僕はやばい奴

@nluicdnt

第1話

 朝は意識して早く起きている。

 嘘だ。本当は夜、全然眠れない時がほとんどだから朝まで起きているのが正解だ。

 

 この間まで、薬を飲み続けていたけど、それの副作用により、今はあまり眠れない。

 随分前の職場では、派遣として勤めていたが、それを話したら解雇されると思っていたから話せずにいた。

 

 だから、何も患っていない健常者と同じ認識なので、要求されるレベルもそのくらいだった。正直言うとそれはうんざりだった。


 その職場は飲料水の運搬が主な仕事だ。

 ベルトコンベアーには封を綺麗に開けたダンボールを乗せる。それだけだが、俺にはそれがきつかった。流れ作業だし、ダンボールが足りなくなるから早めに注文しなければいけないが、その時の商品名をいつも忘れる。


 注文は毎回、名前が分からないが運搬用の機械を操作している人がいるからその人に頼まなければいけない。


 だけどその人は、めちゃくちゃ態度が悪い。何言ってもぶっきらぼうに返す。

 てっきり初めは、少し俺と同じで緊張しい人なのかと思ったが違った。


 それは現場。任されているチーフと休憩中や就業中に口汚く猥談をしていることから分かった。他の人とも普通に喋っていた。


 そうしていない相手は俺だけだった。


 多分、注文の商品名を何回も間違えたり、忘れたり、話しかけるタイミングとかが悪いから、そういうことになったのだろう。


 度重なる十時間労働で祝日の休みが無かったから、耐え切れずにバックれたら翌日、派遣社員の担当者から電話が何度も何度もかかってきた。


 怖かった。正直耐え切れないから殺してやろうかとも思った、あそこにいる社員を。

 全員野郎だったからある程度は仲良く出来るかもと思っていたけどとんでもない。


 どいつもこいつも自分が一番大変で偉いと言って忙しいアピールしたり、乱暴に指示をするクソどもばかりだった。


 そこの退職理由なら名前とか全部載せて投稿しようとしたこともあったけど、何か犯罪かもしれない、という嫌な予感により思いとどまった。今振り返っても嫌な思い出だ。

 

 そして色々あって二年後くらい経った今、僕は役所に勤めている。そこで僕は……。


「牛翼くん。どう? できる?」


「あ……はい」


「じゃあ、しっかり頼むよ」


「……あ、ありがとうございます」


 僕がお辞儀をするのを、その人は見ずに踵を返し、去っていった。そしてお辞儀を下げている僕に任せられている仕事は、資料をひたすらホチキスで止めるだけのものだった。


 見ようによってはラッキーだと思うかもしれない。こんな楽な仕事をして、結婚もしていないから稼ぎの少なさに迷惑をかけることもない。だから良しとする人もいるかもしれない。


 だけど、僕にとっては辛い。


 市役所のお荷物。そして人と全く話すことが無い。だから、ひたすらホチキスを留め、それを繰り返していると終業時間になる。


 入ってからずっとこれだ。

 

 初めて入った時からその予兆はあった。

 僕には全然仕事が回ってこないのだ。


 一つ仕事が終わると、何も指示はない。

 だから自分から仕事をもらいに行く。

 初めはそれで満足していた。自分もちゃんと役に立っているんだな、と思っていた。


 だけど、どうも仕事をください、と言った時に相手が困っているのではないか、と思う場面が増えていった。


 だから、ある日、仕事があるかどうか一切聞かなかった。そしたら、誰も僕に仕事を回すことをしなかった。そこで、僕は何もしない方が良いのだと気づいた。

 

 なぜそんな扱いなのか分からない。

 いや、もしかしたら分かっているのかもしれない。例えば、僕が少し重度の発達障害になっていることがそうさせているとか。


 これは事実だ。僕はADHDとASDを併合させてしまっている。幼い頃や社会人になりたての時とかは、それを全く自覚していなかったからか、空気が読めなく、やばい発言ばかりしていた。今でも、気を抜くとそういった発言をしてしまう可能性がある。


 そして、タチが悪いのが僕が冗談やからかいだと思ったことは、失礼だと言われるのは直そう、気をつけよう、と思うから良い。


 問題なのは、周りの人たちが冗談とされることが僕にとっては全然、冗談だと思えないことだ。自分が対象にされると全く分からないが、他の人に対して『デブ』だの『ニートやホームレスは死んでも悲しまないからデスゲームに参加させて良い』なんていう言葉を僕は冗談だと受け取ることはできない。


