第4話 成長と提案と
☆☆☆
木梨夏美はまた来店していた。
お詫びにと頂いた極楽の湯は本当に心地よくて
もうこの世のものとは思えないほどリラックスできた。
「なんだか、この頃疲れないんだよね。逆におかしいわ」
これまでは栄養ドリンクを飲んでいたのにそれを飲まずに働けている。
「正直言って本でこれだけ動けるっているのは助かるわ」
今までドリンクの出費が痛かったが、
1か月に2本ぐらいでここまでリラックスできるのはコスパがいい。
「これをください」
「はい」
店には常になぜかここのところ5人以上の人が出入りするようになる。
「今日は大盛況ね」
「そうなんですよ。最近忙しくって」
「よかったじゃない。極楽だったわ。また来るわね」
店主は本を追加し終えてから一息つく。
☆☆☆
店主は驚いていた。
これは売り上げが倍になるかもしれない。
(あの少女には人をひきつける力があるのかもしれない)
リピーターになった人に話を聞くと「楽しかった」
「癒された」「また同じようなものをみたい」と良い感想が続々と届く。
客層も10代の若者が多くなった。
「試験勉強の後に、リラックスできるんだ」
大学入試を控えているという男性はそういって何日も通ってくれる。
売れ行きを見て、目立つところの本は少女作のものを前面に置いた。
今まで主流だったおばあさん魔女の作品は端の方へ並べることにした。
これまで通ってくれていた老人には丁重に案内をした。
「そうですか。代替わりですか。仕方のないことですね」
「あれ、あの本のシリーズはどこかね?」
「こちらです。これらで最後になるんです。楽しんでくださいね」
老人には受けている作品ももうあと少ししかない。
他のシリーズを選んでもらうか、新しいジャンルになれてもらうかしかない。
彼が好きだった本はもう増えることはないのだから。
☆☆☆
本格的な代替わりから3か月がたった。
売れ行きは好調で、売り上げが3倍になっている。
(不思議なものだ。客の好みがわからないものだ)
流行は生ものだ。こちらの意図したものではなくとも売れることだってある。
「こんにちは。新しい本の入荷に伺いました」
「よく来たね」
「お嬢さんは学校に通はなくていいのかい?」
「魔法学校に通っております。今回も首席でテストを通過しました。来年にはもっとすごい本を作って見せます」
「すごいな。頑張ってくれよ」
人見知りな少女は将来有望な子供だ。
「あの、ご提案がございます」
「ん? なんだい」
「月1回のペースにはなると思うのですが、読みたいものを作ってみたいんです」
「それなら抽選で1冊提供すればいい。勉強は忙しくはないのかい?」
「もう来年で卒業なのです。魔女の独り立ちは人間界の時より早いのです」
「そうかい。やってみるといい。いい経験にもなる」
ひいてはさらにいい本を作ってくれるかもしれない。
「ありがとうございます」
彼女はそういって帰っていった。
目安箱を設置して、ポップに『月一で皆さんのご要望承ります』
という棚を設置して受け取り主のためのスペースを確保する。
「これで良しっと」
さらに利用者が増えて魔女は大忙しだ。
「ぜひ、隣町にも出店してください」
という要望が増えてきた。
「さすがにキャパオーバーだろうな。おれも体は1つしかないわけだし」
主席だという魔女は黒のワンピース姿で現れた。
さらに追加の本を何冊か持っている。
「お困りですか?」
「ああ。人が足りなくって」
「わたくしの友達を紹介してもよろしいですか?」
「ああ」
6駅分先の大きな町に出店してくれという要望がたくさんある。
「次席で卒業する子でして、先代魔女から本の作り方を教わってます」
「じゃぁその子に話をしてみてくれないか」
「あとは店主だけだが、誰に任せるか」
甥に頼んでみるか。
さっそく甥に電話をかける。
『それって儲かるんですか?』
「ああ。今のところ大きな黒字だよ」
『それならやってみよっかな』
「頼むよ」
『わかりました。お年玉待ってますね』
「もう18だろう。そんなものはないよ」
『はー。わかってないですね。心はいつでも少年なんですよ』
それを口にできる神経が羨ましいと思う。
やることができた。
閉店間際からやることがいっぱいだ。
今夜は冷えるからジャケットを羽織って外出する。
まずは店舗探しだ。
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