天空の満月

『お誕生日おめでとうございます。夏らしい入道雲を眺めていて、昔、父上が開催した「納涼祭」を思い出しました。周りに何もないと言われる場所でしたが、豊かな自然の恵み、夜に群れ飛ぶ蛍の光、澄んだ空気、どれも素晴らしい恩恵でしたね。あの時のことは今も良き思い出です。尾巻』


 思い付きを話すことで、瞬く間に人を集める父上は、幾度めかの引っ越し先に祭りがないことを憂い、ある日こう叫びました。


「夏祭りやろうぜ!!」


 鳥家・家訓「ないなら作れ」でございます。(しらんけど)

 あれよあれよ言う間に、友人や近所の人たちの協力で祭りを開催する流れ。インターネットもない時代に、老若男女、大勢の人たちが集まり、機材や食材なども大量に揃いました。


 過疎化の町。田舎の一軒家で、裏は山、目の前には果てしなく田園の風景が広がります。手を伸ばせば届くところにあるアケビ、キイチゴ、タラの芽、キノコ、筍、季節ごとの恵みを味わう。井戸の水は夏でも冷たく、宵には蛍が庭先を群れ飛び幻想的な光景が広がる、言うなればトトロの世界。


 カラオケや楽器演奏、バーベキュー、PCゲーム大会、クラフト講座、スイカ割、夜には花火。催しは様々でしたが、それぞれが得意分野を持ち寄って、祭りは大いに盛り上がりました。



 現在の実家の目の前には神社の参道が拓けていて、迫力あるお祭りの山車が列をなして迫ってくるのを上から眺めることができます。


「祭」の文字を分解すると、「肉 (月)」を「手 (又)」に持ち「示 (祭壇)」に捧げ、「神に貴重なものをささげる」「神霊の力によって心身ともに新たな自分に生まれ変わる」という意味を持つそうでございます。

 規則的なリズムのお囃子と共に自然に高まる身体と精神、軽いトランス状態により生まれ昇華する純粋な歓びのエネルギーが、本来の神への捧げものなのかもしれません。


 どんなお祭りも心躍るものではありますが、モブ尾巻の心に数々の楽しい記憶として結びついているのは、父上が開催してくれたあの「夏祭り」でございます。祭壇も祝詞もなかったけれど、あの時の純粋なエネルギーはきっと神霊にも届けられたのではないかと思うのです。

 


『ありがとうございます。改めて読み返していると”名文”ですなぁ……。まだ、あなた方が生まれる前に、ほろ酔い気分でベンチに座り、天空の満月眺め田毎たごとに映る白光を見て”我、独りきり何事かを成さん!”なんて思考しておりました。何よりあなた方を見ていると”子ども達は無限の可能性を秘めている”と学べました。拙い親の元に生まれてきてくれてありがとうさんね。父ちゃん感謝。(可愛い兎の動く絵文字)』


 尊大なのか卑屈なのか、その両方なのか。それらの要素が不思議な配合で混じり合って、父上という人間を作り上げているのでしょう。褒め上手、盛り上げ上手、その場に現れるだけで、周りに影響を及ぼす存在感。

 世間の常識や価値観などは、全て無視して、己の信条にのみ従う生き方は簡単に真似のできることではありません。


 ちと、褒めすぎかもしれませんが。


 本当に、チョロいモブ尾巻などひとたまりもございません。実家の片隅で空気に徹していたモブ尾巻にすら何か出来そうな気にさせてくれるのです。


 身内としては「好き勝手なことをして、散々迷惑をかけおって」と思う気持ちも無きにしも非ずなのですが。

 こういうことをサラッと言ってくるので「ずるいなあ」と思いながらも赦してしまうのかもしれません。


……いや、やっぱり赦さないかもね♡


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モブ鳥落とすイキオイ 鳥尾巻 @toriokan

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