労働、そして労働

鉄鉱石ではいけないと分かった今、向かっている場所がある。もちろん製鉄所だ。確かに鉄鉱山に製鉄所はある。言い方が悪い。

「鉄鉱山で鉄を取って来い。」

と言われたら誰でも鉄鉱石を取ってくるだろう。それを一発で分かるやつは社畜しかいないと思う。これについてケンに訊いてみる。

「鉄鉱石じゃダメなんだね。知ってた?」

「あの言い方されたら間違えちゃうよね。これからは気を付けないとね。それで、疑問なんだけどなんで労働基準法にそんな詳しいの?」

「あぁ。それは元の世界で社長を目指してたから。詳しいってほどでも」

ちょっと照れてしまった。

「そうなんだ。すごいね。僕なんて社畜だよ。人生変わると思ったけどまだ普通の社畜のほうが良かったかも」

堅苦しい話し方はどこやら、仲良く話せている。そして彼は続けた

「あの総長に意見できるなんてすごいね。すごいよ。でも、意見したところで何か変わるのかな?」

「俺はこの世界から脱出して見せる。その時はケンも一緒だよ」

そういうとケンは笑顔になった。

「僕に味方してくれた人なんて今までいたかな?」


製鉄所に歩くまでにケンとの友情が深まった。色々話したため、それほど遠くは感じなかったが、長い時間歩いていたようだ。製鉄所では炉に鉄鉱石を入れて待つだけのようだ。待つだけというと語弊があるが待つ時間もその場から離れてはいけないという決まりがあるようだ。それもかなりの長い時間...  

ただ、俺は睡眠をとる千載一遇のチャンスだと思い、しっかりと眠ることにした。そのことはケンには言ってある。任せてくれと言われた。心強い人と仕事ができてうれしい。今では彼に尊敬の眼差しを向けることすらもある。


_______________________________

「終わりました!どうです?」

「...やっぱりお前は仕事ができる人だな」

「先輩ほどじゃないっすよ(笑)」

「お前は仕事を楽しそうにやってるよな。憧れるよ」

「俺はコンピューターが好きなんで。好きこそものの上手なれって言いますし」

「いいな。その心意気でこれからも頑張ってくれ」

「はいっ!」


『好きなものはすぐに終わってしまう。ずっと続ける方法はないかな?

 そうだ!俺が会社を創って好きなことを好きなだけやればいいんだ!

 じゃあまず労働基準法について知っていなきゃな。調べてみるか。

 どれどれ?...なるほど!』


「こんにちは、先輩!ちょっと話したいことがあるんですけどいいですか?」

「あぁ。何だ?」

「実は俺、会社を立てようと思ってて。どうしたらいいのか分からないまま創めて大丈夫ですかね?」

「それ、本気か?本気なら応援してやる。仕事ができるお前なら全然大丈夫だろうな。ただ、労働基準法に違反しないように気をつけろよ(笑)」

「頑張ります!期待していてください」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「おーい。ダイチ~。終わったよ」

「おーい」

ケンの声に起こされた。俺は夢で元の世界の会話を思い出していたようだ。すぐに返事をして起き上がる。

「あっ、起こしてくれてありがとう。もう終わったの?」

「うん。ちゃんと出来てて良かったよ。ところで、ちょっと笑ってたけどどんな夢見てたの?」

「俺のもとの世界の先輩との会話を思い出してたみたいだ。ごめんね。こっちだけぐっすり眠っちゃって」

「全然大丈夫だよ。じゃあ報告に行こう」

「うん!」


「ご報告に参りました。総長」

「うむ。今回はちゃんとした鉄だな。初めての仕事にしてはやるではないか。いい労働者を見つけてよかったな、No.375よ」

『まずい。ここでも反論したい、否、してやる』

「すみませんが一言。「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。労働基準法第九条より。そして、労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。労働基準法第一条より。俺は仕事のせいできちんとした生活もできていません。そして賃金なんて払われてないですよ」

「いちいちうるさいな。少しは学べ。第十一条 賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。その場ですぐに払う必要はないぞ。そして睡眠もとれているのに生活ができていないだと?甘えたこと言ってんじゃないよ。寝てるだけの人は人外か?」

『なんだかんだ言って総長も労働基準法にめっちゃ詳しいじゃん』

俺は返事すら適当になってしまった

「はい。違います。では」

「何終わろうとしてんだよ。次は木を取って来い」

反論しようと口を開くとすぐにケンが塞いで話した

「了解いたしました。総長」

手をつかんでその場から離される。ケンは何かを感じ取ったのだろうか。今回は特に焦っているように感じる。にしてもケンも力は強い。元の世界で何の仕事をしていたのだろう。ケンが焦っている理由も大きなものではなければいいが...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

労働環境劣悪な世界に来てしまった kazanagi byo @kazanagi_byo_6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