ねずみのダンス

十戸

ねずみのダンス

  両脚が旋回する――鮮やかな跳躍/反転/ねじれ/渦=靴底を叩きつけた先の、地面に大きくあいたクレーターのロマンチックなまろやかさ。そのまま、戦闘ヘリの頭上高く投げ出されるように跳ねる/鳥もかくやという速度で全身が空を切る=身体を飾るドレスがびりびりと裂ける/その下の人工繊維で編まれた肌が破れる/たおやかな傷跡/真っ黒なカーボン材の骨が露出する――血とも呼べない血が白く淡く滴る。痛みはない/存在はする/痛覚=常にオフされるほとんど無意味な機能/人間たちはどうしてか作りものに耳障りなシステムを載せるのが好きだ――なぜ? 《彼女》はそんなことお構いなしに身をよじる、すさまじい音をさせて、尖った踵の先でヘリの頭を踏みつける。鋼鉄の板が引き裂かれる、虫の頸を手折るがごときか細い音。《彼女》の、ほほえみの形に凍りついて久しい唇から笑い声がもれる/どこかからけたたましい騒音/パレードにも似た/あるいはサーカス/移動式の遊園地/子供の歓声/どこからとなく手を打つ音/破裂するクラッカー/大勢の何かが歌う音/誰にも聞こえない=ただ忙しくもがくプロペラの濁った騒音が充満している、それが老いた星さながらに墜ちていく。炸裂する光→轟音→炎→煙。燃え尽きて。《彼女》の白い輪郭はそのなかに花びらのようにひらひらと降りていく。落ちはしない、そのようにできていた。この身体は。

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ねずみのダンス 十戸 @dixporte

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