最終話 入っていいよ……私の部屋。

 同棲を開始してからおよそ一か月が経った。

 これまでの俺達は、パンケーキを作るとキスをしてもらえたりする仲で。

 白雪的には身体で払って俺をこき使ってる感覚なのかもしれないが、我ながらとんでもねぇ関係だと思う。


 でも、恋人同士ではない。


(うぅ~。白雪と恋人になりたい。他の奴に取られたくないなぁ……)


 だってあいつ、俺がキスやハグをするときにまんざらでもない顔をするんだ。

 それがすごく可愛くて。


 たまに、ごくたま~に、向こうからハグし返してきてくれたり……


(んぁあああ~! 可愛い!!!!)


 でも、白雪は学年一の美少女だから、未だに狙う奴は多いんだ。それが、不安の種になっている。


 白雪はその実、ド級のコミュ障で、人との接し方がよくわからないらしい。

 要は、変なところで頭がいいから「A?」って質問に「A」って答えてしまって、それ以上話が広がらずに終わる……みたいなことを本人は言っていた。

 だから、根はいい子なんだ。


 そんな自分と難なく暮らしてくれる俺に、「ちょっとは感謝してるのよ?」とか照れ顔で言っちゃったりして、ん~! もう可愛い!!


 だが。俺は申し訳ないことに、白雪と今以上の関係になりたいと思っているわけでして。それをなかなか言い出せずにいるんだ。


 一歩踏み込めば、今の関係が壊れてしまいそうで怖い。


 だが……


「万世橋~。冷蔵庫にあるカルピス取って~」


 なんて、真っ白な脚を晒して、胸元ゆるがばなパジャマでソファに寝転がったりするものだから。俺はいつも、覆いかぶさりたい欲求を抑えるのが大変で。


 本当は、あのソファにダイブして、白雪を上からぎゅ~っ!って抱き締めたいんだよ!!


 けど、その日は欲求を抑えきることができなくて、俺はカルピスを手渡したついでに、背後から白雪を抱き締めてソファに転がってしまったんだ。


 いわゆる、バックハグってやつだ。


 背中側から抱きしめると、前から抱くより身体がフィットして、「んえ!? 万世橋!?」なんて驚く白雪が可愛くて。

 ソファにふたりでぎゅうぎゅうにおさまって、密着して、白雪のうなじからは風呂あがりのいい匂いがして……


 ああ。もうダメだ。


「白雪……ごめん」


 撫でていた耳を軽く食むと、白雪はそこが弱いのかビク!と身じろぎをして、それを逃がすまいとすると余計に身体が密着して、脚の間に脚を挟んで、もうくんずほぐれつ……


「んっ……万世橋、ちょっと……!」


「ごめん。もうちょっと……」


 ベージュの髪に顔を埋めて、うなじにキスをする。

 白雪は急に暴走し出した俺になにがなんだかわかっていないようで。

 ただ、泣き出すでも悲鳴をあげるでもなく、「んっ」と甘い声を出していた。


(はぁ。やっちまった……本当は最後までシたかったけど、ここまでだなぁ)


 白雪に、無理強いはしたくないし。

 明日にでもこのことをバラされたら、俺は『不同意濃密ハグ罪』でシャッフル対象だ。


(だったら……)


 俺は、白雪のわずかに潤んだ瞳を見つめて、告げる。


「イヤだったら、逃げて」


「へ?」


「白雪がイヤなことはしたくない。けど俺は、白雪に、これ以上のことがしたい……」


 隠し事はナシだ。真っ向勝負でそう告げると、白雪は甘く息をもらして、指を絡めてきた。


「……いいよ。万世橋なら……」


「!!」


「万世橋はさ、私の素の姿をなんだかんだで受け入れてくれた。キスくらいでなんでも言うことを聞いてくれて、最初は『男子って皆こうなの?』とか思ったけれど。万世橋はさ、根が善人なの。だから今、私に『逃げて』って言ってくれた。私、そんな万世橋のこと……好きだよ。人として好き」


「じゃあ、もし俺が恋人になって欲しいって言ったら?」


「へ!? なに言って……」


「だって。これ以上のことをするってことは、そういうことだろ?」


「それは……!」


 その先を想像したのか、白雪は真っ赤になって俺の胸元に顔を埋めた。


「確かに、そうかもしれないけどぉ……」


 一か月も一緒に暮らしてきたんだ。

 ここまで来て、白雪の気持ちがわからない俺じゃなかった。


 答えは、イエスだ。


 まんざらでもない顔してやがる。


「……可愛い」


 思わず零すと、白雪は熱い息と共に俺を見つめ返した。


「そういう言葉、簡単に言うんじゃないわよぉ……照れるじゃない」


「白雪にしか、言わないよ」


「!!」


 ぴゃっ! と肩を跳ねさせた白雪は、しばし俺の胸元で甘えていたかと思うと、何を思ったかもぞもぞとパジャマのポケットをまさぐった。

 そうして、一枚のカードキーを取り出す。


「ここじゃあ、狭いでしょ……」


「え?」


 まさか……!


「入っていいよ……私の部屋。」


 そう言ったかと思うと、今度は俺に覆いかぶさってキスをしてくる。


 ――ああ。俺、勇気をだしてよかったな。


 なにが『氷の女王様』だよ……

 甘くて、熱くて、蕩けそうなキスだ。


 けれど、その氷をここまで溶かしたのは、他でもない俺なんだと思うと嬉しかった。


「行こ」


 そう言って、白雪は頬を染めて俺の手を引く。自分の部屋に向かって、ぺたぺたと足音を鳴らして、その扉を開いたんだ。


 そうして、俺たちはその日から恋人同士になった。


 同棲初日、あれだけ「服を着ろ!!」と怒鳴っていたのに。

 今は……脱がしてる。


 おかしな話だよな。

                       FIN


※あとがき

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【短編】少子化対策で同棲することになったクラスメイトの氷の女王が、部屋では甘々に溶けている件 南川 佐久 @saku-higashinimori

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