過重労働
「よし、No.1139とNo.375は鉄鉱山で鉄を取って来い。取ってこなかったらどうなるかわかっているな」
「承知しています。了解しました。総長」
俺を連れ去った張本人、もとい総長が俺たちに初めての指示をした。ただ、初めてなのは俺だけであって俺を連れ去った車を運転していた男No.375は何回か指示されているようだ。少し気になることがあったのでつい言ってしまった。
「脅迫などの身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない、労働基準法第五条より。についてはどう思いますでしょうか?違反ではないのではないでしょうか?」
余計な一言を絵に描いたように表している。それに対して総長は落ち着いた素振りを見せて早口で言った。裏ではイラついているのかもしれない。「ちょっとは頭が使えるようだな。一回言っとくがここじゃお前らのいた世界じゃない。そんなちっぽけなものではないぞ。勝手に言ってやがれ。もう一つ、俺は一度も強制はしていない。労働基準法第二条、労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。この条件に違反はしていない。お前らの了解を得てやっている」
『確かに...論破されちゃった』
その後はNo.375と一緒に仕事をすることになった。鉄を取っている途中に彼に聞きたいことがあった。
「あの...なんて呼べばいいですか?」
そう、彼の呼び名だ。
「僕のことですか?ケンと呼んでください。これからは二人でいるときは敬称なんてつけないでため口で行きましょう。因みにあなたの名前は?」
「俺は...」
『俺の本名はユウダイだが、念のために少し変えておこう』
「俺のことはダイチって呼んで!」
敬語じゃないのには慣れない。ここから俺はダイチとしての生活が始まった。俺がため口を使ったことがうれしかったのかケンは少し笑った。彼が笑ったのは初めて見たかもしれない。
「今まで誰とも話さずにじっくり一人で
俺は今まで飛んだ勘違いをしていたようだ。彼のようになりたくないと思っていたがすごくいい人だった。それほど厳しい労働でもないのになぜあれほどのくまができていたのだろう?また新しい疑問が生まれてしまった。
『おいおい、いつまでこれ続けるんだ?』
俺は忍耐力は強いほうだと思っているのだが、その俺でも厳しい労働だ。
先ほど労働基準法で総長に詰め寄ったが、労働基準法について詳しいほうだと思っている。その理由は元の世界で働いていた職業がきつくなく、時間が有り余っていたからだ。だからと言って労働基準法に詳しい理由にはならないが、俺は会社を立てるつもりだった。だから仕事は真面目にやっていた。こんな目には合うつもりはなかった。あと少しで俺は会社を立てられるところまで来れていた。なのにこんなことになるとは...
悲しさを胸に作業を続けるとケンが話し出した
「疲れてきた?一度成果の報告に行こうか?」
疲れが顔に出てしまったようだ。
「じゃあ一緒に行こう」
総長を見つけた瞬間にケンが頭を下げる。釣られて俺も頭を下げてしまった。すぐにケンが話し出す。
「成果のご報告に参りました。こちらです」
「なんだこれは?何もないじゃないか」
『あぁ?何言ってんだこいつ』
また俺は総長を怒らせるトリガーを引いてしまうことになった。
「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。労働基準法第十五条より。これについてはどうお思いで?」
「きちんと言っただろ鉄を取って来いと。これは鉄鉱石じゃないか。なんか文句あるか?」
『何だと⁉』
俺でもこれにはぎょっとしてしまった。ただ、反論はする
「一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。労働基準法第三十二条より。俺たちもっと働いていましたよね。それと、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。労働基準法第三十四条より。休憩なんて一度も与えられなかったですよ」
これは俺でもいいところに目を付けたと思った。が、総長は反対する
「確かに休憩は与えてはいない。だが、自由に仕事をさせている。だから休憩も自由だぞ」
「じゃあこれはどうですか?労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。労働基準法第百九条より。保存しているようには見えないんですけど」
そういうと総長は走ってそれを持ってきた。
「これを見てもそれを言うか?」
中を見てみるとしっかりとした字で書いてある。詳しい内容は見せてくれなかった。一応個人情報だからかな。一応意識はしているようだ。ついに始まってしまった俺の労働。いつ終わるのだろう?...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます