第6話もう一人の魔女の作品

 ☆☆☆

 ここは夢の中。あなたの望む夢の時間をご堪能あれ。


「ここはどこなんだ?」

 美術館と映画館が1つのフロアにあった。

 美術館には歴代の名画と呼ばれるものがひとそろい展示してあった。


「これがゴッホか。モネか」

 名のある作品が所狭しと年代順に並んでいる。

 名画好きには堪らない光景だろう。


「豪華な夢だ。こんな歴史を知れるなんて」

 ゆっくりと観覧して終わりになった。

「ああ、勉強になるし、落ち着いた空間に癒されるな」

 お土産のブースもあり、本当に美術館にいるみたいだ。


「いくらだ?」

 絵葉書が420円。良心的な値段ではない。

「オレの手持ちは」

 ポケットに入っていた200円ほど。

 入れたわけでもないのに入っていた。

 夢を見る人ようの基本設定なのかもしれない。

 買えるわけもなく、絵葉書を元の場所に戻した。

「喉が渇いたらジュースを飲める程度ってわけかぁ」

 諦めてもとのエントランスホールに向かうと、映画館が見えた。

 

 映画館にも行ってみようと歩きだした。

 歩いていくうちにポップコーンの独特な香りが漂ってくる。

 3つの作品のポスターがあり『マリリンモンローと舞踏会』を選んだ。

「はい。入場料1円」

 格段に安い。

 夢を見た誰でも見れるように価格設定をしているのだろう。

 マリリンモンローは高嶺の花で、遠くから見るだけだった。

 訃報によって、スクリーンに映る親しい人が泣いている。

 客席でみている人も泣いているようだ。


「あんなに素敵な女性だったのに」

 胸に虚無がこみ上げる。

「幸せになってほしかったのになぁ。残念だ」

 

 ☆☆☆


 ジリジリジリジリ

「もう朝か」

 沢山の情報を見た気がする。

 お得感を感じる。よほどいい夢だったのだろう。

 幸福感と少しの寂寥感。

 もう一度見たくて枕の下に敷いてあった本を引っ張り出す。

 パタパタとページをめくるが、ページには空白があるだけだった。


「素敵な本を作るなぁ」


 コーヒーを淹れながら、今後をぼんやりと考えている。

 リラックスとは少し違うが、気分のいい朝だ。

 年若い魔女は馬鹿にしたような態度から、

 渾身の作品を持ってきたことは分かった。

「きちんと大人として扱わなければなるまい」

 ☆☆☆

 2号店の開業を来月1日に控え、一号店との往来が増えている。

「では、明日から向こうの店舗でがんばってくれたまえ」

「「はい」」

 2人は返事良く、あれやこれやと意見を言いながら店舗へと向かっていった。

「あんな調子で大丈夫かね」

 ランランはにこやかに笑った。

「大丈夫だと思います。彼女は有能ですから」

 甥の方も説明はきちんとできるようになっている。

 これならばそこそこの売上は出せるだろう。

 ☆☆☆

 半年がたった。

「さすが大都市だけあって売上はかなりある。

 こちらの店舗の倍とは恐れ入る」


 あまりの忙しさに時々魔女同士が助け合っているようだ。

 1号店では先代魔女の作品を継ぎ足してしのいでいる。


 先代魔女の蔵書にはホラーからサスペンスまであるので

 よくよく確認してからでないと店頭に置けない。

 売上や店舗管理に加えて内容の確認も行っている。

(先代の魔女が尖っていたという理由もわかる)

 火やぶりの描写がある本もある。


 歴史を忠実に再現したものらしいがこんなもの夢に出てきたらトラウマ物である。

「こいつも禁書だなぁ」

 パサリと禁書ボックスへと放り込む。これで30冊くらいは禁書になっただろうか。

 まだまだ確認しなければならない蔵書はある。

 もちろん感動系の作品も数多くあり、

 検閲しているこちらがウルウルしてしまうものも多々ある。


「ストレス社会だからな。1つでも多く人を癒せる作品を作って欲しいものだ」 


 こうして少しずつ大きくなり、成長していく。

 夢の本屋はどこか小さな街にそっと営業している。


 あなたのお気に入りの物語はなんですか?

 さぁ、お聞かせください。

 満足のいく物語をご提供いたしますよ。

 END

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夢見の本屋 朝香るか @kouhi-sairin

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