今度こそ完璧な計画を
私に付きまとうクーガーが「ラティオ」で出版した本に目を通さないはずがない。
そしてクーガーはある意味では私の理想の読者でもある。理想過ぎて、それでおかしな具合になってるんだけど。
クーガーは謎に正面から取り組む。
たっぷりと時間をかけて読んで、ああでもないこうでもない、と推理を巡らせる。
そして最後には謎解きで探偵にコテンパンに打ちのめされる。
そうなるとこの子は「負けた! 悔しい!!」となって、本気で探偵に怒りだすのである。
私としては嬉しいような、そんなに怒るなら無理をして読まなくても、という態度を決めかねる状態になるのだ。
よほど悔しいのか、クーガーはその内、あまり読まなくなったような気がしていたが……何故「輪と零」を読んだのか気になる。
その辺りをぼやかしながら尋ねてみると、
「ああ、それはキスパっていう、今度妹になる奴が『この本についてスイーレに文句がある』って言っててな。それで読んだんだ」
キスパ――オリキスパピリオ殿下ね。
王家にはそういえばもう一人いるんだったわ。スカルペアの影響で足が不自由だとは聞いていたけど。
そのまま話を聞いてみると、キスパ殿下はどうやら文壇の支持者、と言うかお立場を考えると文壇の支援者の可能性があるわね。こっちの小姑は厄介そう……ああ、それで妃殿下は内緒話みたいに私に?
「で、今までなら”負けた!”っていう気分になるんだけど、あの本は爺さん衛視――ええと、セルヴァって名前だったか――が本当に頑張るんだよ。それで応援しちゃってさ。爺さんが操車場の瞬間を見つけた時には俺も叫んじまって」
私がそんな風に王家についての謎解きを考えていると、クーガーが興奮して私に訴えてくる。
私は頬が赤くなるのを自覚してしまった。夕焼けが上手い具合に誤魔化してくれればいいんだけど。
「それは……ありがとう。作者たちにも伝えておくわ」
「うん、よろしく言っておいてくれ。あの爺さんが出てくるのなら、他にも読みたいしさ」
思った以上に好感触。
これは続きを――そうだった!
「ね、クーガー。アハティンサル領に行くわけだけど……」
「そうだ、それもあった。スイーレは――」
「行くんだけどね。あなたは先に行ってて。私は後から行くから」
途端にクーガーが泣きそうな表情になる。
だけど、すでに私はクーガーを説得するための理屈は組み立て済みだ。
「あなたは直感ですぐに対応できるけど、私はきちんと調べないとダメなタイプだから。そうして二通りの方法でアハティンサル領に立ち向かうわけ。夫婦でお互いに補いあう感じ」
「そ、そうか……夫婦……」
思った通り「夫婦」という単語に食いついたわね。
そこですかさず私は、さらに言葉を重ねる。
「でも今は結婚式前だからね。つまり婚約状態。婚約してる間の約束あったでしょ?」
「そ、それはあったけど……今までは近かったから……」
「大丈夫よ。妃殿下と取引してね。アハティンサル領との連絡強化については確実に行うように約束してもらったから」
それが、私のおねだりだったからね。
「最初は多少時間がかかるけど、時間が経てばそれが短くなっていくのよ。頑張ろうって気にならない?」
「う、う~ん……」
「それに連絡がスムーズに行われないと、私は『ラティオ』諦めなくちゃならな――」
「そうか! それは嫌だ!」
そ、そう?
まさか、こっちでこんな反応があるとは思わなかったわ。
よっぽど「輪と零」の続編が読みたいみたい。
「――わかった。俺は先にアハティンサルに行くよ」
そして私はクーガーの言質を取ることに成功した。
私も後から行くとは言ってるけど――いつ行くのかは明言しないままに。
結局神聖国はクーガーと私が揃っていることが嫌なわけだし、クーガーが西からいなくなれば余裕は結構あるはず。
その間にあれこれ済ませて。クーガーに指示を出して。資金をかき集めて――
――今度こそ完璧な机上の空論でアハティンサル領を治めてみせるんだから!
Fin
目指すは完璧な机上の空論~打ち破るのはいつもあの子~ 司弐紘 @gnoinori
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