第3話
今日は母が、私が起きる前に家を出て行った。なので、のびのびとしながら支度をしていた。
いつも通りの時間に起きてから顔を洗って、灰色のシャツにと黒のワイドパンツというラフな格好に着替える。私はダイニングテーブルにノートやら参考書やらを置いて、勉強を始めた。
*
勉強に集中していると、ふいに家のチャイムが鳴った。
玄関に行ってドアスコープを確認してみると、加藤が立っている。ドアを開けると、「おはよう」と言って加藤は微笑んだ。私も「おはよう」と返す。
加藤は雪みたいな白色のTシャツに、藍色のズボンを履いていた。
私服姿は久しぶりに見たなあ、とぼんやり思う。
「もう十時だよ。まだ着替えてないの?」
「あ、ほんとだ。ずっと復習してて」
「また勉強? 目が悪くなっちゃうよ」
「いいよ。どうせもう少しで死ぬんだし」
そう言うと、加藤は少し悲しそうな顔をして「そんなこと言わないの」と眉を下げて笑った。
「ほら、待ってるから着替えてきて」
「立ってて疲れない? リビング散らかってるけど、部屋入ってもいいよ」
「ううん、大丈夫。その変わり、早く準備済ませてね」
「わかった」
頷いて家に戻り、自室に向かう。白いシャツと黒のワイドパンツを着て、小さい頃から使っているせいでボロボロになっている灰色のトートバッグを持ち、白のスニーカーを履いて外に出た。
加藤は私の姿を見ると、「またその恰好? 好きだね」と笑った。まあ、と曖昧な相槌を打つ。
別に、好きなわけではない。服には無頓着だから、同じようなものしか持っていないだけだ。
「じゃあ、行こう」
彼の言葉にうん、と頷いて、二人で並んでマンションを出た。
あと少し。 琴瀬咲和 @mirietto
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