第13話 最終話 男たちの新しい人生

「あなた、お医者様がいらしたわ」

 王妃の言葉に頷いた男の顔は元気がない、青ざめているのも無理ないだろう。

 自分は元気になると思っていたのだろう、あの事故から十日あまりが過ぎた今、ベッドから身体、上半身を、やっと起こせるようになった。

 だが、それだけだ。

 身体に、下半身に力が入らないと医者に告げると、無理もないですよと簡潔な返事だ。

 助けがないと歩けないと言われて王は聞き返した、それだけではない、子供も諦めて下さいと言われて驚いた。

 自分は決して若いとはいえない、だが、女との関係は楽しみの一つと言ってもよかった。

 それを諦めるだと、考えられない。


 その夜、ベッドのそばにやってきたのは王妃だ。

 「大丈夫です、歩けなくなっても、こうして生きているではありませんか」

 自分の足では立つことも歩くこともできない、それで生きているといえるのか、だが、そんな言葉を吐き捨てるように口にする相手に王妃はにっこりと微笑んだ。

 「あなたは王なんですよ」 

 「こんな何もできない身体で」

 「まあ、そんなこと」

 続く彼女の言葉に王は耳を疑った、今、なんと言った、彼女は。

 このとき初めて、妻の顔を見て気づいた。

 「おまえ、もしかして」

 どうしたんですと問いかける言葉、だが、このときはっとした、いや、気づいた、感情がないということに。

 夫が苦しい思いをしているというのに、妻である彼女は、聞かずにはいられなかった。

 すると口は開かず、王妃はこっくりと頷いた。

 「だって、捨てようとなさるんですもの」

 「な、何を言って」

 城にいる愛人たちでは飽きたらず下町の女にまで手を出して、猿、みたいですわと言われて王は顔色を変えた。

 「相談しましたの、彼女に」

 「女、誰だ」

 「あら、お忘れですの、あなたが愛人にしようとした女性ですわ」

 その言葉に身体が震えた。

 「何もしなければ良かったんですわ、彼に」

 彼、それは誰の事を言っている、まさか。

 違うと、王は叫んだ。

 「あれは、事故だった」

 だが、その言葉は届いてはいないようだ、聞いていないかのように王妃は、あなたと声をかけ、笑った。

 「私を捨てようとなさいましたわね、あなたの性格ですもの、どうせ、しばらくしたら飽きてしまうかもしれないでしょう、ですから、私に相談してきたんですよ、困るわ、と」

 笑いながら繰り返し呟いた言葉に王は返事ができない、いや、何かを感じ、悟ったのかもしれない。

 「どうするつもりだ、私を」

 「えっ、なんですって」

 「この国の王だ、私は」

 わかっていますわと后は頷いた。

 


 一人の男がオークションに出品された。

 ある国の王ということで注目を集めたが、買い手は最初、なかなかつかなかった、下半身が動かないので世話をしなければ大変だと思ったのかもしれない。

 だが、寛大な人間はいる、どこにでも。

 

 「紹介するわ、新しく家族になるのよ」

 母親は椅子に座ったままの男を見せると怪我をして歩けないのと説明した。

 あなたがお世話してあげるのよと。

 「今日から、あなたのおと、いいえ、妹になるのよ、ああ、お揃いのドレスを用意しましょうね」

 嬉しいと喜びの声をあげ、お父様ねと言葉を続けた、以前から人形が欲しいと頼んでいたのだ。 

 「そうだな、だが人形といっても色々だ、どうせなら特別なものがいい」

 母親もだが、父は自分にとても甘い。

 本当に貴方は甘すぎるわと妻が驚くほどだ。

 ギルド所有の奴隷は個人売買ができないのだが、特別待遇ということで手に入れたのだ。

 月に一度の体調管理、医者の検診、元恋人の、そういう手続きを承諾した上で手に入れたのだ。

 夫は娘が来て、いや、できてからと元気になった。

 そう、とても元気で夜も離そうとしない。

 「可愛い、ロアーナ」

 そう言ってだ。


 あなた、幸せと聞かれてロアンは答えた。

 鏡に映る女性【妻】に向かって。

 微笑みながら、勿論と。

 

 

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押し付けられたのは年上の未亡人 木桜春雨 @misao00

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