エゴサーチ

「よいっしょ」



 配信の終了後。母にベッドへと乗せてもらった俺は、スマホを片手にSNSを開いた。おそらくあっちは今、アーカイブを見てると思う……。



『初配信ありがとうございました。緊張とグダグダですみません……。また配信するのでよかったらお願いします!』



 納品時に受け取った全身が写ってるイラストと共に内容を投稿する。

『!』マークを使うのは冒険だったけど、やってやった……。確認するとフォロワーは28人。

 配信の終盤は50人ほどの視聴者がいたので、半数以上は興味を持ってくれたみたいだ。凄い……まるで、自分事じゃない。

 そしてここからは、禁断の行為に出る。28のフォロワーの人に希望を託して、検索欄に『猫代しおり』と入力した。



『とりあえず次も見ようかな』


『めっちゃ早かったけど悪くなかった』


『コミュ障ガチ勢久しぶりに見た』


『どんなゲーム配信になるか気になるw』



 4名のフォロワーさん。間違いなく『猫代しおり』のことだった。

 胸の中の微熱が全身を駆け巡り、何度も何度も呟きを確認した。



「ふふっ」



 つい自然に声が出た。もちろん気色が悪いことは、しっかりと客観視している。

 だけど、『猫代しおり』が認められることは、包含された様々な事情を許容してもらえたかのような、そんな気がしていた。

 俺は感情に従い、『いいね』をポチッと押し、『フォロー』もポチッと押した。現実もこのくらい簡単だといいのに。

 馬鹿みたいな夢想をして、プロフィール欄に配信タグを『#にゃーにゃーにゃー』と打つ。他のVtuberの人の真似である。

 後は、デザインを担当してくれた人のアカウントと『よろしくお願いします』とだけ入力して、プロフィールを完成させた。



「ん?」



 ふと、気がついたら先ほどのポストに返信が来ていた。



『初配信お疲れさまでした~しおりちゃん可愛かったです! 』



 フォロワーの一人『おしくらまんじゅう』さんである。

『猫代しおり』のスクショと共に貰った返信をじっと見つめる。

 純粋な疑問なんだけど、一体どこが可愛かったのだろう……。

 俺は気になってその言葉に『どこがです?』と返した。



「この返信が来たら、寝よ」



 そう決意して、スマホを両手で握り締めひたすら返信をじっと待つ。

 ──あれ、来ない。もう30分経ったのに……。え、もしかしてキモかった? 

 わからない……。フォロー外されてないから、大丈夫だよね……。

 でもよくよく考えたら、可愛いって言われてどこがです? って聞くのやばいかも。どうしよう……消そうかな。でも既に見てたら失礼だし。

 俺はずっと悶々としながら、寝るまでを過ごした。




 *




「しおちゃんおはよ~」


「おはよ……」



 眠気眼に笑顔の母。俺は、目を擦りながらスマホを開いた。



「あっ来てる」



『全部可愛かったです』



「全部……?」


「しおちゃんどうしたの?」



 そっか。やっぱりデザインの力って、偉大だ。



「なんか……可愛いって言われた」


「ん? 昨日のこと?」


「うん」



 そのまま、ポチポチとスマホを弄る。



「あら……? もしかして、しおちゃん。嬉しそう……?」


「え……?」



 俺は母に言われて、バッと慌ててスマホから顔を上げた。



「おや……おやおや~」


「今日、具合悪かった」


「嘘はダメです~」



 んっ……何だろう。可愛いって言われるのが嬉しいというより、好意的に接してくれるのが嬉しいというか。そんな……そんな感じ。



「顔真っ赤~うい! うい!」



 だから、頬を突つくなと言いたい。母をじっと見つめるとニマニマとされて居心地が悪い。



「違うから……違う」


「うんうん。それじゃあ、おトイレ行こっか」


「違うからね」



 なんだか優しい表情をされて、その後は無性に腹が立ったままトイレを済ませた。

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半身不随のTSっ子Vtuberは夢を見る ここに猫 @nomoknoko

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