第14話 居酒屋にて

 その日の夜。

 一仕事終えた疲れを癒すべく、普段は行かない居酒屋に足を踏み入れた俺は……思いがけない大歓待を受けることとなってしまった。


「うおおおお! ネヴィン様だー!」

「ヒーローが、俺たちのヒーローがやってきた!」

「みんな、ネヴィン様にいっぱい奢るぞー!」


 な……なんだなんだ⁉︎


「ええと……俺が、ヒーロー?」


 困惑した俺は、ひとまずそう返すしかできなかった。

 そんな俺も……次の彼らの言葉を聞くと、なぜ自分がこれほどの歓迎を受けているのかの合点が行った。


「そらそうよ!」

「これであいつらも、ちったあ年上への態度がマシになるだろうからなあ……」

「あんたは俺たちの心の安寧って奴を取り戻してくれたんだぜ!」


 よく見ると……ここに集まっているのは、ほとんどが三十代以上の冒険者たち。

 ああ、彼らも俺ほど露骨じゃないにしろ、「オミクロン」から嫌な目に遭わされていたんだな。


「いやあ、マジでビックリしたぜ。まさかネヴィン様があそこまで強かったなんてよお……」

「なあネヴィンの兄貴、いったいどうやってあんな力手に入れたんだ?」


 それはちょっと……どこまで話すのが正解なのか。


「ちょっと、秘密の特訓をな」


「秘密の特訓? いいじゃねえか、教えてくれよお……」

「いや待て。もしかしたらその特訓、えげつないほどキツいんかもしれねえぞ」

「あー確かに! あんな尋常じゃねえ力、そうでもないと得られねえだろうしなあ……」

「じゃ、やっぱりいいや!」


 苦し紛れに「秘密の特訓」と言ってみたところ、それが上手い具合に功を奏し、みんなそれがとてつもなく大変だと誤認してくれて、詳細の追及を免れることができた。


「じゃあネヴィン様、好きなもんを注文してくれよ。代金は俺たちが肩代わりすっからさ」

「注文の後は乾杯の音頭を頼むわ!」


「ええと……みんなすまない。じゃあ兎肉の串焼きを2本と……」


「おいおい、こんなめでたい日に安く済ませなくていいだろ! 牛とか行こうぜ、それとも兎肉が一番好きなんか?」


「うーん、牛なんてほとんど食べないから何とも……」


「よーし、じゃあ牛ヒレ串十本な! あとハイグレードエール一杯!」


 みんなが奢ってくれると言う中、それはちょっと申し訳ないと思い安めのを注文しようとした俺だったが、その注文は周りの冒険者たちによって最高級品に上書きされてしまった。

 いったいどこまで「オミクロン」に鬱憤が溜まってたらこうなるんだ……。


 などと思っている間にも、俺の目の前にハイグレードエールが運ばれてきた。

 うーん、普通のエールとの違いがよく分からん。

 こういうのは、ちゃんと味の違いが分かる人が飲んでこそ価値があるんじゃって気がするが……。


 ……みんなソワソワして乾杯を待ち望んでる雰囲気の中そんなことも言えないな。


「じゃあみんな、乾杯!」


 俺はグラスを高々と掲げ、声を張ってそう言った。


「「「「乾杯!」」」」


 一通りみんなとグラスを合わせると、一口ゴクリと飲んでみる。


 ……めちゃくちゃコクがあって美味しい。

 俺はこのエールがハイグレードとされる理由を一瞬で理解した。


 それからしばらくは、みんなと一緒に和気藹々と食事を楽しんだ。

 牛串も流石最高級の部位というだけあって、赤身肉なのに霜降りばりに柔らかく味も濃厚という衝撃的な美味さだった。


 こんなもの食っちゃったらもう、元の食事には戻れないな。

 この日俺は、今まで食費を最低限に抑えていたが故に全く理解できなかった「食事は娯楽」という感覚を、胃袋の隅々まで味わうこととなったのだった。




 十本の牛串を食べ終え、追加分をこれまたみんなによって勝手に頼まれた頃のこと。


 一組の客が新たに店に入ってきた。


 その客は……今この空間において、もっとも招かれざる客だった。

「オミクロン」のロテン以外の残り三人……きっと今日の鬱憤を酒で流しに、ここが完全アウェーだとも知らずに来てしまったのだろう。


「おいおい、負け犬の仲間が来たぜ」

「重傷のお頭を差し置いて、よくのうのうとこんなとこ来れるよなあ」


 早速、数人の冒険者がニヤニヤしながら、彼らに聞こえるくらいの声量でそんな会話を始める。

 が……そんな中、テイーサのバッグの中身が店の照明に照らされてキラリと光った瞬間、形相を変えた者がいた。


 その男は、この中で唯一白衣を纏っている、おそらく治癒師か薬師と思われる男だった。

 先程まで俺たち冒険者に混じってワイワイ楽しんでいた彼は、すくっと立ち上がると「オミクロン」の三人に詰め寄った。


 そしていきなりテイーサのバッグに入っていた光るもの(ポーションの瓶だった)を取り上げると……おもむろにポケットから魔導具を一つ取り出し、瓶の底にかざした。


「ちょっと何するのy――」

「赤色か……盗品だな」


 テイーサは瓶を取り返そうとしたが、白衣の男はその手をひょいと躱し、魔導具が赤く光ったのを見てそう呟いた。


 ……何だ何だ?


「お前ら、知らなかったか? ウチの商品は全て、会計を通さずに店から持ち出すと盗品判定装置が反応するように出来てるんだ」


 みんな困惑していると、男はそう語りだした。

 なるほど、それで赤く光って「盗品だな」とか呟いたのか。


「知っての通り、ポーションの盗難は重罪だ。それもこの型番……上級ポーションだな。弁償はもとより、懲役5年は最低でも確定だぞ」

「ま、待って、お願いそれだけはーー」

「待てと言われて待つほど軽い罪じゃないんだよ。こいつは証拠として治安隊に提出させてもらう」

「あ、あの、どうかーー」


 ひとしきり解説を済ませると、男は「オミクロン」に弁解の時間を与えることもなく、颯爽と店から出ていった。


 オミクロン……二度連続で重傷を追って、治療費を出す金もなくなってたのか。

 それで今回、盗みに走ってしまったと。

 薬師さん、なんだか災難だったみたいだな。


 いやあしかし……ちょっと反省させるだけのつもりがここまでの波及効果に繋がるとは、人生もよく分からないものだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――

大変申し訳ございませんが、本作は一旦ここまでで完結という形を取らせていただきます。

本作はここカクヨムだけでなく、小説家になろうでも併載させていただいていたのですが、タイトル改修等どんな手を打っても、どちらのサイトでも全く書籍化ラインに到達できそうになく……色々思い悩んだ結果、ここでお話を終了する決断へと至りました。

最初のざまぁ展開までは一応書ききったのでどうかご容赦くださいませm(__)m

次回はもっと現在のランキング動向等を分析の上出直して参りますので、次回作にご期待いただけますと幸いです。

身勝手な判断となり重ね重ね大変恐縮ですが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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底辺おっさん冒険者の成り上がり 〜無能と馬鹿にされ続けた俺、実は人類滅亡級の魔物たち相手に無双できる【唯一の能力者】でした〜 可換 環 @abel_ring

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