第2話 12年
そして14年後、赤子は少年となり無駄に大きな屋敷の中で食事を一人で黙々と食べていた。
貴族が食べるにはいささか質素すぎる食事を取りながらフィロは思案にふけた。
14年前から父は帰ってくることはなかった。
1年後に来た伝令曰くどこかで誰かを助けて死んだらしい。
そして今は母もいない。
父の死亡報告がされるとともに母は自分の命と引換えに新たな生命を生み出したのだ。
それが妹である。
精神年齢に引っ張られたのかは分からないが転生者だからと言ってこれといったことはしていない。この世界の基本的な勉強をこなし続けていた。
言い忘れていたがこのヴァセロ家は貴族家だ。
14になるまでの貴族としての責務は今の執事長と叔父上が行ってくれていた。
だがそれも1週間後には権限が私に移る。
そのために勉強もしたのだが最近になって我が家は領地を持たない貴族だと気付いたため、勉強したことの半分は意味がなくなったのは内緒である。
ちなみにこの世界の14になるまでに普通することは魔法、武具の鍛錬。基本教育の終了だ、大して教育のレベルは高くない。魔法、武具は……、14よりも下の年齢にさせるのは流石に危険だと思ったがどうなのだろうな。
食事を終えたフィロは料理人に礼を言って二階にある自分の部屋へと戻った。
重厚な木でできた扉を開けるとセンスの良さがうかがえるような木で出来た家具がフィロを迎えた。
せめてここだけでも良いものをとヴァセロ家の職人が手掛けてくれたものである。
イスに座ってだらだらと紅茶を楽しむのがいつもの日課だ。
少し、この世界の話をしよう。
この世界は日本で言うところの【剣と魔法の世界】だ。
だが物語で言われるところほどいい異世界ではなかったようだ。
多種多様な種族、生物、魔物がいる中、人類は最弱とも呼ばれるほどの生物だった。
と言っても最初からそうではなく、人類は人種と呼ばれる最初の種族で大昔では繁栄していたと言う記録が今でも残っている。
だが、それも上手くは行かない。
【獣族】【魔族】【エルフ】【ドワーフ】などが現れたことで情勢は一変する。
二足歩行で手先が器用という人類のみが持っていた能力は取られ、身体能力に置いても他の種のほうが明らかに高い。
結果、子鬼以上獣族以下といった生態系下位に属すことになってしまった。
俺だって最初に知ったときは耳を疑ったものだ。
人類の生存権だが、この王国が一番大きく人口は1000万弱ほどいるらしい。
他の生存権はほぼほぼなく、あったとしても集落でギリギリ生きながらえていると言われている。
要するにここが最後の砦なわけだ。
土地を持たない貴族の役割は、実際に前線にて戦うことだ。
貴族は血筋的に魔力が多く、強い人物が多い傾向にある。
平民でも強い人物はいるが稀だ。
そして、その多くが魔力を持たないため前衛を担う。
血筋が力になるのだから、優遇されている貴族は最前線に立つ義務が生じる。
まぁこうしなければ普通に人類は滅ぶからな。
午前中いっぱいを責務の引継ぎに使ったフィロは午後になると外の訓練場へと出た。
「……なんでお前がいるんだ。」
「私が居て悪いのかい?」
外へ出ると髪をショートにした美少女、いや美少年が仁王立ちして待っていた。
幼馴染の貴族仲間であり、悪友のロイだ。
幼いころから接しているため こいつが男だということは分かっているのだがどうもその美少女っぷりには脱帽する。
「今日こそ決着をつけようじゃないか。」
「はぁ……」
最近はことあるごと決闘を望んでくるのだが理由は不明だ。
今日は自主練でもあるし問題はないか。
「受けよう。審判は……」
「安心しろ連れてきている。今日は受けてもらえると思っていたからな。
見ればよく見るロイの付き人が手を振っていた。
用意周到なことだ。
「魔法は?」
「俺はどっちでもいい。」
「じゃあ使おう。」
言いながらロイが何かを投げる。
飛んでくるそれは刃が潰された実際の剣であった。
本当に用意周到だな。
数分後、俺とロイは訓練場の真ん中で剣を打ち合わせていた。
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かつて最強の男が異世界で下剋上を狙う〜もう最弱とは言わせない〜 八咫 @yatagarasu_16
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