第3話

 今日は母が、私が起きる前に家を出て行った。なので、のびのびとしながら支度をしていた。

 いつも通りの時間に起きてから顔を洗って、灰色のシャツにと黒のワイドパンツというラフな格好に着替える。私はダイニングテーブルにノートやら参考書やらを置いて、勉強を始めた。







 勉強に集中していると、ふいに家のチャイムが鳴った。

 玄関に行ってドアスコープを確認してみると、加藤が立っている。ドアを開けると、「おはよう」と言って加藤は微笑んだ。私も「おはよう」と返す。

 加藤は雪みたいな白色のTシャツに、藍色のズボンを履いていた。

 私服姿は久しぶりに見たなあ、とぼんやり思う。


「もう十時だよ。まだ着替えてないの?」

「あ、ほんとだ。ずっと復習してて」

「また勉強? 目が悪くなっちゃうよ」

「いいよ。どうせもう少しで死ぬんだし」


 そう言うと、加藤は少し悲しそうな顔をして「そんなこと言わないの」と眉を下げて笑った。


「ほら、待ってるから着替えてきて」

「立ってて疲れない? リビング散らかってるけど、部屋入ってもいいよ」

「ううん、大丈夫。その変わり、早く準備済ませてね」

「わかった」


 頷いて家に戻り、自室に向かう。白いシャツと黒のワイドパンツを着て、小さい頃から使っているせいでボロボロになっている灰色のトートバッグを持ち、白のスニーカーを履いて外に出た。

 加藤は私の姿を見ると、「またその恰好? 好きだね」と笑った。まあ、と曖昧な相槌を打つ。

 別に、好きなわけではない。服には無頓着だから、同じようなものしか持っていないだけだ。


「じゃあ、行こう」


 彼の言葉にうん、と頷いて、二人で並んでマンションを出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あと少し。 琴瀬咲和 @mirietto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