 だけど、周りの人々が面白そうに笑うから、そこでそれは言ってはいけない、なんて指摘でもしたら、それこそ冗談にマジになる空気が読めない奴。冗談きかないつまらない奴、とされて結局は白目剥くほど白けた笑いをするしかないのだ。だが、それは僕にとっては悪事に加担するようなことで苦しかった。


 そういうのが原因で離れたことも何度かある。そういう発言は小学生あたりで卒業すべきことなのに、分からないのか?


 まあ、どちらにせよ僕が他人の気持ちが全く分からないのは確かだ。


 そして、飲料水のバイトでも言われたことをすぐに忘れることなどすることもあったが、あの後の就職先も何回言われても覚えられない、指示を忘れたり、誤って認識したりしてしまうことで、ふざけていると評価される。それにより解雇になる、の繰り返しであった。


 流石に、自分は真面目にやっているのに多くの人々からふざけてる、と認識されるのはおかしいと思い、行きつけの精神病院でそういうのを、診断テストをしたところ、ADHDと ASDが併合しているというのが分かった。


 それを自覚した後に今の職場にいる。


 どれだけ気をつけても、空気が読めないのは変わらないのだろう。


 だから、なんとなくもし未来で生きていたら、俺は今とほぼ何も変わらない。そんな生活をしているのだろう。


 休みは全く趣味が無い。だからネットを見る。煽り記事を通して、今、何が起きているのかを知る。ネット掲示板は僕にとってはニュースと同義だ。


 コメントはしない。だけどコメントを見ることはある。そしてそれに対し一喜一憂したり、怒鳴り散らかすことだってある。


 キレ慣れていないからか、キレると感情が一気に昂り殺意が湧いてくる。よって怒鳴り、壁ドンしてしまうことがある。


 そんな時に隣の住人がいると、同じ壁ドンで、うるせえぞ、と言われたり、あるいは直接、僕に苦情を入れてくる。


 正直に言うと、それに対してナイフを突き付けたくなるような衝動に駆られる。


 だけど、それについては親の教育が良かった? と言えるからか、自分が悪い時は何も言う権利は無い、と口酸っぱく教えられていたので、苛立ちや怒りを抑え、素直に謝れる。


 本当は心の中では、そういう態度を取るから人から舐められるんじゃないか? と思っているが、長年しみついた習慣を治すことはできない。だから、そうしてしまっている。


 それについては問題は無い。いつかこらえきれなくなる危険性に目をつむれば。


 問題なのは、僕の場合それを他人に強要してしまうことだ。特に、最悪なことに自分より立場や歳が上の人物に腹を立ててしまう。


 子どもとかであれば、ある程度は仕方ないと思える。子どもだから、自分が悪いことであっても認めることはできないよな、と少しだけ微笑ましく見てしまう時がある。


 だけど、たとえ子どもであっても、たとえばグループのリーダーや、そいつに媚びるしか能の無い奴は子どもと認識しない。

 

 そいつは、子どもの姿をしているだけで中身は、自分がやることなすことは良くて、相手のやることなすことが気に入らないことであれば、すぐにキレ散らかす、パワハラのクソ野郎だ。今まで出遭ってしまった奴らと顔が被る。


 だから、暴力を振るうことはまず無い、と思うが、そいつを助けることはないかもしれない。


 大人であれば論外。特に恰幅が良くて偉そうにしている野郎だったらその場で命を断ちたくなる。


 相手はダメで自分がやるのは良い、そういうことを平気でやり、且つ自覚がなくて、自分は悪くない、と正当化する奴は大嫌いなのだ。


 例えば、電車の中で思い切り喋っていたら相手が子どもであれば、少しだけへりくだりながら注意するが、大人であれば殴る。

 反抗めいたことをしたなら尚更だ。


 まあ、僕の本質は自分が出来ることを相手ができなかったら許せない、ということなのだ。そしてその気質が強すぎる。


 まあ、嫌な方向で真面目で融通が効かないつまらない人間ということだ。

 

