第7話


「それで、あんなにこころよく招き入れてくれたのですね」


「とにかく理沙と卓也のことが視える方がいると思うと嬉しくて」


「偶然通りかかった俺が理沙さんに声をかけ上の公園のことを知り卓也くんと引き合わせた。結果まだ幼い二人は母親から長年聞かされ続けたあの男を殺すという想いを背負って目的を果たした」


「……全て私の責任です」


「あの男が亡くなったのはほんの一時間ほど前ですが」


「ええ、そのようですね」


「理沙さんが?」


「目を覚ましました。そしてママごめんなさいって……泣きながらごめんなさいって何度も謝っていました。理沙は悪くない、何も悪くないよって言いました」


「体は成長していても中身はまだ純粋な子どもですからね」


「はい」


「それで、理沙さんの容態は?」


「理沙は……理沙はすぐに息をひきとりました」


「そんなっ」


「きっと最後の力を振り絞ったのだと思います」


「……そう、ですか」


 泣き崩れる母親の隣で式条も同じようにショックを受けていた。


 理沙と卓也、兄妹を引き合わせるまではよかったがそのためにひとりの男の命を奪ってしまった。


 何も知らなかったとはいえ後味の悪い結果となってしまった。


「式条さん、あなたのおかげで二人ともやっとあの世にいけたと思います。本当に、ありがとうございました」


 泣きながらそう言った母親を見ていた式条は重く暗い空気を感じていた。


「お母さん、バカなことを考えるのだけはやめてください」


「……私は……私はこれからどうやって生きていけばいいのでしょうか。もう私には何もない……」


 式条は大きく息を吸ってそれを吐き出すとスッと立ち上がった。


「何もなくても生きていてください。もうこれ以上二人を苦しめないであげてください。あなたが生きて元気で笑っていれば二人もきっと笑顔でいられると思います。あなたはそうしなければいけない。それがこれからあなたが子どもたちのために出来る唯一のことだと思いますから」


 式条はそう言うと泣いている母親を残して病院を出た。


 外は二人の心とは裏腹に眩しい太陽が輝いていた。


 今まで自分はたくさんの霊の話を聞き成仏の手助けをしてきた。


 きっとこれからもたくさんこの世に未練を残した霊と出会うだろう。


 今回の件でわかったことは霊たちの力になるためには残された人間の想いももっと理解しなければならないということ。


 霊だけじゃない、救いを求めているのは今を生きている人間だということ。


 そう胸に刻みながら式条は力強く一歩を踏み出した。



           完





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救いを求めて クロノヒョウ @kurono-hyo

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