後輩ちゃんはあほ女

「ね、猫なんて被ってませんよ!?」

「いやいや、昨日のお前の乱れっぷりみて信じるなって言うほうがおかしいだろう」

「みだ……何を言ってるんですか!?」


 再び顔を赤く染めた玲於奈。

 本当に表情が愉快なやつである。


「いいか、人が本性を現すのはピンチな時と酔っぱらった時だ。 俺は昨日お前の本性を見た。 だから猫を被るな、やりずらい」

「ぐぬぬ……わかりましたよ、まったく。 可愛くて謙虚な後輩、を演じ切るつもりだったのに……」


 そう口にした玲於奈に先ほどまでのどこか固い様子は無く、柔和な雰囲気をまとっていた。


「演じるつもりだったなら酒との付き合い方を考えろよな? めちゃくちゃ大変だったんだから」

「しょうがないじゃないですか? まだ飲めないガキンチョの先輩にはわからないと思いますけど、お酒って結構高いんですから。 タダで飲めるときに飲んでおかないと」

「ガキンチョの先輩ってのも変な話だがな」


 悪びれもせずにそう口にする玲於奈に俺はそう苦笑する。


「あの……先輩、すいません。 シャワー貸してもらってもいいですか?」

「ん? お、おう。 そ、そこを曲がったところにあるから」

「ふふ、先輩きょどりすぎです! 覗かないでくださいね? 襲われちゃいますー」

「そ、そんなことするわけ!」

「ふふふ。 冗談ですよ! タオルお借りしますね!」


 玲於奈は軽く笑みを浮かべながら風呂場へと向かっっていく。


「くそ……動揺しすぎちまった。 でも、始めて女子を家に上げたんだからしょうがねぇよな……」


 そんな自問自答をする俺をあざ笑うかのように、風呂場から玲於奈の声が聞こえてくる。


「うわ、先輩。 めっちゃ良いシャンプー使ってますね! 私のと交換しません?」

「いやだよ!? なんで後輩の女子とシャンプー交換しなきゃならんのだ!」


 まさかの発言に俺は声を上げた。


「冗談ですよー。 とりあえずしっかり体を綺麗にして一限に備えないと……」

「あ? 一限ならもうとっくに始まってるぞ?」

「は? マジですか?」

「おいおい! タオル一枚で出てくんな!」


 俺の言葉に素っ頓狂な声を上げながら風呂場からタオル一枚で飛び出してくる玲於奈。

 叫ぶ俺を無視して、鬼気迫る表情で自分の携帯を確認した玲於奈は、しなしなと力なくその場に座り込んだ。


「今日は……一回生の間一緒に行動するゼミのメンバーとの自己紹介があるんですよ……終わった……私留年します」

「まぁ……初回から遅刻したとかの方が印象には残るだろ……」

「そんな印象の残り方は嫌です……」


 もうどうとでもなれと言わんばかりに、玲於奈は弱々しくそう呟いた。


「まぁ……やっちまったものは仕方ねぇ。 だがその前に服を着ろ」

「うぅ……今日は大事な日なのに……」


 そう言って項垂れる玲於奈。

 一向に服を着る気配はない。


「はぁ……とりあえず大学行ってきます……。 サークルでまた慰めてください……はぁ」


 目に見えるようにへこみながらいそいそと準備をして大学へと向かう玲於奈であった。


 ★


「せんぱい。 私はおしまいです。 もう生きていけないです」


 その日の夕方。

 俺の予想通り明らかに意気消沈してやって来た玲於奈であった。


「だめだったか」

「はい……そもそもゼミにすら間に合わなかったので遅刻魔キャラにすらなれませんでした」


 そう言って俯く玲於奈は、本当にしんどそうだった。


「ま、失敗は誰にでもあるさ」

「うぅ……慰めてください……」


 そんな弱々しい声でそう口にする玲於奈に苦笑しつつも、俺は口を開いた。


「とりあえず……ストシスするか」

「はい。 私はストシスしか取り柄のないあほ女です。 よろしくお願いします」

「いや、お前は他にもいいところあると思うぞ、ほら…………まぁ色々と」

「……先輩、それフォローになってませんよ?」


 玲於奈はジト目をこちらに向けながらもいそいそとアケコンをリュックサックから取り出した。

 そんな玲於奈と俺はゲーム機にコントローラーを接続して対戦を開始するのであった。


「憂さ晴らしです! このこのこのこのこの!」


 玲於奈は昨日よりも攻撃的な立ち回りで、俺をミラーでボコボコにするのであった。

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女後輩ちゃんは同キャラ使い わさびもち @kurara18

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