幼い頃から一緒に居る幼馴染に、俺は最近ドキドキしている。

みょん

プロローグ

『れんちゃん……私たち、ずっと一緒に居られるかな?』

『居られるに決まってるだろ! あぁあれだ……えっと、俺たちの友情が続く限り大丈夫だ!』

『友情……』

『そう友情だ! だから乃愛のあ、俺たちはずっと一緒だぜ!』

『うん! 私たちの友情は不滅ってやつだね!』


 幼い頃、そんな約束を少年と少女は交わした。

 二人の付き合いは幼稚園の頃からで、親同士の仲が良かったのもあって会う機会はとにかく多く、幼いからこそ一度打ち解け合えば仲良くなるのもすぐだった。

 二人は男女の垣根を超えるかのような仲を育み、それこそただの友達を超えた友情を二人は培った。


 男女の友情は成立しない。


 そんな言葉があるにはあるが、間違いなく二人はその言葉を真っ向から否定した存在と言えるだろう。

 幼稚園、小学校、中学校、そして高校生になってもそれは変わらずずっと一緒だった。

 しかし、成長するにつれて男の子は理解したのだ。

 男女の違いとは、明確に浮き彫りになるのだと。


「……幼馴染から女を感じちまう」


 少年はそう呟き、傍に居ない少女を思う。

 中学生になったくらいから段々と女としての色気を醸し始めた少女に、少年は意識するようになってしまった。

 美しく可憐に成長し、体の凹凸もハッキリと分かるほどになり、傍に居るだけで心臓がドキドキしてしまう。


「……けど……離れたいとはならねえよな」


 ドキドキするのは間違いなく彼女を女として意識しているからだろうけれど、だからと言って離れたいとはもちろん思わない。

 お互いに成長し変わってしまった。だが、かつて少年は少女と友情を誓い合ったのである――もちろん義務感ではなく、少年は本心から少女との友情を守り続けたいと思っているのだ。


「お互いの家族も仲良いし、俺たちもそれは一緒……だから何も悩むことなんてない……ないけどさぁ!」


 それでも意識してしまうのは仕方のないことだと、少年――上坂うえさかれんは悩むのだった。


 ▼▽


「……………」


 ベッドの柱に背中を預けながら、手元の漫画を読んでいる。

 今流行りの青春バトル漫画なのだが、友人に勧められて読んでから随分ハマってしまった。

 しかしながら、全く内容に集中出来ていなかった。


「すぅ……すぅ……むにゃ」


 静かな寝息が背後から聞こえる。

 チラッと顔をそちらに向ければ、ベッドを占領するように女の子が無防備に眠っている。


「……気持ち良さそうに眠ってやがる」


 人の気も知らないでと、俺ははぁっとため息を吐いた。

 再び漫画に視線を戻しても、変わらず聞こえ続ける安らかな寝息と身動ぎする音が集中を掻き乱し、また女の子へと視線を向けた。


「ぅん……れんちゃ……むにゃ」

「……可愛いかよ」


 ついつい本心が漏れ出る。

 ベッドで寝ている女の子の顔立ちは整っており、可愛いと綺麗が両立しておりまるで人形のような美貌だ。

 彼女は三尋木みひろぎ乃愛のあ

 幼稚園に通うよりも前に知り合い、それからずっと一緒に過ごしてきた幼馴染である。


「れんちゃん……もう……たべすぎぃ」

「何をだよ……」


 さぞかし良い夢を見ているようでその表情は幸せに満ちている。

 俺ははそっと立ち上がって漫画を棚へと戻し、眠っている乃愛を見下ろした。


「……こいつ、めっちゃ綺麗になりやがって」


 金色のサラサラとした髪の毛、目鼻整った顔立ちはクラスでも男子からの人気を集め、更には学校中の男子たちの熱視線を浴び続ける大きく膨らんだ胸。スカートから覗くムチッとした健康的な太もも。周りに誰も居ないからこそ、思わず凝視してしまう。


