第6話
あのときは手が震えていたと思う。うるさく鳴っていた心臓の音を今でも思い出すことができる。そんな状況でも、他に何か彼女についての情報がないか、引き出しを可能な限り調べ尽くした。一枚の写真を見つけて、それを見た瞬間、身の毛がよだち、手に持っていたスマホを落とした。呼吸は荒くなった。
写真には首から下が切断された男性の頭部が写っていた。顔は血が通っていないせいか、青白く、標本のようだった。けれど、あれは精巧に作られた人形なんかじゃない。間違いなく、人間だった。
頭がパニックになった俺は、トイレに駆け込み、吐いた。前日に食べた分まで、全て吐き出した。
その時点で、俺は自分の身が危ないことくらいすぐにわかった。すぐに写真とスマホを持って、家を出た。彼女に出会う前に、なんとしてもこの家から離れないといけなかった。
さっきの電話で彼女はすぐに帰ると言った。本来であれば、彼女は夜まで帰ってこないはずなのだ。だって、夕飯を食べてから帰ると言って、今朝は家を出たのだ。
きっと、通話中にもう一つのスマホの存在がバレたと思ったのだろう。けたたましく着信音が鳴っていたから、聞こえてしまったのだ。そして、俺が彼女の部屋にいたこともきっとバレている。
俺が警察に駆け込んで写真を見せても、最初は悪ふざけだと掛け合ってくれなかったが、写真をよく見ると、最近行方不明で捜索中の男であることがわかり、警察はすぐに動いてくれた。彼女も状況を察して、逃亡しようとしていたところを警察に捕まえられた。
それが四日前の話だ。
まず彼女の本名は、
彼女は今までに三人を殺してきた殺人鬼で、俺のことも殺そうとしていたらしい。あと気づくのが一週間遅かったら、俺も彼らのように殺されていたと聞かされた。彼女から離れる決断をすぐにして良かったと心の底から思う。
人体をパーツごとに切り落とし、それを写真に収め、恍惚と眺めることが趣味だったらしい。とんでもない悪趣味だ。
彼女に殺された男性の共通点としては、ぽっちゃり体型だったらしい。俺は見事に当てはまっていたわけだ。
今日のニュースでも彼女に関することが報道されている。彼女は俺の手の届かない、遠くへ行ってしまった。もう一生会うことはない。これから彼女は、俺も知らないような、もっともっと遠いところまで行くことになるだろうから。
遠く、どこまでも遠くへ 久住子乃江 @ksm_0805
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