 だから扱いづらいと思われるのは当然なのだろう。


 でも、その気質、強すぎると自覚していても、抑えきれなくなることが多い。


 その形がやばい時に出るのは、ふとインスタグラムに出てきた昔のクラスメイトの投稿を見た時だ。

 

 良い就職先、結婚、たくさんの周りの人たちとの写真、同僚、後輩、先輩、何かしらみんな繋がりがある。


 僕は違う。僕だけが違う。


 それはまだ納得できるものもある。


 僕は才能が無い、とか、ちょっとやって勝負に負けて馬鹿にされたらやめるの繰り返しだった。何一つ頑張ってきたことは無い。


 なら、負けても仕方ないと思う。


 でも、だけど……だけどさぁ、なんで小学生の時に、運動ができたり勉強ができてそれを鼻にかけて周りを馬鹿にしまくっててみんなから影で嫌われているクズとか、顔や表だけが良い面してて、裏では最高に他人の悪口を言ってて、それだけでも噴飯物なのに、女子の前で本人に気づかれないように集団で臭い臭いと騒ぎ続けた最低のクソ男や、大学時にヤリサーに入っていっぱい女の子を喰って、それに飽き足らず妊娠させて、中絶を強制したり、中学や高校で喧嘩に明け暮れて、相手の鼓膜を壊したりしたクズどもの方が成功した人生歩んでるってなんだよ!! こっちはそんなことせずに、文句も言わずにやったんだぞ!? 確かにプラスの要素は無かったかもしれない。だけど、マイナスだって一切無いだろ!? あったとしても、今のような奴らに比べればカスみたいなもんだろ? なのになんでそいつらはなんだかんだでちゃんとした公務員、体が上の警察、警視庁とか、あとは一流会社に就職して人と関わりが沢山あるのに、なんでマイナスが無い俺がこんなになったんだよおかしいだろ!!


 いや、もしかしたら俺も何かしらのマイナスなことを犯しているか? だとしてもそいつらの方がよっぽどやばいだろ!!


 なんで非道なこどやった奴が何食わぬ顔で謝ることもせず、反省もせず、誰からも責められないで、平々凡々と暮らして順風満帆の人生を歩いてんだよ。おかしいだろどう考えても。


 発達障害持ってて、自然と人と違う言動しまくる奴がそんなに悪いことなのかよ。

 やらないように、迷惑かけないようにって思いながら生きているのに、何も報われないのかよ。


 そういう気遣いとかしすぎる内に、精神の病を色々患って未だに薬を飲みながらの生活だ。以前よりかはずっとマシだけどな。


 発達障害だから仕方ない、なんてことにはならないことも知っていた。そんなこと言うとポリコレカードバトルとか、そんな揶揄する言葉なんぞあるくらいだ。


 発達障害は甘えらしい。

 精神の病や身体の酷い病とかで八つ当たりするのはある程度、許される。


 だけど発達障害は何か少しでも起こしてしまった時、例えば話を聞いていないと判断された時、ふざけていると判断された時、感情が爆発してパニックになった時。

 そういうのに発達障害を使うのは言い訳らしい。


 だからどうするか、謝るしか無いのだ。

 

 僕が発達障害なんです、なんてことを言ったら言い訳とされるだけじゃなく、他の人で僕と同じ特徴持ってる人はますます言いづらくなってしまう。


 だから謝罪をひたすらして、相手に許してもらうのを待つしかないのだ。


 反論したり、でも、なんてことを言い出してはいけない。そうすると人の言うこと素直に聞けない、反抗的だとみなされてしまう。


 社会人なりたての頃や、学生時代なんて先輩や先生にはよく言われた。言い訳するな、と。


 好き勝手やった奴が、人生では得をすることが分かるよ。適度に自分より弱い奴を見つけて、ストレス発散する。それが利口だ。うまい世の中の渡り方だ。


 あるかどうか分からないけど、天国や地獄を考えた人たちがどういう人物か、なんとなく分かる気がする。


 あ、そんなことしていたら、何か久しぶりに大学時代の数少ない友だちからLINEが来た。


 覗いてみると、今度、合コンをするらしいからその人数合わせに来て欲しいとのことだった。


 自分で言うのもなんだが、こういう時の察しは良い方だと思う。


 おそらくこれは人数合わせ、と言うが友だちは選んでいる。俺はブサイク枠としてレベルが低い見せ物という意味なのだろう。


 だけど構わない。例え人数合わせであろうと女性との出会いは求めても良いはずだ。

 

