【ショートストーリー】どこまでも透明な私

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】どこまでも透明な自分

 時計の針は午前二時を指していた。

 ジョンは息を潜めて、自身の身体の変化を感じていた。

 彼の身体は突如として宙に浮いていた。今、彼の身体は透明であり、無重力のような軽さに包まれ、あらゆるものを通過できるようになっていた。

 この変化は突然やってきた。あの日、彼はいつも通り仕事を終え、夕食を取り、ベッドに入った。しかし朝を迎えると、自分が透明になってしまったことに彼は気づいたのだ。

 最初の数日間、彼は困惑し、悶え、苦しみ、この新しい現実に適応しようと努力した。徐々に彼は、見えないことの恵みと困難を学び取っていった。しかし、透明になった彼は自分自身が何者であるか、またはどうあるべきかについて疑問を持つようになった。


「僕はもう存在しないのだろうか? 存在しないとしたら、この『存在を感じていない』という自分は一体なんなんだろうか?」


 彼はひとりごちた。

 彼の存在が肉眼で見えないものになったことで、結局彼は彼を更なる自己認識へと駆り立てたのだ。幾許かの時が過ぎた後、彼の精神は突然、自身を視覚化するための物理的存在など必要ないことを理解した。そんなものは最初から必要なかったのだ。

 そう理解すると、ジョンは自分自身を初めて「見える」存在であると認識した。彼の存在した証拠は肉体ではなく、彼の行動、彼の思い、そして彼が世界に影響を与える能力にあったからだ。


 見よ。今、彼の透明性は彼を視覚的な存在から解放し、彼が本当に何者であるかを認識するための新しい視座を提供した。彼は自由であり、束縛されない。

 ジョンは自分が虚無の裏返しとして存在することに気がついた。そしてそれは永続すると同時に一瞬の儚いものでもあった。彼はアルファであり、そしてオメガでもあった。

 そう、彼は本質に触れたのだ。


(了)

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【ショートストーリー】どこまでも透明な私 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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