第12話  愛が、今、やっと返ってきた、形(金)になって 

 「売れるでしょうな、これは、いや、参りましたよ、あの手腕には」

 商人は満足そうに頷いた。

 「いいんですか、ギルドマスター、貴族なんでしょう」

 複雑、いや、わずかに困惑の表情を浮かべたのは店の支配人だ。 

 「これは商売だ、正規でない、闇と言われたら返事に困るだろう、だが、招待客も厳選されている」

 「そ、そうですね」

 就任して、この仕事についてまだ日の浅い男は名簿を見ると自分に言い聞かせた。

 気後れするな、失敗は許されないと。

 名簿に書かれた名前は近隣、遠国、様々な場所から来ている【裏の】有力者ばかりだ。

 人身売買、それも、これは公にはできないものだ。

 「でも、これは永久雇用、普通の売買とは違うんですね」

 「貴族だからな」

 その言葉に青年は不可解な表情を浮かべ、もう一度書類を見た。

 「最大、一ヶ月って短すぎませんか」

 「この男の身元は我がギルドでの永久雇用なんだ」

 はあっ、思わず間の抜けた表情になったのも無理はない。

 「個人売買だと完全に権利は買い側のものになる、すべて自由だ、死体になったとしてもだ、だがそれだと我々の儲けは、その場限りだ、だが、貸し出しという形で権利をギルドが持つ事になると話は違ってくる」

 失敗は許されないという言葉に若い支配人は肯いた。

 

 

 名前を呼ばれてロアンは驚いた、着替えてちょうだいと恋人に言われて用意された服は明らかに女物のドレスだ、どうして、自分が女物の服を着なければいけないのかと恋人の顔を見上げた。

 「働かないと

 にっこりと笑いかけられる、それは優しい恋人になったばかりの頃の笑顔だ。

 「ねえっ、まさか、ずっと遊んで暮らせると思っていたの、あなたは」

 貴族でしょうと言われ、言葉に詰まった

 「そんなことは、ない」

 力なく、だが、いいやと否定することもできずにロアンは肯くとドレスに手を伸ばした、着替えて化粧をすると鏡の中には別人のような自分がいた。


 「さあ、今日から一ヶ月、あなたは私たちの可愛い娘よ、名前は、ロアーナよ」

 老齢の夫婦に引き取られたロアンは娘として暮らすことになった。

 競売で夫婦はかなりの大金を払ったらしい。

 「私の事はお母様と呼ぶように」

 頷きながら自分はどうして逆らえないのか不思議に思った。

 「いい子にしていたら、飴玉をあげますからね、ぼんぼんは好きでしょう」

 ロアンは頷いた、ここ最近、ご褒美の飴玉を口にしていなかったからだ。

 何故なら、食べ過ぎてはいけないと彼女は全然、くれないのだ、恋人になったばかりの頃はとても優しかったのにと思ってしまう。

 

 取り分は、これでと言われてロリアは頷いた、ギルド側の取り分が多いが、それは仕方ない。

 ロアンに何か売られた先で病気や怪我などでうごけなくなった、不始末を起こした場合、それはギルド側の責任になるのだ。

 正直、今の自分に、そんな予測不能な事が起きた場合、対処できるかと聞かれたら答えNOだ、家族の生活は変わった今、自分の肩には色々なものがかかってきている。

 自分に商売ができるなど最初は思ってもみなかった、だが、自分が後援者となって必要な知識を教えるからと言われたのだ。

 その代わり、自分は恋人の世話をするという条件付きだ、そう、ロアンの身体、健康管理だ。

 彼が売られた先から戻って来たら、休ませて次の仕事に万全の体調で送りだすのだ。

 男娼という言葉が頭を過ぎったが、そんなものではないと言われて驚いた。

 客は皆、特別な地位にある人間ばかりで、ロアンを気に入れば。

 「あなたにも」

 そう言われて、最初はその意味がわからなかった。

 

 一ヶ月と少しばかりすぎた頃、ギルドマスターが尋ねてきた。

 「とても彼のことを気に入ってね、しばらくしたら、またと、ご所望なんだ、それでね」

 目の前には袋一杯の金貨だけではない、宝石、自国では手に入らないであろう特産の雌らしい食べ物や布だ。

 「これは君宛だ、ギルドは関与していないからね」

 贈り物だと言われ、山と積まれた金と品々を見てロリアは信じられなかった。

 だが、はっとする、これは正答だと。

 恋人、愛人だった頃には形のない愛しか手に入らなかった、だが、それが今、形となって目の前に。

 微笑まずにはいられなかった。


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