 別に良いと思うんだ。男性が女性との出会いを求めることくらい、なんてことない普通のことだ。変態のオッサンじゃない。


 僕はその誘いを受けた。


 そして合コンの日、その時の記憶は今でもある。


「あ……その……僕は健吾と言います。よ、よろしくお願いします!!」


 緊張でお辞儀をしたところで俺の合コンのゴングが鳴った。だけど不安だった。


 自己紹介の前まで僕はずっと喋っていなかった。もちろん、久しぶりに会った友だちとは普通に話が出来た。


「あ、久しぶり〜!! けんご〜!!」


「あ、颯太、うん、さっしぶり」


 俺以外にも一人いたけど、そいつとはそんなに喋らなかった。というより会場に着く前から颯太は俺よりもそいつと話し続けていた。


 というかほとんど俺には話しかけるのことをしなかった。


 颯太とそいつが時々、声を小さくしてコソコソ何か話しているのが聞こえたが、何を言っているのか分からなかった。


 でも何となく話している内容は分かる気がする。チラチラと時折こちらを見る二人の目で分かった。


 颯太の目はあの頃とは、全く違う色の目をしていた。


 そんなことをしていると会場に着いた。

 隠れ家みたいな小さなBARだ。

 二人が話しているのを聞いていると、女性陣が来た。


 一眼見て可愛いと思った。だけど、緊張して、何の話を聞いているか理解できなかった。

 

 ほとんど生返事に近い物言いだったからか相手の女性はどこか不満そうな顔をしていた。


 そしていよいよ合コン開始の時間となった。そこで俺は冒頭のような挨拶をしてしまった。


 声が止まりはじめ、止まりまくるし、何を言いたいのか分からなくくらい頭がこんらんする。だけどここで帰るのはある種のルール違反のように思えたから帰らなかった。


 でも、ここで帰った方が良かったかもしれない。


 その後、僕はものすごく無理をして喋りまくった。何しろ、久しぶりにまともに人と喋るものだから、とめどなく、それこそノンストップで話し続けた。


 沈黙が怖かった。いや、というより誰も僕に話しかけない、僕に興味を持ってくれない、なんて自体なると想定していたから、そうならないように頑張っていた。


 でも、よく考えると場の空気とか、人の表情とか何も考えたなかったし、見てなかった。その時その時で笑い声が聞こえたから、よし、良いぞと思っていた。


 だけど、その笑い声は渇いていた。

 そんなことに気づかない僕はとにかく喋りまくってしまった。


 最も、そのことに気づき始めたのは、突然、颯太が「ちょっと、男性陣でお手洗い行ってくるわ」と言った頃だった。


 まだまだ話していたかったし、場の空気を盛り上げたいと思っていた。というよりこの時の僕は自分がこの場での主人公だと思っていた。


 だけど、それはとんでもない勘違いだったことに次の瞬間、気づく。


「ちょっと無いわ」


「人の都合、考えて欲しい」


 ドキッとした。

 その声は後ろから聞こえた。声の質から女性だと分かるし、聞き覚えと十分にあった。

 だから、合コンの女性陣がいった言葉だと認識した。


 怖くてその場を振り向くことはできなかった。彼女たちが睨んでいるような気がしたからだ。


 初めはそれでも気のせいだと思い込んでいた。俺は馬を盛り上げた、そうだと信じていた。


 だけどトイレに入った時


「お前さぁ、少しは空気読めよ」


「え」


 後ろ頭を叩かれたような、衝撃の言葉が放たれた。隣を見ると、顔をしかめている颯太と、鬼のような形相で睨んでいるその友だちが見えた。


 そこで初めて僕は自覚した。

 さっきまでの自分の行動は、馬を盛り上げたわけじゃない。むしろ逆で場をしらけさせ続けていたのだということに。


 妙に引き攣った笑いが口から出そうになったけど、それは颯太の言うことにかき消された。


「お前ひたすら同じような話する馬鹿がいるか? しかも話が全部、軒並みつまんねえし、あの子たちとか可哀想だったぞ? 初めへ聞いていないで無視していたけど、それでもしつこくお前が話しかけるからさぁ、反応して。そしたらお前、何勘違いしたのか調子に乗ってどんどん話し始めてやがるんだもんよぉ! ビックリしたよ、いくら空気が読めなくて他人の気持ち分からない奴でも、ここまであからさまな態度されたら気付くぞ!? なんで気付かないんだお前は!? 普通の人間なら気付くぞお前、大丈夫か脳がおかしいんじゃねえのか!?」


