第3話代替わり
連絡をくれた孫娘が来店してくれた。
「この度はご愁傷様です」
「お気遣いいただきありがとうございます。祖母の告別式まで済ませましたのでご報告に上がりました」
彼女はきちんとした黒のドレスを着ている。魔女の正装なのだろう。
彼女は6、7冊の本を鞄に詰めているようだった。
椅子にドスンと置く。
「これからは私が夢の本を作ることになります。宜しくお願い致します」
「よろしくね」
急なことだったから魔法がきちんと継承されているかどうか不安になる。
目線を合わせて、話してみる。
「ためしに君の作った本を使ってもいいかな」
「はい。どのようなものをご所望されますか?」
「楽しい作品を」
「かしこまりました」
「ではこれを」
背表紙には『夢でおもちゃを』だった。
夢でおもちゃと遊べるものらしい。男の子に喜ばれそうだ。
「おもちゃか。いいかもしれない」
大人になると子供の気分は持てなくなるものだ。
持ちたいとは思っていてもなかなか現実問題できなくなるものだ。
店の看板をクローズにして、店の整理をする。
夜を楽しみにして仕事にいそしむのだった。
☆☆☆
ここは夢の国。人形が意思を持ち人間を楽しませる。
君も楽しみにしておくといい。
列車が走り、人形たちが言葉を話し、踊り、音楽を奏でる。
まるで祭りのようだ。
「あなたも踊りましょうよ」
「ああ」
この町では一日中踊りまわっている。
テディベアにカップを渡された。
「疲れがなくなるドリンクよ」
「ありがとう」
グイッとのむと何とも形容しがたい味がした。
(独特な味だ。おいしいということにしておこう)
テディベアは案内してくれる。
街の入り口から外れまで歩き、歌う。
「どんちゃん騒いで、好きなものを食べて歌って踊ろう」
にぎやかな祭りはいつまでも続く。
☆☆☆
パチッと目が覚めた。
いつも目覚まし音で起きるが今日は自然に目覚めた。
6時55分。
あと5分寝れたのにと思う。
夢を見たがきっとストーリーがいまいちなのだろう。
すっきりした感じはなく、なんだか疲れた。
「不満だ。これで600円も700円も取れない。きちんと話さないと」
常識的な時間帯になるまでコーヒーを入れて待つ。
10時きっかりに電話をかける。いつもならこの時間で出るはずだ。
電話で文句を言う。
「もらった本を試してみたけれど、ストーリーがいまいちなんだよね」
『かしこまりました。面白くなるように努力いたします』
面白さは努力でカバーできるものではない。
作り手に人生経験が少ないのも一因だろう。
「おばあさんが残したものはどれぐらいあるの」
『おおよそですが……数千冊ほどでしょうか』
「そんなにあるのかい」
『ええ。自分に何かあったときのためにと一日10冊以上作っておりました。
なので私が成熟するまでの間はそちらで対応できないでしょうか』
「モノによるが、今は癒しを求めに来るお客様が大半だ。
それに対応できるようなものがあればいいのだが」
『今はやりのASMRのシリーズがございます。しばらくはそれでいかがでしょうか』
「いいじゃないか。それなら人生経験が反映されるものではないだろう」
『はい』
「では、今度の金曜日には5冊頼むよ」
『はい。承りました』
☆☆☆
少女は8冊程度だろうか、重そうに持っている。
「こちらが、祖母の代表作で
「いいじゃないか。それを入荷してくれればしばらくは大丈夫そうだ」
「はい。では店主様にこれをお勧めいたします」
「は?」
「私の腕が信用できないご様子でしたので。私の
「ああ、なるほど」
確かに何やら夢の中で音楽が流れていたことを思いだす。
「一週間、新作としてそれを出してみよう」
「ありがとうございます」
12歳の少女が作った本は一番目立つ場所に並べられ、
いち押しとポップもつけた。
(大きな取引相手はこちらも同じだ。できることをしないとな)
新作の本を入荷して3日にある。
なぜか1日の客が多くなってきたと感じる。
接客する時間も新規のお客様に説明することも増えてきた。
新規の男性のお客様に聞いてみると思いもよらない答えが返ってきた。
「噂で聞いたんですよ。ここって面白い本があるって」
どうやら口コミで広がったらしい。
誰が広めたものなのかわからないが繁忙期が来たようだ。
店主は新規客ををリピーターにするべく愛想笑いを浮かべた。
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