46年目

 小学校の教室、給食の時間を終えて、昼休みに外に遊びに行きます。


 昼休みの終わり際、ボールを投げあって、最後にボールに触った人が片付けるルールで、ユウ君は昇降口でボールに当たってしまい、悔しがりながらボールを片します。


 林間学校で、キャンプファイヤー。

 男女でペアになるフォークダンスが始まり、次は中井さんの番。

 ユウ君はゴクリと喉を鳴らし、とうとう中井さんと一緒になり、手を握る。

 照れ合いながら、時間はあっという間に過ぎてしまい、フォークダンスもキャンプファイヤーも終了。

 その後、中井さんに宿泊施設の裏に呼び出されて、

「神在月君、わたし、神在月君のこと、好きです」

 告白されて、

「うん、俺も、中井さんのこと、好きだよ」

 ユウ君は、中井さんを抱き寄せました。



 のっそりと、ユウ君はベッドで寝返りを打ってから、瞼を開きました。

 楽しかった思い出を夢に見ることは、今日に始まった話ではありません。


 無邪気に遊んでいた小学生。

 中学生の頃の部活でのこと。

 中学の卒業式で、ボタンを後輩の女の子にねだられて、渡したこと。


 それら、事実をだいぶ脚色した感じの夢を、よく見ています。


 そう脚色です。

 フォークダンスで中井さんと踊ってないし、告白なんてされていません。

 卒業式で、後輩の女の子にボタンをねだられてもいません。


 完全に思い出の美化です。


 現実逃避の結果、一番よかった時期のことを思い出し、自分を慰めることが、ユウ君の救いです。


 冷静に今の自分を見たら、とても耐えられそうにないから。


 自分でもよくないってわかってるってことなんだけど、でも認めるのが怖くて。


 考えることが怖いというよりも、どう考えればいいのか、どうすればいいのかがわからなくて。


 少し考えて、でも、わからないからって、考えることをやめてしまいます。


「……腹減った」


 結局今日も、まずは部屋の前に置かれているはずの食事を求めて、ユウ君はベッドから起き上がります。


 きっと今日も、いつも通りに無料漫画サイトで一日一話無料を消費して、無料のブラウザゲームをやって、匿名掲示板を巡回して、顔も知らない誰かを書き込みで煽るんでしょう。


 ほんと、変わり映えしないね。


 変わらないと、詰みだよ?


 わかってる、ユウ君?

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2025年1月11日 12:00
2025年1月13日 12:00

ユウ君の成長日記 神在月ユウ @Atlas36

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