに、兄二人も見目が良いのだろう、彼女の口から語られる兄二人の様子は、男の俺からしても『女好き』だと断定するには十分な内容だった。


毎日の様に入れ替わる兄の相手、時には「彼女達」だと複数形で交際相手を紹介された事があるらしい。


これにはさすがに驚いたが、昨今草食と呼ばれている男が増えている分(俺も人の事は言えないが)肉食でかつ見目も良いとなると、相当モテたのだろう。


上の兄二人のあまりの奔放さに、綾乃は男というものに苦手意識と若干の嫌悪感を抱いているようだった。


それを聞かされた時の自分の心境は、今思い出しても辛くなる。


身近で見せられた相手を次々変えるという行為に抱いた恋愛感情への疑心や、男への苦手意識と嫌悪感は、まだ大学生の若造である俺には、到底打破できるものではないと考えた。


そこに、綾乃からもたらされた願っても無い提案。


『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』


言った本人は九割以上冗談で口にしたのだろうが、とりあえず言質は取ったと俺は喜んだ。

けれど、さすがに十年も手も口も出さずにいるつもりは毛頭無かったのだ。大学の卒業式で、彼女とその約束を交わした時は。


綾乃と友人としての付き合いを重ねるうち、彼女への想いは恋愛感情以上の物に変化していった。


物語にのめり込めば周囲の音が聞こえなくなったり、インドアな癖に話に出てきた場所には遠出してでも行きたがったり。屈託なく笑い、泣き、飾らない彼女の行動の全てが、俺の心を占めていった。


一度手に入れてしまえば、手放す事など到底出来ない。それを心底理解していた。


二十代の若造の頃より、年齢を重ねれば自信も実力もつけ、彼女に気持ちを伝えられるだろうと思っていた。


けれど、実際は違っていた。


月日を重ねれば重ねるほど、想いを告げた後の彼女の反応に恐怖した。


友人という状態であれば、この心地良い関係を失う事は無い。


けれどもし、俺の告白を彼女が迷惑だと感じてしまったら―――

それを考えるのが恐かった。


待ち合わせ場所に、綾乃が小走りで駆け寄ってきてくれるその姿を見る度、今日こそは告げようと何度も自分を叱咤した。なのに彼女がワインで頬を赤らめるのを見て、柔く微笑むその顔を見て、喉が詰まったように声が出なくなった。


この顔が見えなくなってしまったら―――この声が聞けなくなってしまったら―――


そう思うと、どうしても言葉を口にする事が出来なかった。

自分の不甲斐なさに辟易して、それほど綾乃を愛してしまった事に畏怖さえ覚えて、それでも彼女との変わらない日々を重ねていった。


そして。


約束の十年後―――俺は最初で最後の賭けに出た。



『十年経ったから結婚しよう』


いつもと同じく馴染みのバーで、浩之からそう告げられた私が返したのは、なんとも気の抜けた返事だった。


「……へ?」


待ち合わせに私が仕事で遅れて到着して、カウンター席で浩之の隣に腰掛けた瞬間だった。


目の前のテーブルにはまだ、カクテルの一つも置かれていないのに。


私が来るまでにどれだけ飲んだのかと勘ぐってしまいそうな発言に、私の頭は一瞬で真っ白になってしまった。


「お前言っただろ。卒業の時に。十年後、お互いに相手がいなかったら結婚しようって」


大人のムード漂う薄暗い店内でも、私を真っ直ぐ見つめる浩之の瞳だけはよく見える。

いつか交わした懐かしい約束の内容を、彼が口にしてくれた時、私の前に透き通った琥珀色のカクテルが一杯差し出された。

恐らく浩之が前もって頼んでいてくれたのだろう。


バーテンダーさんがカクテル名を告げてくれたけれど、私の意識は浩之だけに注がれていて、それを聞き取る事は出来なかった。


十年も前の古い約束を、まさか覚えていてくれたなんて―――


驚きと同時に湧き上がったのは、嬉しさだった。


大学卒業から十年、お互いに知る友人達のほとんどが結婚し、子供を作り、家庭というものを築いていった。友人にも家族にも、相手はいないのか、結婚はしないのかと、日々急かされていた。


