action!

猫町大五

第1話

 時は二十二世紀。ちょっとした間違いから発生したゾンビ・パンデミックは、地球外進出を果たした人類の居住地に、瞬く間に拡大した。各地では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられ、人類は自らの過ちに敗北する――ことは、別になかった。

 当時治安悪化の一途を辿っていた地球圏の各勢力はこれを機に一時休戦、その兵力をそのまま対ゾンビ戦へ振り向けた。大挙するゾンビも、強力な光線兵器と兵力によって瞬く間に壊滅し、世界はすぐに元の喧噪を取り戻した。――いや寧ろ、騒がしくなったかもしれない。いつの世も、流行り物は流行るから流行り物なのであるし。






「あーあ、易い仕事と思ったんだがなあ」


 弾切れの実体ライフルの弾倉を落としながら、男は誰にでもなくぼやいた。対ゾンビ戦の要は瞬間火力だ。だからこそ、得物が高連射速度のこのライフル――なのだが、あまりにそれ以外がどうしようもない。

 グリップより後ろに弾倉が来る、俗に言うブルパップ式。スタンダードなライフルよりコンパクトだが、反面様々な欠点が付きまとう。おまけにその歴史の黎明期に作られただけあって、いっとう使いづらければ耐久性にも優れない。ここまで人気がないライフルもそうないだろう。


「こりゃ危険手当も出ねえだろうなあ・・・」


 再装填の後の無造作な発砲。三点射の火線がゾンビの右腕を吹き飛ばし、次の三点射が頭蓋を砕いた。なお近づくそれの膝を砕くと、ようやくその場に頽れた。


「成程、元ご同業・・・でいいのか?随分稼いでたようだけども」


 物言わぬそれから、慣れた手つきで装備を剥ぐ。同じブルパップ式ライフルでもこちらは当時の最新型だ。

「視覚同調式スコープに、各種周辺機器がフルセット・・・本隊並みだな、俺達みてえな在庫処分じゃないようだ。でも俺これ好きじゃなかったんだよなあ、再装填が面倒で。リリースボタン押しても自重で弾倉落ちねえし、ボルトストップねえし、アンタよくこんな使いづれえライフルを――」

『無駄口を叩くな、誰かそこに居るのか!』

「一杯居ますよ、物言わぬ死体が。動く奴も動かねえ奴も、大勢」


 上に軽口を叩きつつ、男は出口へと歩みを進めた。






 こう、と船外に、オレンジの光が灯った。そう言えば蝋燭の炎はこんなんだったか、と頭の片隅に浮かんで、すぐに消えた。


「これ、結局俺達の仕事は必要だったんですかね」

「何がだ」

「最初からこう、コロニーごと吹っ飛ばしちまえば良かったでしょう、中身ごと。何故わざわざ中身を懇切丁寧に処理する必要が?」

「・・・上の要望だ」

「へえ」


 男は船外に意識を向けている。


「散々金を突っ込んで――本隊並みのフルコースを俺達無駄なおもちゃに、しかも貴重なおもちゃを扱わせてまで。まっこと、金持ちの道楽は理解に苦しみますな」

「・・・・・・」

「まあ金さえ頂けりゃ、こちらとしては言うことないんですがね」


 今回の報酬でとびきりいい肉といい酒を飲もうと、男はそう思考を巡らせた。

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