第5話 2店舗目

 ☆☆☆

 大通りから一歩はずれた場所に目星をつける。

 目越しい空きテナントを見つけ、交渉し、金額を値切り、


 内装工事までこぎつけた。

「好きにしていいとか太っ腹な貸主様だな」


 魔法でやってしまえばいいじゃないかと思うが、

 消えてしまうリスクがある。


 初めて主席の子に連れてこられたのは金髪でスラッとした子だった。

 モデルにもなれるかもしれない美しさだ。

「本田リオーネと申します」

「珍しい名前だね」

「ハーフなもので。正式には本田・リア・リオーネと申します」

「それで、魔法でできないものだろうか?」

 リオーネは冷静に返す。

「無理ですね。何年かすると魔法とて劣化します。その時に治せるものがいればいいですけれど、修復の魔法段違いに難しくなるのです」

「そうか。今何人くらいの魔女がいるんだい?」

「こちらの市には魔女学校卒業時には全部で5人の魔女がいると聞いております。それから仕事を探さないといけないでしょうから残るのは3人ほどかもしれません」

「そうか」

 世に知られていない魔女を探すのは至難の業だ。

「これから契約していくが、内装は2人で決めるといい」

「「はい」」


 ☆☆☆

 新店舗を契約して2週間がたった。

 内装が完成するまで2人は研修としてウチの店舗で働いてもらっている。

 2号店でも同じような接客をできるようにするのだ。


「うへぇ。こんなに説明長いんですか?」

「これくらいで長いというな。

 すべて必要なことだぞ。これでも少ないほうだ。

 初めての方に説明すればいいだけだ」


 甥は頭をカリカリとかいた。

「わかりました。覚えます」

「よろしい」


 もう一人の魔女に向き直る。

 スレンダーな魔女にははっきり言うことにためらいがある。

「それで、……あなたは本を作れるのか?」

「リオーナです。

 ランランのおばあさんから聞いております。

 ランランの得意は音楽ですけれど私は芸術全般です。

 どのようなことでも承りますわ」


「よかった。今はASMRという……」

「心配なさらないでください。

 真樹から聞いております。

 実はもう手伝いをしておりまして作り始めておりますわ。

 まぁ……ランランと違って少々お時間が必要ですけれど」


 少し拗ねているのが年相応でかわいらしい。

 きっと主席と次席の間にはスピードという差があるが、

 おおむね扱える能力に違いはないのだろう。


「かまわない。2人で作れるのなら協力して作り続けてくれ」


「あ、そういえばわたくしの十八番の本ですわ。

 よろしければ、お試しください」


「ありがとう。時間が来たら試してみるよ」

 魔女には働いてもらわないといけない。

 人気は相変わらず続いている。

 無料で行っているアンケートには隣の市からきている方も出始めた。

 9駅以上離れている場所からきてくれたことになる。


「わかりました。本作りはお任せください。

 ああ、それと明日から新店舗へ本の搬入を行いますわ」

「ああ、応援はしなくて大丈夫ですか?」

「ええ。保管している場所から魔法で移動させます。

 もし一般の人に触れてはならないものもございますから」

「危ないものはないんだよな」

「はい。ただ、数百冊分はバーコード封印がなされていません。

 至急封をしているのですが何分、数が多いので少し危険かと」

「まぁ、下敷きにして寝なければいいんだろ」


「何があるかわかりません。

 おばあさまはそれ以外に細工していないとも限りませんから」


「大丈夫ではないのか」

 穏やかな老婆を思い出す。

 それには首を振る。


「年を取ってだいぶ丸くなったのです。

 若いころは過激な思想をもって行動していた時もあるのだとか」

 

 若いころは相当な武勇伝を残したそうだ。

「二面性があるのが人間という生き物ですから」


 新店舗へ本を運ぶのを手伝うのだという。


 こうして甥御とリオーナの2人に任せる。

 内装と引越作業が終わったと連絡があり入ってみると、

 内装はヨーロッパの宮殿のようになっていた。


「高級そうな棚だな」

「リオーナの趣味でして、かなりお金がかかるはずなんですが」

 精いっぱい胸を張ってリオーナはいう。

「わたくし、財閥の末裔でして、これくらいの額ならうちが出しますわ」

「頼もしいな。これなら安心して任せられそうだ」

「店主様。チラシを作ってまいりました」

「ありがとう。ランランさん。助かるよ」

 そうすると黒髪の少女は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

「まぁ、ランランったら」

「――どうしたんだ?」

「な、なんでもございませんわ。きょうもバリバリ作りますから」

 魔女と甥のおかげで、店舗の完成が見えてきた。

「今日はもらった本を試せそうだ」

 店主は安心した様子だ。

 リオーナから貰った本を枕の下に置いて寝ることにした。

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