蝋人形に愛をこめて

成瀬 栞

プロローグ


「初めまして。私の名前は#00045————この度マスターから新たに命ぜられ、夕闇柊花という名になりました」



 淡々と、まるで機械のように発言する彼女は、どこか人間離れした顔立ちの持ち主だった。

 

 西洋人形のように小さくすぼまった薄ピンク色の唇に、くりくりと大きな瞳。

 

 長い睫毛で縁取られたその中には大粒の宝石を埋め込んだかのように煌めく瞳があり、彼女の存在感をより魅惑的に際立てる。

 

 陶器のように白い肌は蛍光灯の光を淡く反射し、まるで血が通っていないかのように透き通って見えた。


 そして何より目を引いたのは彼女の、烏の濡羽色の様に黒々と艶めく長い黒髪。

 夜の帳が降りてきたように重苦しい雰囲気なのに、キューティクルが光を反射する様はまるでそこに星屑がちりばめられているようで、彼女をより人間離れしたものへと変貌させていた。



「ああ、よろしく……?」



 香月透真が、何が何だかわからないまま軽く手を伸ばすと、行き場を失うかに見えたその手は意外なことにすぐに握り返される。

 ぎゅ、と弱い力で添えられたその手からは温かなぬくもりが伝わってきて、彼はそこで彼女が人間であることを意識した。



「あなたの手、とても温かいです」



 透真が言葉に出すよりも先に、彼女のほうがそんな一言を漏らす。無機質な声色。すぐに放される手。



「そ、そうか……」



 アンドロイドよりも淡々とした物言いをする彼女に困惑することしかできないこのころの彼は、その瞳に微弱なぬくもりが宿ったことを、まだ知らなかった。


 




 夕闇柊花、15歳の女子高生。

 



 世界の厄災をその身に閉じ込めるべくして産み落とされた実験体第45番は、香月透真と出会い、その運命を狂わせて云く。

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蝋人形に愛をこめて 成瀬 栞 @naruse-siori

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