橙色の花
Daiキ
1.初め
僕の実家は新潟にある。
このままじゃ、永遠に新潟に囚われてしまうような気がして、大学に受かってすぐに僕は東京に住み始めた。
子供の頃の記憶はないわけではない。が、記憶力が乏しい自分はあまり何も思い出せない。初恋だったり、トラウマだったり、衝撃が大きい記憶でしか、僕の新潟時代は形成されていない。
正直、新潟にはいい思い出がない。ただ一つあっても、それはいい思い出なのか、わからない。
僕が記憶をできないほどにまだ幼い頃に彼女はこの町に引っ越した。砂漠みたいに何もないこの街は、いつも静かで老人が多くて、広いはずなのに、窮屈に思わせてしまう最低最悪な町だ。だから、きっと今考え直すと、彼女は最低最悪な町に引っ越した。
彼女とは同じ町に暮らすが、いつも会わなかった。いや、幼稚園が違えば学校も違う、高校も違えば何も違う。何もかもが違った。だがしかし、彼女と僕はきっと、億劫でか弱かった。
彼女を好きになった理由はわからない。幼い頃から見ていたから、単純に可愛いから、この町の若い者が可愛くないからか、地元を考えるだけで頭が痛くなるが、僕は今もずっと引きずっている。もはや、彼女しか愛せなくなってしまったのではないかと考えてしまう次第である。
彼女はあまり外には出なかった。どちらかというと、家で何かをしているから、話そうにもタイミングがなかった。しかし、いつ見ても見惚れるほどの美貌であった。正直、俺は男だし、女性の特徴や髪型の名前なんか知らないが重めの前髪に、ショートなヘア、大きな丸メガネにいつもキョトンとしてる目。唆る。見つめられた時の体が張り裂けそうな気持ち良さが分かるだろうか。。、とにかく、彼女は可愛かった。
しかし、やはり時は進む。幼稚園が違えば学校間も違った。正直好きになってから、彼女を何年も忘れてしまっていた。
久しぶりに私は実家に帰った。何年ぶりだろうか。お母さんの体調がよくないのである。帰ってみても何もないこの感じ、逆に幼い頃に戻れるような気もする。
母は癌のようだ。他に言うこともない。長らくの時間を使い果たして、僕は、東京に帰る日が来てしまった。
帰る最後の日に懐かしい人が僕の目の前にいた。彼女だ。やはり、可愛い。。話したこともあまりないから、何を話せばいいのかわからない。近くにいるはずなのに、遠すぎる心の距離と張り詰めて緩みがないこの感じと冷えた布の感触。最悪だ。一刻も早く帰りたい。
沈黙の中、彼女からこんな声が飛び出した。
「元気?」
他愛もなさすぎる。失った時を戻したいかのような、彼女の手と、彼女の視点。目も合わせないぐらいに私のことが嫌いらしい。
後は覚えてない。帰りの電車で僕の心が叫んで仕方なかった事だけは覚えている。少し前の出来事であった。
時が進むとやはりお母さんの体調は悪くなる。また一年が過ぎ、実家に帰る。それを何年か繰り返して、繰り返すたびに彼女と少し話せるようになった。今年も話せると思っていた。
彼女はいなかった。誰も知らないらしい。神隠しとかめんどくさいドラマが始まってしまったのだろうか。非常にめんどくさい。正直振り回されるのは嫌いである。
ただ、ちょっぴり寂しいような、寂しくないような、もどかしいこの気持ちは何であるのか、。きっと、わかっている。いや、認めたくない。そんな葛藤で僕は強がりながらその年は少し遠回りをして東京に帰った。
もう、会えないんだ。好きだったから、気持ちを伝えるべきだった。そんな心情があると思いたくないが、思っていることが全て顔に出てしまう。
私の顔は怖面で人を寄りつけない。
しかし、考え事をするといつも、どんな時も笑ってしまう。妄想をしている時が一番幸せなのである。私は孤独で将来も何もない。だからこそ、妄想に逃げているのである。
会えなくなって数年。私は立派な三十路になっていた。いつも、1人で少し堅苦しい東京都でいつの間にか自然を求めていた。
橙色の花 Daiキ @DaiSanTanChan
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