 あぁ、またやってしまった。


 あれだけ怒られて感じたのはこれだけなのか、と呆れる人もいるかもしれないけど、僕はそう感じたんだから仕方ない。


「お前選んだの失敗だったかなぁ」

 

 その言葉は最後のトドメの針となった。

 今でも、深く頭に突き刺さっている。


 その後、僕がどうしたかは詳しくは覚えていない。ただ、ひたすら他人を困らせないように黙り続けていたと思う。


 ほとんど意識が無く家に帰っていた。

 どうやって帰ったかもよく覚えていない。

 こういう表現って昔は過剰で嘘だと思っていたけど、本当にそうだった。

 

 ありえないほど気分が落ち込むと、目の前が真っ暗になることを知った。


 多分、颯太はもう二度と僕を合コンに誘ってこない、いや、合コンだけじゃない。他のイベントでも、まず僕を誘うことは無さそうだ。


 ふと、気分を紛らわせたくて家にある漫画を読んだ。するとたまたまこれまでは気に求めていなかった台詞に目が止まった。


『何もしていないっていうのは、相手を傷つけているのと同じだからな』


「……知らねえよ……んなこと言われても……」


 あ、ダメだ。なんか一気に流れてくる。


「何もしていない奴は世の中傷つけているって言いてえのかよ。そしたらなんだ? 別に何者でもない何かしてきたわけじゃない俺は存在が罪だって言うのか? ざっけんじゃねえぞ!!」


 バガン!!


 壁に当たり漫画本が破裂するような大きな音が鼓膜を揺らしてきやがる。不愉快だ。

 めちゃくちゃ不愉快だ。


「俺だれにも迷惑かけないように生きてるだけだろ!! ニートでもない!! 才能や技術、実力が無かったから甘んじて現実受け入れて毎日クソがつくほどつまらねえ毎日すごしてそれでも我慢我慢とひたすら抑えて生きてきたんだよこっちは!! 頭の出来がガチでどうしようもなく悪いから人が簡単に出来ること理解できるのが全くできないしわかんねえから劣等人間だからこうやって我慢して今時あるはずのない窓際社員もどきみたいな感じで会社で誰ともまともに話さずに生きてきて、それが罪だっていうなら!! 俺は!! どうすりゃいいんだよおおおおおおお!!!!!!!」


 ドンドンドンドンドン!!!!!


「うるせえぞ!! 今何時だと思ったんだ」


「るっせえ!!! ぶっ殺すぞクソ野郎!!!!!!」


「あ? てめ……」


 舌打ちが聞こえた瞬間、我に帰った。

 あ、やばい。俺とんでもないことした。

 自分がうるさいのが悪いのに、相手を怒鳴りつけた。どう考えても俺が悪くて、謝らなければいけないのに怒った。自分勝手が酷すぎる……いや、待てよ……俺は知っている、知っているはずだ。隣の奴がどういう奴かを。


 俺の時は少しでも音立てると怒るけど、隣が自分より強そうな強面タンクトップにはどんなに部屋の音がうるさくても文句を言わない。あと女に弱くて新しく住み始めた女子大学生やOLとかにはデレデレした態度をとっているロクに栄養をとって無さそうなガリガリの身体ををしている奴だ。

 なのに髪型だけはホストみたいにイケイケな感じで金髪やら茶髪やらしている。

 自分より弱そうな奴に強気な態度で強い奴には媚びへつらう。そして!女であればすぐ媚びる姿勢を見せる。

 

 こいつ……この世に必要か?

 俺の方が発達においてハンディキャップがあるにも関わらず、まだまともに生きているのに、こいつは昼間からアパートに入り浸っている、いわば無職だぞ?