いつか浩之とそうなれたら―――そんな風に思った事は一度や二度では無かった。

私の心は、いつの間にか彼だけしか見ていなかったから。


だけどまさか、その願いが叶うかつての約束を、彼の口から聞かされるとは思ってもいなかったのだけれど。


「確かにそんな約束したけど……でも、本気?」


「嫌か?俺と結婚するの」


驚く私に、浩之がふっと笑って目を細めた。その仕草に、普段は見えない色気を感じてドキリとする。


「嫌じゃ、ない、けど……」


これまでとは違う空気に、私はそう答えるのが精一杯だった。


そんな私に、浩之は「じゃあ決まりな」と笑って言って、自分のグラスを私のグラスに軽く当てて、弾むような綺麗な音を鳴らした。



こうして、十年越しのかつての約束は、果たされる事となった。


嬉しかった。

十年の月日をかけて降り積もった恋心が、浩之の妻になれる事に喜んでいた。


たとえこれが友情婚と呼ばれるものであっても、毎日の様に結婚を急かされる事への回避法であっても、彼と一緒にいられるのならそれでもいいと思えるほど想いは強くなっていたから。


突然決まった私達の結婚に、周囲は驚きつつも納得の声を上げ、祝福の言葉をくれた。


それからの浩之は、私が驚くほど手際が良かった。

式の準備も進んで行ってくれ、招待客のリストや手配など、互いに仕事をしながらだというのに、面倒なところは全て浩之がやってくれた。


あれよあれよと準備が進み、そして―――私達は今日、夫婦になった。



「一目惚れだったんだよ。綾乃」


そう言って私に口付けた浩之の唇の熱と、重なり合った身体から伝わる体温に、私は驚きと羞恥で一杯になっていた。


口内に入り込んだ熱の塊が私の唇の裏をなぞり、やがて啄ばむような優しいものに変わっていく。


「友人の紹介で、綾乃と知り合う前から俺は綾乃の事を知っていた。綾乃に近付きたくて、話したくて、頼み込んで紹介してもらったんだ」


息継ぎをするのと同時に聞かされた過去の真実に、私は目を見開き彼の顔を見つめた。


照れ笑いみたいにはにかんだ顔が、再び下りてきて私の額に軽い口付けを落とす。


「ずっと好きだと告げたかった。なのに失うのが恐くて出来なかった。自分でも情けない男だと思うよ。だけど十年綾乃に焦がれて……やっと今日、手に入れることが出来た。綾乃が嫌でないのなら、このまま本当に、本当の意味で俺の妻に、なってほしい」


浩之の大きな掌が、そっと私の頬を撫でる。


注がれる視線の強さと熱さに、頭が逆上せてしまいそうだった。


答えなど……決まっていた。


私も浩之も、この結婚は十年前の軽い約束を、ただ互いの状況の為に果たしただけなのだと思っていた。


友人としての親愛はあっても、そこに恋も愛もあるとは思っていなかった。


だけど違っていた。


私は十年かけて浩之に恋をして、浩之は十年前から私に恋してくれていた。


長い時をかけた甘い告白は、私にこれまでで一番の幸福をくれた。


告白よりも、結婚が先だった私達。不器用で、長い回り道をした。


だけどそれはきっと、私達には大切で、そして必要だった事。


優しく頬を撫でる手に、私は自分の手を重ね、彼の瞳を見上げ、そして。



「私も浩之が好き。今も、そしてこれからも―――」



私、瀬田 綾乃(せた あやの)は。



この日、塚本 綾乃(つかもと あやの)として、愛しい夫に想いを告げた。




<終>

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10 sweet wedding 国樹田 樹 @kunikida_ituki

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