「……乃愛さ~ん?」


 呼び掛けてみるが彼女は全く起きる気配がない。

 彼女は自分の家でもそうだが、この部屋も乃愛にとって凄く落ち着く場所らしく、ここまで無防備で居られるのだろう。

 俺がまさか悪戯なんかをするとは思っておらず、全面的に信頼してくれているからこその無防備さだ。


「……………」

「……うん?」


 ジッと見つめていたのが悪かったのか、乃愛が目を開けた。

 眠たそうに目元を擦りながら上体を起こし、こちらのことを認識しているのか分からない様子で見つめてくる。

 髪の色もそうだが、彼女の母親が日本人ではないのもあって青色の目も宝石のように綺麗である。


「……おはよう」

「……蓮?」

「おう」


 おはようと言っても既に夕方だ。

 寝言では昔の呼び方をしていたものの、いつもの呼び捨てに戻ったので完全に目が覚めたかと思いきや、乃愛はにぱぁっと笑みを浮かべて両手を広げて突撃してきた。


「れ~ん!」

「ぐほっ!?」


 カーペットを敷いているとはいえ、固い床に背中を打ち付ける。

 ちょうど頭の位置に座布団があったので大事はなかったが、随分と重たい一撃をくれたものだと内心で文句を言う。


「……あれ? 私ったら何を――」

「良いから離れんかい」

「あいたっ」


 決して痛みを感じない程度に俺は乃愛の額を軽く小突いた。

 かなりの手加減をしたことで痛みは一切ないはずだが、それでも乃愛は小突かれた場所に手を当てながら涙目になり、ぷくっと頬を膨らませて睨みつけてきた。


「蓮ったらひっどいなぁ。寝起きの幼馴染を小突くなんてさ」

「いや、いきなり抱き着かれて押し倒されたら誰でもああするって」

「私はそんなことしないよ?」


 そう言って乃愛は俺に顔を近付けた。

 フワッと香る甘い匂い……何故女性はこんなにも良い匂いがするんだろうと考えるが、更に乃愛は顔を近付けてくる。


「ちょっ!?」

「最近さ――」


 ふと、乃愛の冷たい声にキョトンとした。

 押し倒されたことに対する焦りは完全に鳴りを潜め、見下ろしてくれる乃愛の冷たい眼差しに身震いする。

 目に入れてもおかしくないほどの美少女とはいえ、こんな乃愛の姿を見たことがない蓮は幼馴染に対して絶対に抱いてはいけない“恐怖”という気持ちを抱いた。


「私から距離を取ろうとしてないかな……かな?」

「乃愛から距離を……?」

「うん――距離を取るというよりは、どこか遠慮がちになってない?」


 その言葉に、俺は合点が行った。

 幼い頃に友情を誓い合った幼馴染相手に、女を感じてドキドキしているからこそ今まで出来ていた簡単なやり取りさえ慎重になっている。


「私たちさ、ずっと一緒だって約束したよね?」

「あ、あぁ……」

「蓮がそれを破るなんてこと……ないよね?」

「な、ないって!」

「うん♪ それなら良いよ」


 かつての約束を破ることはないと、俺が力強く言ったことで乃愛はようやく本来の愛らしい笑みを取り戻して離れてくれた。


(友情を誓い合ったってのに……俺は幼馴染に女を感じちまってる)


 それは、決して悪いことではないはずだ。

 人間の体は精神と共に成長していく……特に女性に関しては、体の変化というのは著しく分かりやすい。


(俺……どうすりゃ良いんだろう)


 俺は、乃愛のことが大好きだ。

 ずっと一緒に居た幼馴染であり、何をするにも一緒だった……だからこそもしかしたら、両親や一つ下の妹以上に気を許している相手でもあるかもしれない。

 ただ、これが恋愛感情かと言われると首を捻るのも確かだ。


(いや……今まで通りにすりゃいいだけだ。俺と乃愛は親友……そう誓い合ったんだから)


 そう心の中で呟き、改めて乃愛に視線を向けた。

 彼女は既に先ほどまでのやり取りを忘れているのか、四つん這いの状態で漫画を漁っている。思いっきりパンツが見えており、黒のレース下着という大人なデザインだ。

 見てはいけないものを見たと言わんばかりに、ハッとするように視線を逸らした。


(……幼馴染から色気を感じる!)


 最近、俺は急に大事な幼馴染に女を感じ始めた。

 別に乃愛に対して恋愛感情を抱いているわけではないが、今までの距離の近さも相まって強くそれを感じている。


「ねえ蓮~、一緒に漫画よもっ♪」

「一人で読めよ、というか肩をくっ付けるな!」

「あははっ、何を恥ずかしがってんだか」


 今日もまた、俺は乃愛が家に帰るまで悩まされるのだった。



【あとがき】


幼馴染物ラブコメです。

よろしくお願いします。

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2024年9月26日 00:04

幼い頃から一緒に居る幼馴染に、俺は最近ドキドキしている。 みょん @tsukasa1992

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