 …………うん、決めた。


 覚悟を決めた時、乱暴にノックする音が聞こえた。俺は台所で持つべき物を手に忍ばせてドアに近づいた。


 ガチャリ


 扉を開くとそこに、ブサイクな青髭面のホスト気取りのゴミがいた。


「おい、おま……え……」

 

 名前も覚えていないそいつの言葉はそこで終わった。当たり前だ、そいつはもう俺の部屋の中で額を貫かれて死んでいる。そんな奴に抵抗力なんてものは無い。


 やっぱど俺のことを舐めていたのだろう。

 俺の方向に人差し指を差そうとしているのは悪わかりだった。だから、めざわりだと思ったから頭に包丁をブッ刺してやった。


 そしたら、口を『あ』の字にしてそのまま動かなくなった。隣のクレイジークレーマーはあっけなく死んだ。ゴミと変わらないな。


 そう思った時、僕は初めて人を殺したという自覚が湧いた。


 人を殺したんだ。ここで叫び声をあげたり、そうじゃなくても警察に連絡したり、アリバイの偽装工作をしてもおかしくはない。


 だけどそうしなかった。理由はごく普通の感情だ。特に子どもに多いような忘れかけの感情だ。


 飽きとからだ。もっと言えば、こんなものか、という思いが強かった。

 もっと罪悪感とかがあったり、そうじゃなければ自分が殺した死体に興奮でもするのかと思った。でも、全くしなかった。


 罪悪感も興奮も全くしなかった。

 なんか、あ〜こんな感じか、という思いになった。もしかしたら何も感じていないのかもしれない。ただただ殺した死体を見つめているだけであった。


 もしかしたら、こういう時って、ごめんなさい、とか何かしらの罪悪感が襲うのだろうか。だとしたらある意味この人には謝りたい。殺してもその気持ちが湧かないことに。


 あと全然、自分が悪いと思えない。この人が被害に遭っているのに。どう考えても僕を怒らせたこの人が悪いと思ったしまう。


「あ、そうだ。埋葬しよう」


 僕は給料が安いけど、長年、家賃や食費とか意外には使わず過ごしていたお陰で、車を買うことが出来ている。


 もちろん、中古車だけどそれでも満足なんだ。小さいけど我慢してくれ。


 まあ、血は乾くだろうから、ティッシュとか、あと玄関だから座布団みたいなのを置けば良い。


 うーん、新聞紙取っておいて良かったな。

 こういう時のためにあるんだなぁ。

 これでこの人を包み込んで…………………あ、鍵とかもかけなきゃ。指紋がつかないように手袋とかして……まあ、あとは誰も出てこないと思うし、もし来ても問題ない。


 よし、じゃあこの人を……う〜ん、重いな。よし、小分けしよう。これが豚や牛とか罪がない生き物とか僕に危害を加えない人物だったら心が痛いけど、この人なら何も心が痛まない。


 そこから、約一時間かけて小分けにしてそれぞれ新聞紙に包んだ。あ、そうだ。ポリ袋にでも入れておこう。そうすれば怪しまれないと思う。


 そんなこんなで準備を整えて部屋から出た。鍵をかける。そしてこの人の鍵もかける。んでコンビニ気分で車を発進。


 その後は実にシンプル。海に新聞紙ごと投げて沈没させた。う〜ん、良いのかなぁ。

 これはまあ埋葬かどうかは別として、これ大丈夫かな。頭悪いから分からないけど、環境汚染とかにならないよね。


 それだけが心配だ。でも、なんとなく一仕事した気分になれたし、これはこれで結果オーライだ。あの人が怒鳴り込んで来た時はどうしようと思ったけど、結果的にはストレス解消になった。

 

 どうやら人との関係はまだでは無かったようだ。


 一週後に、あの人への行方不明届けが出されたらしい。初めは名前を知らなかったから配信とかで見てもピンとこなかったが、近所の噂を聞いて確信した。


 もしかしたら、時期に僕は殺人罪で逮捕されるかもしれない。でも、それならそれでも良い。


 まあこの余裕はまだ一人だし、と思っているからなのかもしれないけど、なんか違う気がする。

 

 だってこんなにスッキリしたのは初めてだ。逮捕されるかもなんて思ってたら、僕はビクビクしてしまう。そうなっていないのは、楽しかったということだ。

 

 やっと生きがいを見つけた気がする。

 でも、死刑にならないためには我慢しなきゃいけない。少し辛い。


「そういえばあの夜、あの人、隣の例の人にうるさいって言ってたらしいわよ?」


「へぇ〜、怪しいんじゃねえか?」


 どうやら僕の生きがいは続きそうだ。

 

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