第11話 初めてのロードバイク
今日は仮入部期間3日目。本来の予定なら運動部に限らず、文化部も見学するつもりだったが昨日の先輩の言葉を受けて身体は自然とトライアスロン部の部室に向かっていった
昨日と違って今日は3人程、部室の近くで談笑しているのが見えた
「お!相楽、千条よっす」
「よっす!」
「…よっす」
まだ仮入部期間なのに既に部員として見てくれてる緑川先輩の挨拶に少し心が温かくなった。咄嗟のスポーツノリにはついていけなかったが…
「あ、そういやこいつらと会うのは初めてだよな。紹介するよ」
他の3人もどうやら先輩のようだ
「この眼鏡は
「おい!俺の紹介雑すぎだろ?!!他にもっと特徴あるって」
「あ、ごめんごめん(笑) 細谷は水泳が得意な選手でな、中学の時は関東大会に出場して自由形100Mで入賞した実力者なんだよ。水泳でわかんないことあったらこいつに聞きな」
「へへっ!2人ともこれからよろしくな」
親切にも握手を求められたのでこちらこそと言いながら握手を返した。第一印象は真面目な好青年という感じだ
しかし、これだけの実力を持っていて水泳強豪校の臨海東高校に入学したにも関わらず、なぜ水泳部に入部しなかったのか気になるとこだが、余計な詮索はしないでおこう。単に自分のやりたいことが変わっただけかもしれないし
「で、次は女子部員の
薄紫色のミディアムヘアが特徴的で、さらに理想の女性像を体現しているかのような引き締まったスタイルを持っていて暫く見惚れてしまった。美しさばかりに目を奪われてしまったが、もう独りでに準備運動を始めている感じ、確かに元気が有り余っている
「乙女を指さしてバカとは失礼ね!!ま、体力に自信あるのは本当だけど☆ 2人ともこれからみっちり鍛えてあ・げ・るんだから覚悟してね フフッ」
「「は、はい」」
いや、元気じゃなくて色気が凄い先輩では?もちろん元気だけど、本当に今元気なのは俺の…(バシンッ!)
いやなんでもない、頼りがいのある先輩だな!頑張っていこう
「最後にうちのマネージャーを紹介するんだけど… おーい紫陽、すまんがちょっとこっち来てくれ」
「はーい」
ドリンク作りをしてた先輩は呼ばれるなり、ささっとこちらに駆けつけてきた。まだ仮入部の俺たちに自己紹介をするためだけに作業の手を止めてしまって申し訳ない…
「うちのマネージャーの
「…いやいや、そんな買いかぶりすぎだよ笑 選手のサポートは私の使命だから、どんと任せて!2人とも来てくれてありがとね。これから全力でサポートするよ!」
か、可愛すぎる!!白髪のボブヘアに青いインナーのかかった髪型で、頬を少し赤らめて恥ずかしそうにしながらも頑張って自己紹介している感じはまさに T・H・E清楚女子で性癖に矢が100本くらい刺さった。俺のヒットポイントはもう0だ
てかさっきから自分の脳内でキモオタ始まってるんだが…今、トライアスロン部の仮入部に来ているのに何を考えているんだろう。現実の女子に2次元の美少女を見るような目で見るのはやめなさい。こんなラブコメ脳になってしまったのはなぜだろうか
「今日はサイクリングに行こうと思う。ロードバイクは学校の方で予備がいくつかあるから安心してくれ。あ、あと少し仮入部の時間を過ぎるかもしれないけど、そこは内緒にしといてな…」
トライアスロンは使用できる自転車が決まっていて、トライアスロンバイク、ロードバイク、TTバイクのいずれかである。ネットで少しかじった程度の知識なので3種類がどう違うのかを厳密に説明するのは難しいが
今日使うロードバイクは初心者が乗ると平均速度は時速20~30kmほどで、好条件が整っていれば初心者でも40キロほど出せるらしい。だがプロのレースでは初心者の最高速度である40kmを平均としていて、最高時速は70キロらしい
値段は15~30万円ほどで買えるものもあるが、性能を重視する場合もっとお金がかかり、課金額によって出せるスピードも変わってくる。中には100万円を超えるものもあるのだとか
そんな最低金額でさえも、なかなか手を出しづらいロードバイクを学校側が貸し出してくれるのは本当にありがたい
