かつて最強の男が異世界で下剋上を狙う〜もう最弱とは言わせない〜
八咫
第1話 死
新暦1000年。地球を長きに渡り守護してきた男がその役目を終え、消えた。
人々は嘆き、その長きにわたる役割に対して敬意を示した。
「お疲れさまでした。」 神子は自愛に満ちた顔で言った。
「もう少し生きてはくれなかったのかの。」 真祖はつまらなそうに言った。
「羨ましいのぉ」
不死の骸骨は恨めしそうに言った。
そして、500年前に死別した親友は後に
「頑張れ。」
と、呟いたそうだ。
そして100年後、異界の地の一角に産声が上がった。
暗闇に沈んだ思考が光に包まれ昇っていく。
鮮明に包まれ意識が覚醒した。
その目に映るのは優しげな顔をした女性と心配そうな顔をした男性。
俺は......、誰だ......?
何が起きているかわからず困惑する赤子の思考はすぐに体にでる。
泣きわめく赤子を女性が懸命にあやしていた。
そうか......転生したのか。
記憶がフラッシュバックする。
ここが何処なのかはわからない。装飾で言えばヨーロッパに近いが……。
だが……。
答えにたどり着いた時、体の体の根幹から何かが流れ出してくる。
そして、皮肉にも魂に刻まれたその記憶によって男はそれが何かを知っていた。
【魔力】
魂を構成する物質の一つであり、科学では観測不可能な未知の物質。
血液を巡る魔力が体外に溢れ出ると、部屋は淡い緑の光で包まれた。
「完璧だ。」
男性、いや父が感嘆の声をこぼした。
心配そうに赤子を眺めていた顔ではなく、いつの間にか威厳ある顔へと代わっている。
それを聞いて赤子を抱いている女は優し気に男に問いかけた。
「名前を付けてくださいませんか?」
男はしばらく考えた後に言葉を紡いだ。
「……【フィロ】、【フィロ】と名付けよう。」
「いい名前ですね。【フィロ】気に入りましたか?」
意識の中では驚き、言葉も出ていなかったが、赤子は反応を示した。
「ふふ。気に入ったようですね。」
「あぁ、安心したよ。」
そう言いながら父は何かを肩にかけた。
「それで、本当に言ってしまわれるのですか?」
「そうだな。この子が生まれた以上、問題はなくなった。後はできるだけ救出できるようにするよ。」
救出?何を言っているのだ……。
まだ生まれたばかりの赤子がいるんだぞ。
それに、その目は。
死ぬのを覚悟している目だ。
「この子にはヴァセロ家、いや人類の運命を背負わせてしまう。…生まれながらの
「それは本当なのですか?この子がどうしようもない息子になってしまうことはないのですか?」
そんなことは無いと知りながら母は父へと詰め寄る。
だが、父は首を振った。
「それはない。」
「…そうですか。」
父の強い言葉に
うつむきながら母が返した。
「たしかにこの子には生きてほしいさ。だが、時間がない。もう残されていないんだ。」
「はい。」
「今日、全身全霊をかけてアレにアクセスしたら異常なエネルギーがこちらの世界に押し寄せてきたのを観測できた。」
「異常なエネルギーですか?」
「そうだ。下手をすればこの世界全体と戦えるようなエネルギーがな。そして、そのエネルギーはこの子に入った。」
耳に響く高温の音が鳴り響いた。
「なんですって?今、なんと?」
形相を変えた母が起き上がり、父に詰め寄る。
父は真面目な顔で母を見つめ返した
「エネルギーがこの子に入ったんだ。」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙後、力が抜けたのか母が倒れる。
慌てた父が優しく抱えると、ベッドに戻した。
「分かりました…、この子には悪いですが、それならばしょうがないですね。」
「・・・あぁ。」
「言ってらっしゃい。私もすぐに向かいます。」
「・・・分かった。」
父が退出していった。
母は静かに涙を流す。
そしてそれを赤子の目は捉えていた。
一語一句聞き逃さぬように……。
この世界に初めてフィロ・ヴァセロが産声を挙げた、歴史的瞬間であった。
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