死に愛
@Sora_mari
プロローグ
別に暑くも寒くもない。桜が咲いてるわけでも雪が降ってる訳でもない何でもない日に、
彼女は死んだ。
その日は彼女の好きな水族館に行く予定だった。待ち合わせは午前8時。
駅前のロータリーでの待ち合わせ。
俺は待ち合わせに間に合わなかった。
遅れる連絡が届いた彼女は駅の中に入っていった。
それが良くなかった。
彼女は駅の中で通り魔に刺された。
そして今、彼女は目の前で白いベッドに横たわっている。
動かない心電図。血の引いた白い肌。
二度と開けることは無い目。
彼女は死んだのだ。
もしも、自分がその場にいたら。
もしも、自分が遅れなかったら。
もしも、もしも、もしも。
もう叶わないもしもが俺の心をどんどんと苦しめていく。
溜まった苦しみがヘドロのように心臓から肺にまとわりついて、呼吸が出来なくなる。
もしも、もしも。俺が代わりになれたらのなら。
酸素不足の視界はどんどんピントが合わなくなっていく。
ふと、重心が後ろに大きく傾いた。
もしも、このまま死ねるのなら。
俺は目を瞑る。受け身を取る気はなかった。
もうこの世界に未練はない。
目が覚めても彼女がいないことには変わりないのだ。
あぁ、でも。
もしも、時が戻るなら。もう一度――。
「へぇ、叶えてあげよっか。」
声に目を開くと、俺は真っ暗な空間にいた。
周りには何もいない。
それでも声は続いた。
「僕の力を使えば、時は戻せるよ。」
俺は恐る恐る暗闇に向かって声を投げた。
「それで、彼女は救えるのか?」
「まぁ。だけど条件がある。」
「条件?」
期待と得体の知れない恐怖感で声が裏返る。
「まず、時を戻せるのは3回までってこと。それから――。」
暗闇が楽しそうに揺れた気がした。
それに気づいた時、何故だか心臓がキュッと痛んだ。
嫌な予感がする。
「彼女を助けるなら君の命はなくなる。」
「えっ…」
思わず声が漏れた。
「そりゃそうさ。1つの命をタダで救おうなんて、そんないい話はない。」
心臓がバクバク叫びを上げる。
怖い。死ぬのは嫌だ。
でも、それを無視して脳は冷静だった。
「いいよ、それで彼女が助かるのなら。」
本当は2人で一緒に生きていたかった。
でも、それが叶わないなら、彼女がいない世界は耐えられない。
「じゃあ取引成立ってことで。」
声を合図に視界が真っ暗になった。
死に愛 @Sora_mari
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