高校から5キロほど行った先に一周6キロのサイクリングロードがあるらしく、今日はそこで練習だ。篠崎先輩と細谷先輩は我先にと校門を全速力で駆け抜けていったので、残っているのは俺と相楽と緑川先輩だ。学校のロードバイクとヘルメットを借りて先輩に軽く乗り方を教えてもらい、自分の座高に合わせてサドルを調整した。今まで乗っていた銀チャリに比べて明らかにサドルの位置が高く、少し乗りづらかった
漕いでる途中でバランスを崩して転倒しないか少し不安だったが、海沿いの道をいつもより速いスピードで漕ぐことに夢中になっていたらそんな不安は横から浴びせられる潮風と共に意識の外へと流されていった
先輩に付いていくこと15分、今日の本練習の場所になっているサイクリングロードのある公園へと到着した
「お疲れ様!はい、ドリンクね」
「あ、ありがとうございます」
何気なくマネージャーの紫陽先輩からドリンクを受けとったが、普通に考えて俺たちより先に到着していることに驚いた。先輩もロードバイクを所持していてドリンクはU〇er eatsみたいな形をしたデカいリュックに入れて運んできたらしい。その荷物を背負いながら俺たちより早く到着できるほどの脚力があるなら紫陽先輩も普通に選手として出場できるのではないかと思う
「じゃあ俺たちは7周、千条と相楽はとりあえず2周頑張ってみようか。緑川、1周目は1年を引っ張ってやれ。他にもロードバイカーはたくさんいるから周りに気を付けて漕ぐようにな」
「「はい」」
ロードバイクとはいえ、今から先輩たちが42キロも漕ぐことに驚いた。東京マラソン1回走れる距離だよそれ
「じゃあ紫陽は1年が漕ぎ終わったら学校までの道案内お願いな」
「はいよ!」
「あ、いえいえ僕たち大丈夫ですよ。紫陽先輩が学校戻ったら先輩たちドリンク受け取れなくなるし、練習の邪魔するのは申し訳ないので…」
「大丈夫だよw ロードバイクのダウンチューブって部位にドリンクホルダーがついてるから喉が渇いたらいつでも飲めるし、紫陽はすぐ戻ってくるからさ」
確かに、ロードバイクの下の方にドリンクホルダーがついてるのは見たことがある。それにしても紫陽先輩って絶大な信頼を置かれてるんだな
「緑川先輩、俺たちチャリには自信あるので先輩のいつものペースで引っ張てもらって構いませんよ!」
「お、やる気あるね。じゃあ時速40キロくらいで漕いじゃおうかな?」
「先輩それは早すぎますよw 多分500Mも持たないですw」
「冗談冗談w じゃあ時速28キロくらいで漕ぐね」
そうして各々のタイミングで漕ぎ始めた
全長6キロものコースなので暫くは直進で、かつ平坦なタータンということもあって非常にスピードが出しやすい。中学時代使っていたガーミンというスポーツウオッチで時折、時速を確認しているが確かに時速28キロである。先輩は腕時計を見てる様子はないし、慣れていくうちに身体の感覚でどのくらいのスピードが出てるのかわかるのだろう
ん?これ結構きつくないか。1キロごとに立っているポールを目安とするなら今4キロを少し過ぎたあたりなのだが、既に太ももがパンパンになってきた。陸上で例えるなら乳酸が溜まった状態だ。あの時ほど息が切れてる状態ではないが、筋肉にハリを感じてきて思うように動かなくなってきてる。相楽なんて自分から言い出したのにもうめちゃくちゃ辛そうな顔をしている
ようやく一周目が終わり、こっからは自由なペースでいいからなという先輩の言葉と共に分散していった。まだ試したいことがあったのでこの1周では完全に体力を消耗しないようにした。息が整った後、俺は溢れんばかりのパワーでペダルを漕ぎ、自分の最高速度を調べていた。全速力で漕ぎながら腕時計を見るのは少し危なかったが、3回ほど試して平均した結果、45キロほどだった。プロの平均時速に毛がはえたくらいのスピードで全然まだまだだ
「お疲れ様―!」
ゴールすると紫陽先輩が速やかに駆けつけてきてタオルとドリンクを渡してくれた。自分が偉そうに言えたことではないが、なんて気が利く人なんだろう
2分ほどして相楽もゴール。ゴールするなりロードバイクを近くのブロック塀に立てかけた後、下が固いコンクリートだろうとお構いなしにぐてーと倒れた。チャリ漕いでそんなに疲れることある?
ともかくも無事2日目の練習を終えた
「才能」という呪いにさよならを告げて シャノル @kagenoyuki
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