バニーの日なので
『うふふふ……今日はバニーの日……この
「———人の家で勝手に何してんのよ、アンタ」
……魔王を倒して数週間。
このような、コックとサナによる問答がなされていたのは———白とサナの家でのことだった。
『はっ……サナ様?!』
「いやだから、アンタ何してんのよ。……それより、その衣装何?」
サナがその杖で指したものは、押し入れの少し奥———コックが今まさに取り出さんと手に持っていた、それはそれはまあこの人間界には似つかわしくない衣装。
……網タイツ、ハイレグ……オマケに、ウサミミ。
『い、いやあ……少しその……マスターの物品を整理しようと……』
「———当のマスター……白がいない間に?」
『ギクッ』
大体最初の問答の時点でコックは詰んでいるのである。
「でぇ? その? 露出度の高く、なおかつやたらめったら貴女の胸と、そしてふとももと、あとナイスバディを強調するような服で? 貴女は? 何をしようとしていたのぉ?」
サナ自身は笑顔だったが、コックはその奥にあるドス黒い感情にはとうの昔に気が付いていた。
『あっ、いや、その〜……は、はは……』
「……ま、全部聞いてたんだけど。
アンタ———なに人の彼氏に手ぇ出そうとしてんの?」
『(とか言っておいてこの人たちまだ付き合ってすらいないんですよ! これは私も入り込む権利があるというものですよね!!)』
———読者に向かって話しかけるのはアウトだ。
「なんか言った?」
『あ、いえ、何も……』
しらばっくれはしたが、そんなもんでやり通せるわけはなかった。
「———ということで、ソレは捨ててきなさい」
『えぇ?! コレ……コレって、おそらくトランスフィールドから仕入れてきたもの……しかも私調べによるとかなり高価なものですよ?!
捨てるのは勿体無い……ということで、やはり誰かに着てもらうしかないように存じますが、私は』
ソレを受けて、サナは少し考える。
「……そうね。高価だって言うんだったら、まあ売ってくるもよし、別に使うのもいいんじゃない?
———でも、人の男を惑わすのは、や、め、て、く、だ、さ、い、ねっ!!!!」
サナが一言一言発していくうちに、コックの体はみるみる冷気に包まれる。一体いつ氷漬けにされるのかと、コックはヒヤヒヤしながら聞き過ごしていた。
『は……はい……』
◇◆◇◆◇◆◇◆
———そんなこんなで。
『はいーー! そんなこんなで来てしまいました、イデア様!』
「帰れ」
一言目からこの有り様だった。
コックが訪れたのは、人間界王都郊外にあるイデアの家……というか仮設住居。
イデアはどうやら色々な場所を転々としているらしかったが……コックにとって見つけるのは造作もないことだった。
『えっですからあの』
「帰れ。何度言わせれば分かる。
まさか? ヒトですらないヒトもどきが? この俺様を? そんな衣装なんぞで? 惑わせに来たと??
……フン、ソレならばお笑いだな。貴様の体つきは確かに素晴らしいものかもしれんが、残念ながら俺自身が、貴様の本性を遠ざけている。その手は無駄だと知るがいい、機巧天使」
———と、イデアは何かとコックに対しては辛辣なのだ。その胸の内をあまり明かさないまま。
『いっ……いえ、イデア様、この服は———』
「ダメと言ったらダメだ、帰れ。
———だが、そうだな……センならばありがたく貰うかもしれない」
『……セン……様、が……??』
貰って何をするのだろう。あんなに純粋なセン様が。などと考えるコックであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『失礼……しま〜す……』
そして、王都内のセンの家。
ちょうどこの時間帯は、セン以外の住人はいない時期であった。
「あっ、コックさん! こんにちは、今日はどんな用で……あれ……?」
玄関でノックもせずに入るなどした無礼な行動が目立つコックだが、そんなコックに対しても、センは温厚に接していく。
「その……服は……」
『ええ、元々私が使おうとしたのですが。ですが!!……ダメと言われたので、誰かにコレを渡そうかなと……』
……コックが手に持っていた箱……に入っているバニー服装。
ソレをまじまじと見つめ、目を輝かせる少年の姿が1つ。
「…………もらいます」
『はあ』
「くいなちゃんに、着せます。きっと似合いますよ、これ!」
『はあ……
(でもどこか淫らなイメージあるんですけど、本当に着せていいんでしょうか)』
「これ……無料でいいんですか?」
『はい! 元々私のですらないので!』
「はあ……
……あ……はあ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
———一方、その頃。白の家では。
「……ない。ない、ない、ない、ない……ないぞ?!
俺が……我が秘蔵の宝物……バニー服はどこへ?! どこ行った、アレ?!」
———そう、そのバニー服をあろうことか所持していたのは、コックなどではなく……白であった。
何に使う予定だったのかは定かではない。本人にとってもそれは定かではない。がしかし、
「へえ。あのバニー服、白のだったんだ」
「え……うん、そうだけど———っ」
がしかし、ソレを探している様子をサナに捉えられてしまったこの一瞬———それをもって、白の敗北は決定してしまったようなものだった。
「アンタ一体……誰に着せて、誰に色目使う気だったのよ!! このドアホーーーーーーッ!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『ふう……とにかく……元はマスターのでしたけど、あのまま放っておくのもアレですし……私のもの、という認識になってよかったですねぇ……
……さて、これからどうしようか———』
センの家を出たコックが歩いていると、その路地裏に何か———人のような影がいるのを感じた。
その影は何か……言われなくとも、コックはその答えについて知っていた。
「……センは何と言っていた、コック」
『あ……イデア様……
その……くいなちゃんに着せる、とか何とか……』
「分かっていないな。
———アレは、
『———は??????????????』
コックの疑問の声をもって、その影はどこかへ飛び去っていってしまった。
『なんか……その……
……そういうのは……他所でやってください……』
自作品その他色々謎短編集 月影 弧夜見 @bananasm3444
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